このキーワードを指定すると,完全活性空間多配置(Complete Active Space Multiconfiguration)SCF (MC-SCF)[97,98,137,138,195,405]計算を行います。MC-SCF計算はSCF計算に軌道サブセット内でのFullCIを組み合わせたものです。このサブセットは活性空間(active space)として呼ばれます。CASSCFに対する活性空間の電子数(N)と軌道数(M)は,次のようにキーワードで指定する必要があります:CASSCF(N,M)。CASSCFに対するオプションは N ,Mのあとに任意の順でおくことができます。
デフォルトでは活性空間は,初期推測行列式において電子が最高占有軌道から与えられ,残りの軌道は活性空間を構築するのに必要なだけ初期推測行列式における最低仮想軌道として定義されます。したがって,閉殻系で4電子6軌道CAS(CASSCF(4,6)と指定)では,活性空間は下記のような構成となります:
同様に,3重項状態に対する4電子6軌道CASには,3つの占有軌道(それらのうち1軌道が2電子占有,残りの2つが1電子占有)と3つの仮想軌道が含まれます。Gaussian 03ではアルゴリズムの向上により,活性空間は14軌道程度まで含めることが可能です[99,100,102]。8軌道以上では,自動的に行列要素に対して新direct法が用いられます。
通常,選択された軌道が検討しようとする電子を含むよう選択されているか,またそれらが正しく相関しているのかを保証するために,Guess=AlterもしくはGuess=Permuteが必要となるでしょう。先に Guess=Only計算を行って,軌道の対称性を最初に確認しておくこともできます(最初の例を参照)。その代わりに,Hartree-Fockシングルポイント(一点)計算を行って,その後続けてGuess=(Read,Permute) とすることにより,チェックポイントファイルから計算された初期推測軌道を読み取り,修正する方法もあります。その場合,最初の計算でルートセクションに出力に軌道係数の情報を表示させるために Pop=Regular を入れておきます(仮想軌道をもっと多く表示させる必要がある場合には Pop=Full を使います)。また,その代わりに,Pop=NBOSaveを用いてNBOを保存する方法もあります。これは初期CAS軌道として,しばしば非常に良い選択となります。軌道を見ながら選択するためにはGaussView 3.0のような可視化ソフトを用いるとよいでしょう。
デフォルトでは,CASSCF計算では積分保存領域をなるべく使わないようにするために,directアルゴリズムが用いられます。従来のアルゴリズムを用いる場合には,ルートセクションでSCF=Conven を指定します。
CASはCASSCFと同義です。
ルートセクションで #P とすると,エネルギーと1電子密度行列に加えて,最終固有値と固有ベクトルが出力されます。
CASSCF法に関する概要については,Exploring Chemistry with Electronic Structure Methods,, 2nd ed. 《訳注:日本語版『電子構造論による化学の探究』》[308]の9章(課題5,6)と付録Aにあります。活性空間の選択に関する詳細については文献[138]を参照してください。また効率的にCASSCF計算を実行するためにはこのページを見てください。
ノート:CASSCFは強力な方法ですが,精妙な部分がある高等な方法です。CASSCF計算で検討を行おうとする前に,前述の文献を読むことを強く推奨します(これは特にCASSCF MP2の場合に)。文献[406,407,408,409,410,411,412]に応用例があります。
CIのj番目の根を用いることを指定します。よってj > 1にすると励起状態が求められます。デフォルトは基底状態(j=1)です。NRootを指定した状態が,「検討する状態(state of interest)」となります。
状態平均(state-averaged)CASSCF計算を行います。NRootまでの全状態が平均化されます。このオプションには,状態に対する重みを,形式 nF10.8(空行で続けない)で入力する必要があります。StateAverageは,Opt=Conical やCASSCF=SpinOrbitと組み合わせることはできません(これらはデフォルトで状態平均計算されます)。
検討している状態(NRoot)とその次に高い状態間の近似スピン軌道カップリングを計算します。自動的に状態平均(state-averaged)CASSCF計算となります。
RASSCF計算を行います。a 個のホール(すなわち,RAS1からRAS2またはRAS3への励起)を,RAS1空間内のb個の軌道から,RAS3空間のd軌道c空孔(すなわち,RAS1またはRAS2からRAS3への励起)。したがって,RAS2の最小電子数は2b–aとなります。2つのCASSCFキーワードパラメータを指定すると,完全活性空間のサイズ:RAS1 + RAS2 + RAS3となります(例を参照)。
CI行列の対角化にLanczos反復法ではなく,Davidsonの対角化法を用います。NRootが1または2のときはLanczosがデフォルト,それ以外のときはDavidsonがデフォルトになります。
