はじめに
「電子構造論による化学の探求 第3版」というGaussianの教科書をご存知でしょうか。Gaussian計算に関する多くの話題や問題が掲載されており、あくまで個人的意見ですが、初心者から上級者まで習熟度に関らず、Gaussianを取り扱う者にとってはお勧めの一冊と思います。ただ、全くの初心者にとってはやや難しいと思われる内容や表現もあり、このブログではこの教科書の例題・演習問題の内容を補足・解説していければと思います。今回は例題2.1について採り上げます。
インプットファイルについて
Gaussianのインプットはテキストファイルとして扱うことができます。実際、45ページに記載されているインプットの内容を適当なテキストエディタで作成し、gjfファイルとして保存すれば、例題2.1のインプットとして利用できます。GaussViewなどのビューアソフトが普及していなかった時代には、カルテシアン座標(xyz座標)を与える代わりにZ-マトリックスという方法を用いて分子構造をテキストで指定していました。現在はGaussViewのようなビューアソフトでインプットを作成することが主流ですが、インプットの作成・閲覧にビューアソフトが必須ではないことは知っておいて損はありません。分子構造の座標情報さえ何らかの方法で取得できれば、後は45ページのような決められたフォーマットに従ってテキスト編集すればよいからです。特に、同じ分子構造を別の計算条件で計算したい時や、エラーで止まってしまったインプットを修正する時などに、テキスト編集は便利です。またテキストファイルですので、Gaussianインプットは(ついでに言うとアウトプットも)異なる環境でもファイルの受け渡しが容易という特徴があります。
45ページのインプットでgeom=connectivityと分子構造欄の次に羅列されている数字は、原子間の結合次数に関する情報を表していますが、通常の量子化学計算では結合次数の情報を利用しないので、省略することができます。したがって、以下のインプットファイルでも同じ計算結果を得ることができます。(geom=connectivityと原子の結合情報の数字の片方だけを省略することはできません)
%chk=form.chk
# APFD/6-311+g(2d,p)
Formaldehyde Energy
0 1
C -1.78001774 -0.58048206 0.00000000
H -1.24484917 -1.50703189 0.00000000
H -2.85001773 -0.58067672 0.00000000
O -1.15101602 0.50943876 0.00000000
最後にどのようなインプットであれ、最終行に空白が必須となります。この空行はよく忘れられがちなので、注意しましょう。
エネルギー値について
教科書の47ページに計算結果のまとめの図が掲載されていますが、これは45ページのインプットの計算結果ではないので、注意が必要です。45ページのインプットを実際に計算してみると、エネルギーは、-114.437635ハートリーとなります(Gaussian 16 Rev. B. 01計算)。Calculation Method欄のRAPFDとは、計算手法としてR(Restricted:制限付)のAPFD法を採用したことを意味します。ラジカル分子の計算を除けば、通常は制限付で計算しますので、RAPFDはAPFDと同義と思って差し支えありません。
ちなみに、APFDではなくB3LYP(=RB3LYP)で計算すると、教科書とほぼ一致するエネルギー値が得られます。