Gaussian 03では様々な種類の密度汎関数理論(DFT)[75,76,448,449]モデルを利用することができます(DFT法やその応用に関する議論については,[448,450,451,452,453,454,455,456,457,458,459,460,461]も参照してください)。エネルギー[78],解析的グラジエント(勾配),真の解析的振動数[197,198,199]を全てのDFTモデルで求めることができます。freqmemで与えられる最適なメモリサイズと同じだけのメモリが,より一般的なモデルでは必要です。
自己無撞着反応場 (SCRF)をDFTエネルギー,最適化,振動数計算と組み合わせて,溶媒中の系を取り扱うことも可能です。
ピュア(純粋)DFT計算ではdensity fittingを利用することも可能です。詳細についてはここを参照してください。
次のサブセクションでは,DFT法の簡単な概要を示します。その次では,Gaussian 03で利用可能な汎関数を示します。最後のサブセクションでは,DFT計算での精度に関する考慮すべき事項について示します。
注意:分極率微分(ラマン強度)や超分極率はDFT振動数計算ではデフォルトでは求められません。必要なら,Freq=Ramanを用いてください。
ハートリーフォック(HF)法では,エネルギーは次の表式で表されます:
EHF = V + <hP> + 1/2<PJ(P)> – 1/2<PK(P)>
ここで,各項は次の通りです:
V 核間反発エネルギー
P 密度行列
<hP> 一電子(運動+ポテンシャル)エネルギー
1/2<PJ(P)> 古典的な電子間クーロン反発
-1/2<PK(P)> 電子の量子(フェルミオン)描像に基づいた交換エネルギー
密度汎関数理論(DFT)では,単行列式に対する厳密交換(HF)がより一般的な表式である交換−相関汎関数に対して置き換えられます。ここで交換−相関汎関数は,HF法で入っていない交換エネルギーと電子相関の両方からなる項を含んでいます。
EKS = V + <hP> + 1/2<PJ(P)> + EX[P] + EC[P]
ここで,EX[P] は交換汎関数,EC[P] は相関汎関数です。
実際HF法は密度汎関数法の特別な場合とみることができ,EX[P] が交換積分-1/2<PK(P)>, EC=0の場合に対応します。DFT法で用いられる汎関数は通常,密度あるいは密度勾配に対するある関数の積分になっています:
X[P] = ∫f(ρα(r),ρβ(r),∇ρα(r),∇ρβ(r))dr
DFT法は,Exに使われる関数fや(もしあれば)Ecに使われる関数fが異なります。Pure DFT法に加えて,GaussianはHF交換と上式の汎関数成分の線形結合を用いるHybrid
DFT法もサポートしています。汎関数は閉じた形で評価することができない積分があり,それは数値的求積で解かれます。
様々なピュアDFTモデルに対する名称は交換および相関汎関数に対する名称の組み合わせで与えられます。いくつかのケースでは,よく使われる標準的な同意語をキーワードとして用いることもできます。
交換汎関数: 次の汎関数が Gaussian 03で利用可能です。
組合せ形式は通常,選んだ交換汎関数と相関汎関数(下記)とを組み合わせるときに用います。
相関汎関数:
次の相関汎関数が利用可能です(キーワード形式でリストされています)。
これら相関汎関数のキーワードは全て,用いたい交換汎関数に対するキーワードと組み合わせる必要があります。例えば,BLYPとすると,Beckeの交換汎関数とLYPの相関汎関数を使うこととなります。SVWNは,Slater交換とVWN相関汎関数を使うこととなり,またこれはLSDA(局所スピン密度近似)と同じことです。
LSDAはSVWNと同義です。Gaussian以外のDFT対応のソフトウェアパッケージの中には”LSDA” とすると SVWN5を用いたことになるものもあります。結果を比較する際には,ドキュメントをよくチェックしてください。
相関汎関数のバリエーション: 異なった相関汎関数の局所および非局所項を組み合わせて下記のような交換汎関数を用いることもできます:
単独で動作する汎関数: 次の汎関数は,他の汎関数キーワードと組み合わせず,それだけで機能します。