CI行列の対角化にLanczosやDavidsonの反復法ではなく,完全(Jacobi)対角化法を用います。デフォルトでは,活性軌道が6以下の場合は完全対角化を行います。NoFullDiagを指定すると,完全対角化法を無効にします。
完全Jacobi対角化法を用いるのは,2次の収束が必要な場合(下記QCオプション参照)や,CI固有値を求める必要がまったくない場合にしてください(後者のケースでは,活性軌道が6より多い計算ではFullDiagを指定してください)。
Lanczos法の開始ベクトルを配置k.とします。このオプションは例えば,求めたい励起状態に対して正しい対称性を持った配置(基底状態のものとは異なる)を選択するような場合に有用となります。このようなケースでは,軌道の対称性を得るために,あらかじめ予備的な計算を行っておく必要があるでしょう。
kには特別な値としてReadと指定することもできます。この場合,入力ストリームから固有ベクトルを読み込みます(フォーマット:NZ,(Ind(I), C(Ind(I)), I=1, NZ)。
デフォルトの対角化手法は,CI問題のサイズが約50以上であるか,計算の開始時に固有ベクトルの1つ以上の主成分が(初期試行ベクトルから)分かっている場合に効果的なようになっています。デフォルトでは,開始ベクトルはj+1 の位置で初期化されます。ここで,jはNRootオプションで与えた値(もしくはデフォルト値)です。この位置はCIハミルトニアンの最低j+1 エネルギー対角要素に対応します。これは通常,最低 j根に対して,よい収束を与えます。
StateGuessオプション(後述)を用いて,このデフォルトを変えることも可能です。CASSCF(…,StateGuess=k)のように指定すると,C(k)を1.0とします。このベクトルに対して主に必要となるのは,必要となる固有ベクトルを欠かさないようにするということです。したがって,CI固有ベクトルの主成分が配置kとなる場合,StateGuessオプションをkに設定することで,良好な開始ベクトルを生成することができます(例えば,StateGuess=1はCIベクトルが主にSCF波動関数であるような場合に適切となります)。しかしながら,配置kの係数が求めたい根に対して厳密にゼロ(例えば対称性によって)になるような場合には,そのような固有ベクトルでは失敗してしまい,計算がより高い状態に収束してしまうでしょう。
OrbRotにすると,Opt=Conical 計算でのCP-MC-SCF方程式による軌道回転導関数寄与を含めます。NoCPMCSCFにすると除きます。OrbRotがデフォルトです。
CASSCF計算にスレーター(Slater)行列式を用います。このオプションは,一重項・三重項間の円錐交差(conical intersection)またはavoided crossingを求める際には必要となります。
Slater行列式ではなく,Hartree-Waller行列式を用います。これは,10軌道以上のCAS計算ではデフォルトです。NoFullDiagも同時に指定されたことになります。
RFO2次ステップを用います。QCとRFOは同時には指定できません。
CASに対して2次の収束アルゴリズムを用います。このオプションを用いる際には注意が必要であり,非常に良い推測をあたえないとうまくいかないでしょう。QCとRFOは同時には指定できません。
CASの初期軌道に,予備的UHF計算から作られる自然軌道を用います。通常Guess=Readと一緒に用います。
UNO推測を用いる際には注意しなければなりません。しばしば,自然軌道のうちほとんど占有されていないものは,検討しようとする状態には重要ではありません。したがって,価電子空間全体を補正するのでなければ(これは通常膨大な計算コストが必要となります),まずPop=NaturalOrbitalでUHF計算を行い,その結果得られる軌道を調べます。それにより活性空間に含まれる軌道を選択し,シングルポイント(一点)CASSCF(…,UNO) Guess=(Read, Alter)計算を行います。結果として得られる収束軌道は正しい活性空間に位置しているかどうか確認するために用い,最後にCASSCF(…,UNO) Guess=Readとして最適化を行います。一重項では,ユーザー自身に依存してしまうこの全手順について,UHF波動関数を近似的にスピン対称性が破れた(非RHF)結果に収束させたものでうまく取り扱うことも可能です。
CAS-GVB計算[417].で,CAS活性空間外のGVBペアの数を指定します。
エネルギー,解析的グラジェント(勾配),解析的および数値的振動数。CASSCFは半経験的手法と組み合わせることはできません。
解析的分極率はCASSCF法では計算できません。CASSCF Polar=Numerを用いてください。
ルートセクションでSCF=Restartを指定することにより,CASSCF計算を再スタートさせることもできます。また,CASSCF最適化を再スタートさせるためには,ルートセクションに CASSCF Opt=Restart Extralinks=L405 とキーワード指定する必要があります。
