このキーワードでは,Hartree-Fock波動関数に対する初期軌道推測をコントロールします。Guessはオプションなしでは意味がありません。デフォルトではHarrisの推測を用います(下記参照)。
初期軌道推測のためにHarris汎関数 [501]を対角化します。これはXeより重い原子がない場合にはデフォルトです。
Huckel推測を用いて初期軌道を生成します。Xeより重い原子がある場合にはデフォルトです。
反復拡張Huckelで用いる原子のhardnessのスケールファクターを読み込みます。デフォルトはQEq値の7.0倍です。
古いHuckel推測(Gaussian 03以前)をCNDOや更新Huckelの代わりに用います。
Gaussian 98のデフォルト推測軌道を用います。これは第一周期の原子にはINDOを,第二周期の原子にはCNDOを,第三周期以上の原子にはHuckelを用います。
初期軌道推測のためにAM1計算を行います(現在では, 疎な行列コードでのみ機能します)。Guess=(AM1,Always) にすると,構造最適化の後のほうのステップにおいて,各点で新しい推測軌道を生成し,古い点での密度行列におけるエネルギーと新しい推測軌道を比較し,より良いほうを選択します。
初期軌道を作るためにコアハミルトニアンを対角化します。Guess=Coreは原子の計算には最も広く用いられてます。
占有軌道と仮想軌道の寄与を混ぜて初期軌道密度を形成します。Nはデフォルトでは-3です(どの軌道を混ぜるかを決めるためにHuckel固有値を用います)。
初期軌道推測で軌道の入れ替え指定を読み込みます。生成される推測軌道の番号はSCFで用いられる順になっています。範囲で指定することもでき(例えば,7-12),このときリストされていない全ての軌道は元の順にリストされた軌道の後に挿入されます。開殻系の場合,α と β 軌道に対して別々の入替リストが必要です。
Hartree-Fock波動関数で占有されている軌道では最低エネルギーを与えないことを示唆します。通常,占有軌道は初期軌道推測プログラムで用いられる1電子ハミルトニアンに対する最低固有値をもつ軌道として選択されます。この変更選択は,ある占有軌道とある他の(仮想)軌道との入れ替わりの組からなります。そのような転移は分離行と2つの整数N1とN2(フリーフォーマット,通常は空白かコンマで区切ります)で指定され,軌道N1が軌道N2と交換することを指定します。軌道転移のリストの終わりを示すためにはインプットセクションの終わりに空行を入れます。
UHF計算では,そのような軌道置換は2つ必要です。最初の指定ではα 軌道を,次の指定ではβ 軌道を指定します。常に両方の選択が必要です。したがって,α 転移だけが必要な場合でも,β 軌道の部分には空行を入力する必要があります(逆も同様です)。2つ目の空行が空のβ 指定のために必要となります。
チェックポイントファイルから初期軌道を読み込みます(Guess=ReadはGeom=Checkpointと一緒によく指定されます)。このオプションはAlterと組み合わせることもできます。その場合にはチェックポイントから軌道を読み込み,それを現在の基底関数に射影し,さらに指定した入れ替えを行います。CheckpointはReadと同義です。TCheckオプションにすると,チェックポイントから初期推測軌道を読み込みますが,必要であれば新しい軌道を生成するようになります。
最適化の各点において毎回新しい初期軌道を生成します。デフォルトでは,最新の点のSCFの結果を次の点での初期軌道とします。
HOMOとLUMOを混ぜて,α-βや空間対称性を崩すようにします。これは,一重項状態に対するUHF波動関数を生成するのに有用です。
分子点群の既約表現をSCFのN3ステップで用いられる対称性の情報に合わせるようにすることにより,波動関数の対称性をより低次のものを用いるようにします。これにより,軌道(と,もしかしたら必ずしもそうなっていないかもしれないが全波動関数)を完全な分子点群でなく,より低次の対称性を持たせることができます。このオプションはGVB計算でのみ利用可能であり,しばしば対称的な系に対するGVB計算で必要となります(GVBキーワードの項目と,このオプションを用いたときの例を参考にしてください)。
このオプションのインプットは一行(format 16I2)であり,それに合わせる既約表現の数を入力します。新しい群は0で区切ります。インプットリストの終わりを示すには9を入力します。これらの数の順番は,出力ファイル中のLink 301でリストされている既約表現の順番に対応します(後述の例を参考にしてください)。
このインプットセクションは常に非常に長い一行になるため,空行で終わりを示す必要はありません。既約表現は軌道局在化が行われる前に合わせられ,局在化軌道は対称性が保たれたとしても維持されることに注意してください。Guess=NoSymmにすると,全軌道対称性束縛を取り除き,インプットからは何も読み込みません。
すべての軌道対称性束縛を取り除きます。 SCF=NoSymmやSymm=NoSCFと同義です。
Boysの方法を用いて軌道を局在化します。占有軌道と仮想軌道は別々に局在化され,(LowSymmかNoSymmを用いて混ぜたあとの)既約表現は混ざりません。さらに収束したSCF波動関数に対する局在化軌道解析は2番目のジョブステップを用いて行われ,それはルートセクションにGuess(Read,Local,Only)とPop=Fullを入れたことになります。
