今回は、Samsung製のデータセンター向けM.2 SSD「PM9A3」の検証内容についてまとめました。
概要
前回の記事(※)に引き続き、お客様からのM.2 SSDに関する要望が増えていることを受け、各種M.2 SSD製品の検証を進めています。今回はその中でも、エンタープライズ向けに展開されているSamsung製「PM9A3(M.2)」を取り上げ、実際に性能検証を行いました。PM9A3は、データセンター用途などを目的に設計されたSSDであり、信頼性や安定性を重視した製品です。
本記事では、その特性をコンシューマー向けのM.2 SSD「980PRO」と比較しながら、性能面や使用感の違いを検証していきます。
※前回の記事:ASUS M.2 アダプタ 「HYPER M.2 X16 GEN 4 CARD」性能検証
検証内容
比較にあたって注目したポイントは以下の通りです。
- M.2 SSD 1枚での性能評価
- 高負荷時の性能・温度の変化
検証環境
検証対象
・Samsung M.2 NVMe SSD PM9A3 960GB
エンタープライズ向けNVMe PM9A3です。フォームファクタはU.2/E1.Sなどがありますが、今回はM.2を使用します。
表面上には電源供給を補助する部品などが多く搭載されているのがわかります。裏面もチップ類が多く積まれています。また20110の大きさのため、搭載可能なスロットかどうかを確認する必要があります。
コンシューマ向けのNVMe 980PROです。フォームファクターはM.2のみになります。PM9A3と比較すると、コンデンサなどの部品が少なく、片面のみの搭載になっています。
機体
・筐体:HPC3000-XSRGPU4TC
・CPU:Intel Xeon 6448Y
ソフトウェア・その他
・OS:Windows Server 2022、AlmaLinux
・計測用アプリケーション:CrystalDiskMark、fio
・M.2アダプタ:ASUS HYPER M.2 X16 GEN 4 CARD
性能測定・評価
M.2 SSD 1枚での性能評価
まずは、「PM9A3」と「980PRO」の単体性能(M.2 SSD 1枚)を、CrystalDiskMarkを用いて測定しました。NVMe SSDの本来の性能を引き出すため、キュー深度やスレッド数などの測定条件は最適化しています。
以下のグラフにカタログスペックと実測値を比較しました。
・PM9A3 960GB ※カタログスペックはU.2モデルを参照
M.2モデルの公式スペックが公開されていないため、今回はU.2モデルの性能と比較を行いました。
厳密な比較は難しいものの、全体的な傾向としては大きな乖離は見られませんでした。ただし、ランダムライト性能に関しては、カタログスペックを大きく上回る結果が得られました。
・980PRO 500GB
測定結果は、公表されているカタログ値を上回るか、少なくとも同等の性能を示しました。
・PM9A3(960GB)と980PRO(500GB)の性能比較
シーケンシャル・ランダムいずれの項目でも、980PROがより高いパフォーマンスを示しました。特に、書き込み性能(Write)においては両者の差が顕著であり、980PROの優位性が際立っています。
高負荷時の性能・温度の変化
続いて、連続的な書き込み処理によるSSDの状態・性能変化について検証を行いました。
各M.2 SSDに対して、fioコマンドを用いて20分間の連続書き込み負荷をかけ、温度変化および性能の推移を測定しました。
なお、項目4の検証同様に最大性能からの変化を観察するため、測定条件は最適化しています。以下は、測定結果をシーケンシャル・ランダムに分けて比較したものです。
※グラフ上の赤線・数字は項目4の検証にて測定された最大性能です。
・シーケンシャル性能
・ランダム性能
・温度について
温度の最高値はPM9A3と980PRO共に51度の結果でした。
今回の測定環境はエンタープライズ向けの空冷性能に優れたマシンであったため、サーマルスロットリングの発生基準である80℃には達しませんでした。
PM9A3は、外観から見て取れるように制御部品が多く、消費電力も980PROより高め(PM9A3:8.0W、980Pro:5.4W)です。
のことから、PM9A3のほうが発熱しやすいと予想していましたが、実際には両モデルとも同じ最高温度(51度)にとどまりました。
この結果は、PM9A3が高負荷環境下でも熱による性能低下を防ぐ設計がなされていることを示していると考えられます。温度上昇も980PROと比べ穏やかであり、効率的に放熱し、内部温度をコントロールしていることがわかります。
・性能について
サーマルスロットリングによる大幅な数値低下は発生しませんでしたが、キャッシュ切れと考えられる速度低下は確認されました。
PM9A3では一定時間にわたり安定した数値を維持しており、キャッシュ切れ後も最大性能からの大きな乖離は見られませんでした。
一方、980PROは書き込み処理において、一時的に高速な書き込み(シーケンシャル約5,000GB/s・ランダム約1,000,000IOPS)を示した後、キャッシュ切れにより1/5程度に処理性能が低下(シーケンシャル約1,000MB/s・ランダム約1,000,000IOPS)する挙動が見られました。この点においては、980 PROの動作はやや不安定に感じられました。
これらの結果からも、PM9A3がデータセンター向けに設計された高い安定性と持続性能を有していることを示していると言えます。
まとめ
今回の検証では、Samsung製のエンタープライズ向けSSD「PM9A3」について、コンシューマー向けの「980PRO」と比較をして、その特徴を明らかにしました。
- PM9A3は、長時間の連続書き込みにおいても高い安定性を維持し、温度上昇も非常に穏やかで安定した動作を見せていました。
- 特に、キャッシュ切れ後も処理性能の大幅な低下を抑制する設計は、データセンター向け製品らしい「安定したパフォーマンス」を裏付ける結果となりました。
- 一方で、980PROは短期的なベンチマーク性能においては優れた結果を示しましたが、キャッシュ枯渇時には速度の大幅な変動が見られ、瞬発力重視の設計であることが確認されました。
今回の検証結果から、PM9A3は単なる読み書き性能ではなく、“継続的に安定して高負荷に耐える”設計思想が際立っており、サーバー用途や業務用PCへの導入に非常に適していると判断できます。
※参考サイト:
https://download.semiconductor.samsung.com/resources/data-sheet/Samsung_SSD_PM9A3_Data_Sheet_Rev1.0.pdf
https://download.semiconductor.samsung.com/resources/data-sheet/Samsung-NVMe-SSD-980-PRO-Data-Sheet_Rev.2.1_230509_10129505081019.pdf
https://www.asus.com/jp/motherboards-components/motherboards/accessories/hyper-m-2-x16-gen-4-card/