計算化学 ソフトウェア

2023年12月15日

• ▸GRRM23との連携動作について加筆いたしました。こちら

2023年3月14日

• ▸GRRM17との連携動作について加筆いたしました。こちら

2022年4月8日

• ▸バージョン1.00(初版)リリース

GRRMでVASPを用いた反応経路探索を可能とするインタフェースプログラム

GRRMは、局所的、半大域的、または大域的な反応経路探索を行う計算プログラムであり、従来の個別の反応経路計算から、網羅的な反応経路探索、複雑な反応経路ネットワークの構築まで、様々な目的において非常に有用です。これまでに、有機反応、有機金属触媒反応、微粒子触媒、ラジカル反応、電子励起状態を含む光反応、周期境界条件による結晶相転移、QM/MM-ONIOM法による酵素触媒反応など、様々な反応系に対して応用実績があります。

VASPはオーストリア・ウィーン大学で開発された、擬ポテンシャルと平面波基底を用いた非経験的(ab initio)量子分子動力学(MD)計算プログラムです。結晶や無機固体の周期的境界条件を用いた計算を行います。VASPに実装されている方法は有限温度局所密度近似(LDA, 変分量として自由エネルギーを用いる)に基づき、効果的な行列対角化法とPulay混合を使用してMDステップごとに電子基底状態を精密に評価します。バンド計算、安定構造や遷移状態構造の最適化、拡散パスの検討、反応解析など様々な問題に適用されています。

GEAR-V™はGRRMの量子化学計算エンジンとしてVASPを使用可能にする、GRRM用インタフェースプログラムです。

VASPで反応経路探索したい！そんなお客様の声にお応えします

VASPは結晶や無機固体の非経験的(ab initio)量子分子動力学計算で、計算結果に定評があり、多くの材料開発のお客様に使われています。また、反応経路探索を自動的に網羅的に実行可能とするGRRMは、そうしたお客様からも数多くお問い合わせをいただき、たくさんのお客様にご導入いただいてきました。そんな中、しばしば掛けて頂いたお声は「VASPは使えないの？」でした。

GRRMは（最新のバージョン23で）量子化学計算エンジンとしてGaussian、Molpro、GAMESS、ORCA、Turbomole、SIESTAに標準で対応していますが、VASPを使うには、ユーザー自身でGRRMとVASPを連携させるインタフェースプログラムを開発する必要がありました。

GRRM用インタフェースプログラムを開発するには、単にテキストファイルの読み書きだけプログラミングできればよいのではありません。VASPの計算機能と動作仕様を理解し、VASPの各種インプットファイル・各種アウトプットファイルの内容・書式、さらにはそこで使われている座標系や各値の単位（必要ならば適切な変換）まで精確に把握した上で、GRRM側が求める仕様にそって入出力するようにプログラミングできる技術スキルが必要です。これは難易度の高い仕事でしたが、その成果物を商用ソフトウェアとしてリリースして、皆様にご提供できるようにいたしました。

効率的な実装

GEAR-V™では、計算中にVASPから得られたWAVECAR等をMO coefficientsのguessとして再利用することで、効率良くMO計算を行うように実装しています。

また、GRRMの反応経路探索の並列処理に加えて、VASPもMPI並列で実行できるようにしたことで、CPUコアを余すことなく利用できるようにしました（VASPのMPIプロセス並列数は環境変数で渡す形にしています）。

GRRMをお使いの方がイメージしやすいよう、インプットファイルを例示いたします。GRRMからGEAR-V™を介してVASPを使うには、GRRMインプットファイルを次のように記述します（一例としてSC-AFIR計算のインプットを示します）。赤色文字で強調していますように、%link=non-supportedを加え、Ab initio methodの記述を削り、Opt=Cartesianとsublink=gearvを加えます。

%link=non-supported
# SC-AFIR2
0 1
C  1.3374100400  0.0001721500 -0.6295472100
C  2.2322974200 -1.2594458000 -0.6298202200
C -0.4464165700  1.2594555500  0.6298156430
C  0.4464589900 -0.0001819100  0.6295517950
Options
Add Interaction
GAMMA = 100
END
NOFC
DownDC=15
Opt=Cartesian
sublink=gearv

さらに、VASPの計算を実行するために、VASPインプットファイルのテンプレート（ひな形）を作成します。ファイル名は、GRRMインプットファイルがmyinput.comというファイル名である場合、次のファイル名にしておく必要があります。ファイルの書式はそれぞれVASPのもとのINCAR、KPOINTS、POSCAR、POTCARに準じます。

myinput.INCAR
myinput.KPOINTS
myinput.POSCAR
myinput.POTCAR

ここまで用意できたら、あとは通常通りGRRMを起動するだけで、VASPを用いてGRRMの反応経路探索が行われます。

GEAR-Vでは、与えるPOSCARの原子座標をCartesian座標系(デカルト座標系)で記述しておく必要があります。Fractional座標系(分率座標系)で記述されたPOSCARをCartesian座標系に変換するプログラムをGitHub上で公開していますので必要でしたらご利用下さい。

価格

年間ライセンスを購入いただけます。詳しくはこちらのフォームからお問い合わせください。お問い合わせの際は、フリーメールアドレスではなく、ご所属の組織のメールアドレスをご記入ください。

仕様

※1 本製品に含まれておりませんので予め御用意ください。
※2 GRRM17とGEAR-V™を併用した際、GRRM17をMPI並列(mpirun～)で実行した場合には一切計算が実行できずエラー終了となります。GRRM17を逐次実行またはノード内Fork並列(-pオプション)で実行した場合には、問題なく連携して動作できます。

GEAR-V™ではHessian（二次微分）をVASPから求めることに対応していません。Hessian計算を必要とする計算（FREQやADDFなど）では、HessianをForce差分から計算するGRRMオプション（Derivative=Force）の併用が必要になります。ただし、これにより、Hessianを計算するのに比較的長い時間を要しますので、ご注意下さい。

GEAR-V™では単位格子内の原子位置の最適化に対応しておりますが、格子定数の最適化には対応しておりません。

保守

GEAR-V™のインストールにおけるトラブル、そしてGEAR-V™を介してVASPを用いてGRRMを起動する際のトラブルにつきましては、弊社にてサポート致します（標準サポート、無償）。GRRMでGEAR-V™を使って計算を行うためにインプットファイルに記載が必要となる事項につきましては、GEAR-V™に同梱のマニュアルに記載しております。

GRRMの使い方や結果の解釈につきましては、お使いのGRRMの配布元のサポート窓口へお問い合わせください。VASPの使い方や結果の解釈につきましては、VASP公式サイトのForumにお問い合わせください。GEAR-V™が原因と思われるトラブルについては弊社までお問い合わせください。

GRRMは量子化学探索研究所の登録商標です。
GRRM is a registered trademark of Institute for Quantum Chemical Exploration .

VASPはVASP Software GmbHの登録商標です。
VASP is a registered trademark of VASP Software GmbH .

謝辞

GEAR-Vの根幹プログラムには杉山 佳奈美氏作成のVASP用GRRMインタフェースプログラムを使わせていただきました。また開発に際し、杉山氏に多大な御指導を賜りました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
Our special thanks go to Kanami Sugiyama (Ph.D.) who has provided the fundamental part of GEAR-V, the GRRM interface program for VASP, as well as supervised out development.