原子の座標を初期軌道(読み込み,現在の座標系に変換します)を生成するために用います。これはデフォルトです。これは変わったケース,たとえば異なる化学量論を持つ系に対する初期軌道として波動関数が用いられるときなどでは失敗するかもしれません。このような場合では Guess=NoTranslate を指定するとよいでしょう。
初期軌道を生成した後,部分的あるいは全部の軌道を入力ストリームから読み込んだ軌道で置き換えます。このオプションは完全な初期推測軌道を入力ストリームから読み込み,全軌道を置き換えるために使うことができます。置換される軌道は(もしあれば)軌道入れ替えコマンドの後に入力します。UHFでは,αおよびβ 置換軌道入力セクションが別々に必要です。
置換軌道入力セクション(UHFではα置換軌道セクション)は,カッコ内に読み込む入力置換軌道のFortran形式を書いた行ではじめます。たとえば, (4E20.8)と指定します。残りのセクションは次のような一つ以上の組からなっています。
IVec 置換する軌道(0=終了,-1=順に全軌道を置換)
(A(I,IVec),I=1,N) 最初の行で指定された形式での新しい軌道
IVecを含む行のFortran形式はI5です。UHF計算でのβ置換軌道セクションで異なるのは最初のFortran形式指定行が省略されることだけです。置換軌道入力のサンプルは実例セクションを参考にしてください。
Guess=Onlyは計算タイプキーワードとして機能し,初期軌道を計算し出力したところで計算を終了させます。出力される軌道情報の量はPopキーワードでコントロールされることに注意してください。Guess=Onlyは半経験的方法では用いることはできません。
このオプションは配置入れ替えが必要かどうかチェックするために予備的に実行するのに有用です。たとえば,Guess=Only とCASSCFを指定し,CASアクティブスペースでのCI配置の数(と初期推測軌道)に関する情報を得るために用います。
Guess(Only,Read)はチェックポイントファイルのデータから電荷密度やその他計算後の解析を行うのに用いることも可能です。たとえば,このオプションだけでチェックポイントファイルの波動関数を用いて電荷密度解析だけを生成することができます。Guess(Only,Read) Prop にすると,チェックポイントファイルの波動関数を用いて静電プロパティを計算するようになります。
生成した初期推測軌道をGuess=Only実行の終わりにチェックポイントファイルに保存しなおします。このオプションは局在化軌道を保存するのに有用です。
初期推測軌道を出力します。
Guess=Readのとき,alphaおよびbeta推測軌道として共に読み込んだalpha軌道を用います。
rwfやchkファイルの以前の結果から読み込んだ軌道でなく,Fock行列を再利用します。これはGuess=Alterが指定されていないときの周期境界条件計算ではデフォルトです。NoFockにするとこの挙動を無効にし,非PBC計算のデフォルトを用います。
RWFから軌道を読み込むときに(すなわち,構造最適化の間), 余分に新しい初期推測軌道を生成します。デフォルトでは,デフォルトのHarrisの推測を用いていて,配置の入れ替えを行なっておらず,そして最適化がILSWの変数4でフラグされた小ステップでない場合にお子なられます。NoExtraにすると,この機能を無効にできます。
初期推測軌道をアーベル点群の既約表現に従うように変換するようにします。NoForceAbelianSymmetryがデフォルトです。
初期推測軌道のために 疎SE計算を実行します。このオプションは本当にとても巨大なHFやDFT計算で疎行列機能を用いているときに有用です。
チェックポイントファイルに自然軌道を含めます。これはこのオプションを指定した別のジョブステップや,または Check, Only, Readを指定したときでないと実行できません。詳細についてはPopulationキーワードの議論を参考にしてください。
これらのオプションは組み合わせることもそれが妥当であれば可能です。したがって,Guess=(Always,Alter)やGuess=(Read,Alter) は期待したとおりに機能します(前者のケースでは,一度入れ替え設定を読み込み,各構造で同じ入れ替えを適用します)。逆に,Guess=(Always,Read) は矛盾しているので,予測できない結果をもたらすでしょう。Guess=(Cards,Alter)のようにオプションを組み合わせた場合の入力セクションの順番は,この章の始めにある表で決まるのでそれを参照してください。
Guess=Onlyは半経験的手法では使えません。
Guess=Alterにして2つの軌道を入れ替える例。この例ではアミノラジカルの2A1励起状態のUHF/STO-3G 構造を調べます。まず,Guess=Only計算を実行して,求める電子状態を得るためにどのような入れ替え方が必要であるかを決めます。HF/STO-3G理論モデルがデフォルトでは用いられます:
# Guess=Only Test
Amino radical test of initial guess
0 2
n
h 1 nh
h 1 nh 2 hnh
nh 1.03
hnh 120.0
以下は,ジョブの軌道対称性に関する要約の出力です。これは,出力中電荷密度解析のすぐ前にあります。
Initial guess orbital symmetries.
