ホーム > HPC・DL・AI > 計算化学 > 技術情報 > 分子動力学の基礎知識

分子動力学の基礎知識

1. 分子動力学のシミュレーションモデル

分子動力学では基本的に原子の運動だけを扱う。電子や原子核については考えず、代わりにモデル化された力場ポテンシャル関数を使って、原子同士に働く相互作用を表現している。一部の現象を除けばほとんどの場合、原子の運動は古典的に扱うことができると考え、Newton方程式を分子動力学の基礎方程式としている。

分子動力学では有限温度環境でのシミュレーションが可能であり、アプリケーションによっては高温部と低温部を設定したシミュレーションや、外的に電場や力を与えるシミュレーションも可能である。

計算精度はポテンシャル関数の出来に左右される。ポテンシャル関数は多数の力場パラメータで構成されており、これらのパラメータは量子化学計算や実験値を使ってトレーニングされている。ポテンシャル関数の関数形や力場パラメータセットは目的とする分子系に合わせて用意されている。例えば同じ炭素原子でも有機分子とグラファイトでは性質が異なるため、異なる力場パラメータをあてがうことが多い。

近年ではポテンシャルの計算にモデルポテンシャルを使うのではなく、量子化学計算を利用することで応用範囲を広げた方法も登場している。

2. 古典分子動力学

分子動力学といった場合、通常古典分子動力学のことを指す。モデルポテンシャル関数を使って、原子間の相互作用を記述している。

ポテンシャルは対象ごとにチューニングされており、例えば有機分子であればAMBER力場、金属であればEAM力場いった具合に異なる力場が用意されている。

低スペックの計算機でも数万原子、数ナノ秒程度の計算が可能である。

AMBER力場のポテンシャル関数
(赤字は力場パラメータ、緑字は原子電荷)

主な対応アプリケーション

3. QM/MM分子動力学

AMBER力場などの多くの古典力場では化学反応を扱うことができない。また、精度の観点で古典力場ではうまく対応できないこともある。そのような場合には量子化学を頼らざるを得ない。

しかし、量子化学計算は高精度であるものの、計算コストが非常に高いため、すべてを量子化学で行うには限度がある。そのような場合には必要な部位にのみに量子化学計算を適用するQM/MM分子動力学法を使うことがある。

量子化学を使う部分には、半経験的手法やab initio法を適用することができる。量子化学計算を行っているため、電子状態がかかわるプロパティ(HOMO/LUMO、分光スペクトルなど)が得られるのも特徴である。

計算対象や量子化学の手法にもよるが、量子化学で扱う部位が~100原子の系で数百ps程度の計算が可能である。

主な対応アプリケーション

4. 量子分子動力学

系のすべてを量子化学的に行う手法は量子分子動力学と呼ばれ、Car-Parrinello法はその方法の一つである。Car-Parrinello法では、電子の波動関数に仮想の質量を定義し、核の運動方程式と波動関数の運動方程式を並列して解く手法であり、核の運動に電子状態が追従する形となっている。この大胆な近似の結果、実用的な計算速度の実現に大きく近づいた。現在では、断熱近似を用いずに電子状態を扱う非断熱分子動力学など、さまざまな方法が試みられている。

非常に計算コストは高く、100原子以上の計算には大型の計算機が必要である。

主な対応アプリケーション

研究事例

Contact

お問い合わせ

お客様に最適な製品をご提案いたします。まずは気軽にお問い合わせ下さい。
075-353-0120

平日9:30~17:30 (土曜日、日曜日、祝祭日、年末年始、夏期休暇は、休日とさせていただきます。)