ハイブリッド(混合)汎関数: 3つのハイブリッド汎関数(DFT交換−相関におけるHF交換も含む)がキーワードとして利用可能です。
A*EXSlater+(1-A)*EXHF+B*ΔEXBecke+ECVWN+C*ΔECnon-local
ここでA, B, CはG1分子群にフィッテングするようにBeckeによって決められた定数です。
このハイブリッド汎関数にはいくつかのバリエーションが存在します。B3LYPは非局所相関としてLYP表式,局所近似としてVWN汎関数IIIから構成されます(VWN汎関数Vではありません)。LYPは局所と非局所項の両方を含むので,実際に使われる相関汎関数としては次式のようになります:
C*ECLYP+(1-C)*ECVWN
言い換えると,LYPはVWNと本質的に等価な局所項を含むので,VWNでは必要より過剰な局所相関をもたらすために使います。
B3P86は同じBecke3汎関数にPerdew 86による非局所相関を組み合わせたものを指定したことになり,またB3PW91は同様に非局所相関としてPerdew/Wang91を用いたことになります。
これらはBeckeによって提案された”half-and-half”汎関数 (J. Chem. Phys. 98,1372 (1993))と同じものではないことに注意してください。これらの汎関数は後方互換性として用意されているだけです。
ユーザ定義モデル。Gaussian03では一般的な表式のモデルを用いることができます:
P2EXHF + P1(P4EXSlater + P3ΔExnon-local) + P6EClocal + P5ΔECnon-local
利用可能な局所交換はSlater (S)だけで,これは局所交換が必要なときだけ用いられるべきです。任意の組合せ可能な非局所交換汎関数と組合せ可能な相関汎関数を用いることができます(上記にリストされています)。
プログラムに対する様々な非標準オプションで6つのパラメータの値を指定します。
例えば, IOp(3/76=1000005000) にすると,P1を1.0, P2を0.5に設定したことになります。全ての値は5桁の数字で表さなければならず,必要があればゼロを付け加えなければなりません。
次の指定は,B3LYPキーワードに対応する汎関数を指定するルートセクションです。
# BLYP IOp(3/76=1000002000) IOp(3/77=0720008000) IOp(3/78=0810010000)
DFT計算はHF計算における主な段階に付加的なステップを追加して計算されます。このステップは汎関数(または汎関数の様々な導関数)に対する数値積分です。したがって,HF計算の数値的誤差の原因(積分精度,SCF収束性,CPHF収束性)だけでなく,DFT計算の精度は数値積分で用いられる点の数にも依存します。
“Fine”積分グリッド(Integral=FineGridに対応します)がGaussian03ではデフォルトです。このグリッドは最小限の付加的なコストで計算精度をとてもよく向上させます。DFT計算でより小さなグリッドを使うことは推奨しません。また,エネルギーを比較しようとする(例えば,計算したエネルギーの差,生成熱など)際に,全ての計算で同じグリッドを用いることは重要であることに注意してください。
もし必要であればより大きなグリッドを利用することも可能です(例えば,ある種のシステムにおける厳密な構造最適化など)。グリッドを変えるためには,ルートセクションでIntegral=(Grid=N))を指定してください(詳細については Integralキーワードを参照してください)
エネルギー,解析的グラジエント(勾配),解析的振動数; ADMP 計算
DFT計算でレポートされるエネルギーはHF計算のものと形式は似ています。次の例は,B3LYP計算におけるエネルギー出力です。
SCF Done: E(RB+HF-LYP) = -75.3197099428 A.U. after 5 cycles
Eの後のカッコ内の項目がエネルギーを得るために用いた方法です。同様に,BLYP計算の出力は次のように表記されます。
SCF Done: E(RB-LYP) = -75.2867073414 A.U. after 5 cycles
平日9:30~17:30 (土曜日、日曜日、祝祭日、年末年始、夏期休暇は、休日とさせていただきます。)