このセクションでは,CASSCF法の重要な使い方についていくつか例示します。
予備的計算による軌道の選別 (Guess=Only) 以下のようなルートセクションは,簡単に軌道を検証するための方法のひとつです。これにより,対称性と求める状態にするためにどの軌道を入れ替える必要があるのかがわかります。また, Pop=Reg にすると,電子密度解析のセクションで分子軌道を出力するようになります。
# HF/3-21G Guess=Only Pop=Reg Test
このケースでは1,3-ブタジエンの一重項状態,D2h対称性を検討します。4×4 CASを行おうとすると,活性軌道の4軌道は,2個の占有,2個の仮想軌道となります。これら4軌道は全てπ とします。
HOMOは14番目の軌道なので,活性軌道には13から16番目の軌道が含まれます。これらの軌道を見てみると,14番目と15番目の軌道だけが相関するタイプの軌道であることがわかります。ここでの分子はYZ平面に置かれているので,π 軌道はX方向に非ゼロ成分しかないものとなります。よって,関与する軌道は10番目と,13から16番目の軌道ということになります。
Molecular Orbital Coefficients
10 13 14 15 16
O O O V V
3 1 C 2PX 0.29536 0.00000 0.34716 0.37752 0.00000
7 3PX 0.16911 0.00000 0.21750 0.24339 0.00000
12 2 C 2PX 0.29536 0.00000 0.34716 -0.37752 0.00000
16 3PX 0.16911 0.00000 0.21750 -0.24339 0.00000
21 3 C 2PX 0.29536 0.00000 -0.34716 -0.37752 0.00000
25 3PX 0.16911 0.00000 -0.21750 -0.24339 0.00000
30 4 C 2PX 0.29536 0.00000 -0.34716 0.37752 0.00000
34 3PX 0.16911 0.00000 -0.21750 0.24339 0.00000
10番目の軌道は明らかにπ 軌道です。より高次の仮想軌道を見ると,19番目の軌道もπ軌道であることがわかります。したがって,これで必要な4軌道がそろったことになり,Guess=Alterを用いてこれらの軌道を活性空間に持ってきます。以下に,このケースでのCASSCF計算のインプットファイル例を示します。
# CASSCF(4,4)/3-21G Guess=Alter Pop=Reg Test
1,3-Cyclobutadiene Singlet, D2H, Pi 4x4 CAS
0 1
分子指定
10,13 10番目と13番目の軌道を入れ替え
16,19 16番目と19番目の軌道を入れ替え
CASSCFエネルギーと一電子密度行列 このシクロブタジエンCASSCF計算を行うと,エネルギーの予測が得られます。CASSCF計算の出力は以下のようになります:
TOTAL -152.836259 ... 反復ごとのエネルギー
ITN= 9 MaxIt= 64 E= -152.8402786733 DE=-1.17D-05 Acc= 1.00D-05
ITN= 10 MaxIt= 64 E= -152.8402826495 DE=-3.98D-06 Acc= 1.00D-05
...
DO AN EXTRA-ITERATION FOR FINAL PRINTING
最後の反復でのEの値が,予測エネルギーです。このケースでは-152.8402826495 hartreeです。
また,一電子密度行列を調べるのも重要です。これはエネルギーの次に出力されます。
Final one electron symbolic density matrix:
1 2 3 4
1 0.191842D+01
2 -0.139172D-05 0.182680D+01
3 0.345450D-05 0.130613D-05 0.172679D+00
4 0.327584D-06 0.415187D-05 0.564187D-06 0.820965D-01
MCSCF converged.
対角要素は,活性空間内の各連続軌道に対する近似的な占有数を示しています。この値が(本質的に)ゼロになった場合,その軌道はCAS計算を通して空であったことになります。同様に,この値が本質的に2になった場合,その軌道はCAS計算を通して2重占有されていたことになります。どちらの場合でも,問題としている軌道への/からの励起がなかったこととなり,CASSCF計算で問題があった可能性があります。上に示した例では,2つの「占有」軌道が2未満の値を持ち,活性空間内の残りの2軌道の占有数は非ゼロとなっており,計算がうまくいっていることが分かります。
CASSCF MP2エネルギー 補正されたCASSCF計算(ルートセクションでCASSCF MP2)を実行した場合,以下のような追加出力がCASSCF結果の後に表示されます(最初の行は,2つ目の行よりかなり前に表示されます):
MP2 correction to the MCSCF energy is computed CASSCF MP2ジョブであることを示します
...
