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「IPC」で見る!第8世代から第14世代までのIntel Coreプロセッサー性能差を実測データで解説

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CPUの性能向上はマルチコアやマルチスレッドなどの技術導入により多角的に進化しています。本記事では、IntelのCPUを対象に実測値に基づく性能比較を行い、IPC(Instructions Per Cycle)の向上や各世代のベンチマーク結果を解析します。CPUアーキテクチャの進化とその実際の性能を深掘りすることで、次世代のコンピューティングの方向性を見据え、システム選定に役立てることを目指しています。

CPUアーキテクチャーの進化

かつては動作周波数の高速化のみが注目されていたCPUの高性能化ですが、近年ではマルチコアやHTT(ハイパースレッディングテクノロジー)など多岐にわたる技術が導入され、進化しています。以下に、その主要な進化の要素を挙げます。

  • 命令セットの進化
  • CPU処理ユニットの進化
  • キャッシュの進化
  • マルチコアの進化
  • 回路構成の進化
  • 製造技術の進化

本記事では、実測値に基づいてCPUの性能比較を行い、進化の速度や比較の指針について分かりやすく解説します。

ムーアの法則

ムーアの法則とは、1965年にフェアチャイルドセミコンダクターのゴードン・ムーア氏が提唱した経験則で、「集積回路上のトランジスタ数は毎年2倍になる」という経験則に基づいています。1975年にはこの予測が「2年ごとに2倍になる」と修正されました。以降、この法則は「ムーアの法則」として広く知られるようになり、半導体産業の指針となっています。

CPUの性能とは

一般にCPUの性能は、以下の式で示されます。

CPU性能=動作周波数×IPC

IPC(Instructions Per Cycle)は、1サイクルあたりにCPUが処理できる命令の数を示します。性能を向上させるには、動作周波数とIPCの両方を引き上げる必要があります。

しかし、IPCの向上は容易ではありません。x86の命令セットは並列処理を考慮して設計されておらず、動作周波数の向上もプロセス技術の進化なしには難しいためです。各メーカーは、これらの制約を克服するためにさまざまな技術革新を行ってきました。

動作周波数を固定にしたベンチマークの意義

本記事では、Intel CPUの世代ごとの進化を評価します。世代や製品カテゴリーごとに動作周波数やコア数が異なるため、動作周波数とコア数を固定して⽐較し、各CPUのIPC(Instructions Per Cycle)を比較しています。動作周波数を固定することで、各CPUのIPCの違いを純粋に評価することが可能となります。

IPCが⾼いということは「同じ動作周波数でより⾼い性能を発揮する」ことを意味します。

ベンチマークの条件は、動作周波数を3.2 GHz、コア数を4コア8スレッドに固定して⾏います。この設定により、各世代のCPUのIPCを正確に比較することができます。⽐較対象のCPUは以下のとおりです。

世代 アーキテクチャ 製造プロセス マイクロアーキテクチャ
第8世代 Coffee Lake 14nm++ Skylake
第10世代 Comet Lake 14nm++ Skylake
第11世代 Rocket Lake 14nm++ Cypress Cove
第12世代 Alder Lake Intel 7 (10nm) Golden Cove
第14世代 Raptor Lake refresh Intel 7 Ultra (10nm) Raptor Cove

「IPCのデータはどこ?」という疑問がわくかもしれませんが、掲載されている実測データはベンチマークのスコアであり、IPCの直接的な値ではありません。実行させるベンチマークのバイナリの命令数を正確に勘定することは不可能であり、そのためIPCを直接算出することはできませんが、
CPU性能=動作周波数×IPC
ですので、動作周波数を固定した状態でのCPU性能(ベンチマークスコア)の差は、そのままIPCの差として見ることができます。これにより、IPCの違いをベンチマークスコアの差として評価することが可能となります。

IPCを比較するためのテスト環境

テスト環境において、すべてのCPUは、

  • 動作周波数を3.2 GHzに固定
  • 4コア8スレッド

でテストを実施します。

第12世代および第14世代のCPUにおいては、Pコア(パフォーマンスコア)を使用します。

なお、3.2 GHzに固定した理由は、第8世代(Core i7-8700)の環境において動作周波数の変更設定に制限があったためです。

使用するOSは、Windows 11 Pro (22H2)です。

世代 CPU マザーボード メモリ
第8世代 Core i7-8700 Supermicro X11SCQ DDR4
第10世代 Core i9-10900K ASRock Z590 Taichi DDR4
第11世代 Core i9-11900K ASRock Z590 Taichi DDR4
第12世代 Core i9-12900K ASUS Z790 ProArt DDR5
第14世代 Core i9-14900K ASUS Z790 ProArt DDR5

