私がLinux OSを検証する理由
今回は、当社の産業用コンピューター「BTO(Build To Order)モデル」開発における検証結果の一部をご紹介します。
開発検証は、私たちがふだん行っている「CTO(Configure to Order)モデル」(お客様からの注文に応じて製造されるカスタムメイドのコンピューター)の検証作業と大きな違いはありません。
OSのインストールや各種検証作業(高温環境でのPC耐久テストや安全性試験など)を実施しますが、マザーボードやケース、電源、拡張カードなどの組み合わせは千差万別ですので、一度行った試験の結果をそのまま再適用できる機会は多くありません。そのため、納品前には十分な検証時間をいただいております。
このような検証時間を短縮するため、BTOモデルでは、ある程度お客様のご利用環境を想定した複数のモデルをあらかじめ用意し、事前に検証を行うことで、少しでも早くお客様に納品できる製品の開発を目指しています。
Z790マザーボード×Ubuntu、動作の実態をチェック
今回検証のターゲットとなるBTOモデルは、インテル® Z790チップセットを搭載している「IPC-R790PA-TR5」です。このモデルで採用しているマザーボード「ProArt Z790-CREATOR WIFI」は、マザーボードベンダーの動作保証OSがWindowsのみとなっており、Linux系OSの対応は明記されていません。そこで、人気の高いLinux OS「Ubuntu 20.04 LTS」と「Ubuntu 22.04 LTS」の2パターンで検証を行いました。
正直な話、私、K川は、組み込みLinuxへの取り組みを始めたばかりです。そのため、検証中に壁にぶつかることが多く、1日中検証しても解決できないこともあります。今回はその検証結果の一部始終をお伝えします。
Ubuntu 20.04 LTSの動作検証、マルチモニターが?!
「Ubuntu 20.04.6 LTS」をインストールし、各種検証を行った結果は以下のとおりです。
Ubuntu 20.04.6 LTS | 結果 |
---|---|
OSインストール | OK |
各出力端子確認 | OK |
マルチモニター確認 | NG |
LANポート認識確認 | OK |
Audio認識確認 | OK |
USBポート認識確認 | OK |
COMポート認識確認 | OK |
OSからのリブート20回 | OK |
コールドスタート20回 | OK |
マルチモニターだけが「NG」判定となりました・・・
具体的には、GPUカード(GeForce RTX™ 4090 WINDFORCE V2 24G)からの4画面表示は問題ありませんでしたが、マザーボード側のHDMI出力とGPUカードの4画面出力を組み合わせたマルチモニターができませんでした。
【現象の整理】
- GPUカード単体では4画面のマルチモニターはOK。
- マザーボードのHDMIとGPUカードを併用したマルチモニターでは、どちらか一方しか表示されない。
- 起動時にマザーボードのHDMI、またはGPUカードのみにモニターを接続した場合、後からもう一方にモニターを接続しても表示されず、再起動すると後から接続した方だけが表示されるという混乱した状態。
- 各BIOS設定を変更しても結果は変わらない。
- GPUカードを他のものに変更しても同じ現象が生じたため、「ハード固有のトラブルではない」と判断。
このときは、暫定的な対応として、プライマリディスプレイをGPUカード出力に設定し、マザーボードのHDMIは使用しないことにしました。
後になって、過去に私のチームがUbuntu 18.04 LTSで同様の現象を確認しており、その際は「X.Org(X11)」に代わって導入された新しいウィンドウマネージャ「Wayland」のマルチモニター対応が不十分だったことが原因であると分かりました。
対策としまして、Waylandを無効にしてX.Orgに切り替えることで、GPUカードとマザーボードのオンボードグラフィックスを組み合わせたマルチモニター環境を実現したという事例を知り、私、K川も一つ学びを得ることができました。
Ubuntu 22.04.1 LTSは良好な結果
「Ubuntu 22.04.1 LTS」をインストールして検証した結果、とくに大きな不具合は生じませんでした。下記のテスト項目をすべてパスしています。
Ubuntu 22.04.1 LTS | 結果 |
---|---|
OSインストール | OK |
各出力端子確認 | OK |
マルチモニター出力確認 | OK |
LANポート認識確認 | OK |
Audio認識確認 | OK |
USBポート認識確認 | OK |
COMポート認識確認 | OK |
OSからのリブート20回 | OK |
コールドスタート20回 | OK |
今回は、マルチモニター環境にも問題なく対応しており、とくにトラブルもなくスムーズに動作しました。前のバージョン「Ubuntu 20.04.6 LTS」で苦労した点が多かっただけに、この結果にはホッとしました。
マルチモニター出力を希望されるお客様には「Ubuntu 22.04.1 以降」をお勧めいたします。やはり、安定した動作を得られるというのは大きな安心感があります。私も検証を通じて、このバージョンのハードウェア互換性の高さを実感しました。
お客様のためにLinux検証を続ける
Windowsでは、マルチモニターは複数のディスプレイを接続するだけで簡単に設定できますが、Linuxでは一筋縄ではいきませんでした。
この検証で感じたのは、事前に問題点や解決策を把握しておくことで、お客様に的確な情報を提供できることの大切さです。ご注文いただいた後に「できない」と判明するのでは、お客様にもご迷惑をおかけしてしまいます。そのため、お客様が製品を選定されるときにお役に立つ情報をひとつでも多く発見しておくことは、お客様へのサポートとしてとても意味があると感じました。
お客様が安心して弊社の産業用コンピューター製品をご利用いただけるよう、近日リリースされるインテル® 800シリーズチップセット(インテル® Z890、インテル® W880、インテル® Q870)をはじめ、これからも引き続き丁寧な検証を重ねていきたいと思います。