E2 = -0.2635549296D+00 EUMP2 = -0.15310383973610D+03
電子相関補正エネルギー
CAS配置情報 CASSCF結果の最初に,配置が以下のような形式でリストされます:
PRIMARY BASIS FUNCTION= 1 2 1 2
2 SYMMETRY TYPE = 0
1 3
1 2
3 SYMMETRY TYPE = 0
2 3
1 2
一行目は参照配置に対する電子のアサインを示します。これは4×4 CASなので,初期配置(primary basis function)では軌道13,14の両方にα, β 電子が入っていることが分かります(この番号は活性空間内の軌道を,低いほうから高いほうまで順に示しており,電子の並び順はα α β βです)。配置2では,軌道13のα電子はその軌道に留まっており,軌道14のα電子は軌道15に励起し,軌道13の β 電子はその軌道に留まっており,軌道14の β 電子もそのままです。同様に配置3では,軌道13に β 電子,軌道14にα (軌道13からのもの)とβ 電子,軌道15にα電子がいる配置となります。
励起状態を求めるためのCASSCFの用い方 CASSCF法を用いて励起状態を研究するための方法を,次の2ステップジョブで説明します。最初のステップでは予備的なHatree-Fockシングルポイント計算を行って,軌道を調べてあることとします。またそのジョブでの軌道をチェックポイントファイルから取り出すことで,初期推測計算をあらかじめ行っておくという利点もあります:
%chk=CAS1
# CASSCF(2,4) 6-31+G(D) Guess=(Read,Alter) Pop=NaturalOrbital Test Geom=Check
Alter the guess so that the three LUMOs are all the desired
symmetry, and run the CAS
0,1
軌道入れ替え
--Link1--
%chk=CAS1
%nosave
# CASSCF(2,4,NRoot=2) 6-31+G(D) Guess(Read) Pop(NaturalOrbital) Geom=Check Test
Excited state calculation
0,1
2番目のジョブステップでは,第1励起状態を指定するためにCASSCFにNRootオプションを用います。この系での第1励起エネルギーは,2つの状態間のエネルギー差を求めることで計算できます(この方法に関するより詳細な議論については,Exploring Chemistry with Electronic Structure Methods[308]《訳注:日本語版『電子構造論による化学の探究』》 9章の課題5を見てください)。
円錐交差の予測 ルートセクションにOpt=Conicalキーワードを入れると,CASSCFを用いた指定した状態の最適化ジョブから,その状態を含む円錐交差(conical intersection)またはavoided crossingを探索するジョブに変わります。最適化された構造は,円錐交差(conical intersection)またはavoided crossingの構造です。これら2つの可能性を区別するためには,最終の最適化ステップにおけるCASSCF出力の最終固有値を見れば分かります(これは最適化構造より前に出力されます):
FINAL EIGENVALUES AND EIGENVECTORS
VECTOR EIGENVALUES CORRESPONDING EIGENVECTOR
状態 エネルギー
1 -154.0503161 0.72053292 -0.48879229 ...
-0.16028934E-02 0.31874441E-02 ...
2 -154.0501151 0.45467877 0.77417416 ...
2つの固有値(状態番号が表示されている行の最初の項目)が本質的に同じであれば,2つの状態のエネルギーが同じであり,円錐交差(conicalintersection)となります。そうでなければ,avoided crossingです。
スピン軌道カップリング 以下に,Spinオプションでスピン軌道カップリングを指定したCASSCF計算の出力を示します(NRootオプションで指定した状態と,その次に低い状態間のカップリングが計算されます):
****************************
spin-orbit coupling program
****************************
Number of configs= 4
1st state is 1 スピン軌道カップリングを計算する2状態
2nd state is 2
Transition Spin Density Matrix
1 2
1 .000000D+00 .141313D+01
2 .553225D-01 .000000D+00
magnitude in x-direction= .0000000 cm-1
magnitude in y-direction= .0000000 cm-1
magnitude in z-direction= 55.2016070 cm-1
total magnitude= 55.2016070 cm-1 スピン軌道カップリング
MCSCF converged.
スピン軌道カップリングはX, Y, Z成分に分解され,その後に全体の大きさが表示されます。このケースでは,55.2016070 cm-1です。
RASSCFの例 以下にRASSCF計算ルートセクションの例を示します:
# CAS(16,18,RASSCF(1,2,3,4)) 6-31G(d)
この分子が一重項中性である場合,このルートでは次のような空間となります:RAS1は2軌道,全配置内の3または4電子;RAS2は12軌道,参照配置内の12電子;RAS3は4軌道,全配置内の0-3電子。したがって,RAS2空間には全配置内の9から13電子が含まれます。活性空間のために参照行列式から取られる軌道は(スピン一重項であることを仮定すると)8最高占有,10最低仮想軌道となります。つまり,通常のCAS(16,18)と同じ軌道です。
平日9:30~17:30 (土曜日、日曜日、祝祭日、年末年始、夏期休暇は、休日とさせていただきます。)