ベンチマークソフト

以下のソフトウェアを利用してベンチマークテストを行いました。

  • CineBench R23
  • Blender (ver.3.6.0)
  • PassMark 11.0 (Build 1006)

CineBench R23

CineBenchは、ドイツのMAXON社が無償で提供しているベンチマークソフトウェアです。MAXON社は、3DCGソフトウェアのCINEMA 4Dを開発しており、このソフトは元々Amiga向けに開発されましたが、現在ではWindowsやMac向けのバージョンも提供されています。

今回のテストでは、CineBenchのバージョンR23を使用しました。CineBench R23は、CINEMA 4DのデフォルトレンダリングエンジンであるRedshiftのパワーを活用し、コンピュータのCPUおよびGPUの性能を評価できます。

このソフトウェアでは、シングルスレッドとマルチスレッドの2種類の計測が可能です。シングルスレッドテストは、単一のコアの性能を評価し、マルチスレッドテストはすべてのコアを使用した場合の性能を評価します。

CineBench R23 シングルスレッド 結果



テスト結果を比較すると、i7-8700とi9-10900Kは同じSkylakeアーキテクチャを使用しているため、シングルスレッド性能はほぼ同等(誤差範囲内)であることが確認されました。i9-12900Kとi9-14900Kも、それぞれ異なるアーキテクチャ名(Golden CoveとRaptor Cove)を持ちながらも、性能差は見られませんでした。

全体として、アーキテクチャのメジャーな進化により、確実に性能が向上していることが分かります。


CineBench R23 マルチスレッド 結果



i7-8700とi9-10900Kはシングルスレッド性能がほぼ同等である一方、マルチスレッド性能は向上していることが分かります。これは、ヒートスプレッダとCPUダイ間のSTIM(Solder Thermal Interface Material)の熱伝導性能の改善や、回路構成および製造技術の成熟により、マルチスレッド性能の最適化が行われたためと考えられます。

一方、i9-12900Kとi9-14900Kのマルチスレッド性能には約1%の差しか見られず、これは誤差の範囲内であり、性能差はほとんどないと判断されます。


Blender 3.6.0

オープンソースで開発されている2D/3Dコンテンツ制作ツール「Blender」には、ベンチマークテストを行いデータを共有するプラットフォーム「Blender Open Data」(opendata.blender.org)が用意されています。BlenderはWindows、Mac、Linuxに対応したマルチプラットフォームのソフトウェアであり、性能の確認や他の環境との比較に役立ちます。ベンチマークはCPUだけでなく、GPUでも実行可能です。

Blender 3.6.0 結果



Blender 3.6.0のベンチマーク結果は、CineBench R23のマルチスレッド性能と同様の傾向を示しました。ただし、i9-11900Kはclassroomベンチマークでi9-12900Kやi9-14900Kよりも高いスコアを記録しました。生成するモデルによりスコアの伸び率に多少の変化があることも確認されました。

PassMark 11.0

PassMarkは、オーストラリアのPassMark Software社が提供するベンチマーク測定ソフトウェアおよびサービスです。このソフトウェアは、「CPU」「2Dグラフィックス」「3Dグラフィックス」「メモリ」「ディスク速度」の5項目について複数のベンチマークを行い、詳細な数値化を行います。今回は、CPUのベンチマークのみを計測しました。

PassMark 11.0 結果



PassMarkの結果では、CineBenchとは異なる傾向が見られました。i7-8700とi9-10900Kは同じSkylakeアーキテクチャですが、i9-10900Kの方がスコアが良いです。また、i9-12900Kとi9-14900Kも同様に、PassMarkでは差異が見られます。i9-11900KのスコアはCineBenchとは異なり、PassMarkではi9-12900Kに近いスコアを記録しました。



i7-8700とi9-10900Kのシングルスレッド性能は同様の傾向を示していますが、i9-12900Kとi9-14900Kの性能差はほとんどなく、i9-11900Kは前後のCPUのアーキテクチャの中間に位置しています。

まとめ

アーキテクチャの進化によりIPCが向上していることが分かります。

同じアーキテクチャでも、回路構成や製造技術の成熟により性能が向上する場合があるため、世代(アーキテクチャ)の異なるCPUを動作周波数のみで性能評価することはできません。

アーキテクチャの世代が新しくなるにつれ、性能向上が顕著に見られますが、ベンチマークソフトウェアの種類によって向上の度合いが異なることも分かります。

ただし、非常に古いソフトウェアや特殊なソフトウェアではこの限りではないため、使用するソフトウェアや使用環境には注意が必要です。


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