Alpha Orbitals:
Occupied (A1) (A1) (B2) (B1) (A1)
Virtual (A1) (B2)
Beta Orbitals:
Occupied (A1) (A1) (B2) (A1)
Virtual (B1) (A1) (B2)
<S**2> of initial guess= .7544
2重項状態であるので,αおよびβ 軌道とが別々に与えられます。この軌道対称性から,初期推測軌道での電子配置はa12a12b22a12b1であり,つまり2B1波動関数になります。これは実際にはNH2の基底状態です。非制限初期推測軌道に対するS2の期待値も出力されています。このケースでは,純粋な2重項での値0.75に近い値を与えています。
Guess=Onlyジョブで出力される軌道エネルギーは占有軌道に対しては単に-1.0,仮想軌道に対しては0.0になっていることに注意してください(SCFがまだ実行されていないため)。実際の軌道エネルギーが必要であれば,完全半経験的エネルギー計算を求める方法(たとえばINDO)を指定して実行すれば可能です。
アミノラジカルの話に戻すと, 2A1励起状態に対するモデルを求めたいので,この初期軌道配置を入れ替える必要があるでしょう。つまり,β電子を軌道4から軌道5に移動させなければなりません(このとき,電子配置はa12a12b22b12a1になります)。
今度はGuess=Alterを使って,この軌道の入れ替えを行います。以下は構造最適化に関するインプットです。
# UHF/6-31G(d) Opt Guess=Alter Pop=Reg Test
Amino radical: HF/6-31G(d) structure of 2-A1 state
0 2
n
h 1 nh
h 1 nh 2 hnh
Variables:
nh 1.03
hnh 120.0
空行で分子指定セクションの終わりを示します
空行でαセクションの終わりを示します(このケースでは空です)。
4 5 軌道4と5を入れ替えます。
空行でβセクションの終わりを示します
12行目の空行がα 入れ替えセクションが空であることを示すために余計に必要となることに注意してください。最後の2行がβ入れ替えセクションを構成しています。
初期軌道推測プログラムは Alterオプションの結果入れ替えた軌道のリストを出力します。
Projected INDO Guess.
NO ALPHA ORBITALS SWITCHED.
PAIRS OF BETA ORBITALS SWITCHED:
4 5
S2の期待値がUHF波動関数では出力されます。次に取りうるスピン多重度(2重項に対しては4重項,3重項に対しては5重項など)から波動関数の汚染が取り除かれたら,その結果の値も出力されます。
Annihilation of the first spin contaminant:
S**2 before annihilation .7534, after .7500
この計算は実際に正しく 2A1状態に収束しますが,SCF反復の過程で軌道対称性の順番が入れ替わってしまうことも起こりえます。最終的な波動関数の軌道対称性が(Guess=Alterを使っていてもいなくても)初期推測軌道とは違ってしまう場合,SCF=QCかSCF=DMを指定して直接最小化ルーチンを使うことを推奨します。これらの方法では通常ある反復から次の反復での対称性を保つことができます。
Guess=Permuteを用いて軌道を並べ替える例。このオプションでは,次の例のように,初期推測軌道の面倒な修正を最も簡単に行うことができます。
# CASSCF/6-31G(d,p) Opt Guess=Permute Pop=Reg Test
CAS job
0 1
molecule specification分子指定セクション
1-60 65 63 64 66 68 67 61-62 69 Specify new ordering.新しい軌道順の指定
ここでは軌道61-68を再配列しています。 最後の軌道(69)を入れることは本当は必要ないのですが,インプットを理解しやすくするために入れています。
Guess=Cardsを用いて軌道を読み込む例。 部分的にあるいは全部の軌道を初期推測軌道を生成した後に,Guess=Cardsを用いて置き換えることができます。 以下はこのオプションのサンプルインプットで,軌道1と4を置き替えます(形式は1行目で指定されていることに注意してください。):
(3E20.8)
1
0.5809834509E+00 0.4612416518E+00 -0.6437319952E-04
0.1724432549E-02 0.1282235396E-14 0.5417658499E-13
0.1639966912E-02 -0.9146282229E-15 -0.6407549694E-13
-0.4538843604E-03 0.6038992958E-04 -0.1131035485E-03
0.6038992969E-04 -0.1131035471E-03
4
0.7700779642E-13 0.1240395916E-12 -0.3110890228E-12
-0.4479190461E-12 -0.1478805861E-13 0.5807753928E+00
0.6441113412E-12 -0.3119296374E-14 0.1554735923E+00
-0.1190754528E-11 0.2567325943E+00 0.1459733219E+00
-0.2567325943E+00 -0.1459733219E+00
0
軌道番号0は置換軌道インプットが終わりであることを示します。
平日9:30~17:30 (土曜日、日曜日、祝祭日、年末年始、夏期休暇は、休日とさせていただきます。)