BOMD

Description

このキーワードを指定すると,古典トラジェクトリ(軌跡)計算[177,178,179,180]をBorn-Oppenheimer分子動力学モデル(最初に[181,182]で述べられたモデル;詳しいレビュー記事については[403]を参照)を用いて行います。Gaussian03での実装[184,186,187]は通常の方法論を拡張してあります。これは,非常に正確なヘシアンに基づくアルゴリズムを用いるもので,corrector(補正)ステップの後に局所2次曲面上のpredictor(予測)ステップが組み込まれています。この実装では,各ステップの開始と終了点でエネルギー,グラジェント(勾配),ヘシアンをフィッティングした5次の多項式または有理関数を用います。補正ステップを生成するこの方法は,以前の実装より10倍以上ステップサイズが増加します。

準古典(quasi-classical)固定基準モードサンプリングを用いた初期条件の選択と最終生成物解析が行われます。これは古典トラジェクトリプログラムVENUS[404]と同じ形式で実行されませす。あるいは,初期カーティシャン座標と速度を読み込ますこともできます。

ADMP法は機能的には同等のものですが,Hartree-FockあるいはDFTレベルで計算コストが相当低い方法です。

必須インプット

BOMDジョブでは解離経路の数を必ず指定しなければなりません。多くのジョブでは,この値はゼロ(空行でもかまいません)にし,他にはBOMDインプットを指定せずに行います。このケースでは,トラジェクトリは一定のステップ数(デフォルトは100,MaxPointsオプションで指定できます)だけ積算します。

NPathを-1にした場合,解離経路は自動的に検知され,グラジェント判定基準(Hartree/Bohr)が通常のフラグメント経路の代わりとして用いられ,また終了判定基準としても用いられます。

解離経路を0より大きい値を指定した場合,完全BOMDジョブインプットを次のような構成で与えます。

NPath                                                 Number of dissociation paths (maximum=20) <解離経路の数(最大値=20)>
IFrag1, ..., IFragNAtoms                                Fragmentation information <フラグメント情報>
...                                                      Repeated NPath times  <NPath回繰り返す>
[R1, R2, R3, R4, G5, ITest, IAtom, JAtom, R6          Optional stopping criteria (ReadStop option) <[オプション]終了判定条件(ReadStop オプション)>
...]                                                     Repeated NPath times  <NPath回繰り返す>
[Estart,DelE,SBeta,Ef,DPert,IFlag]                    Optional simulated annealing params. (SimAnneal) <[オプション]シミュレーテッドアニーリング(徐冷)パラメータ(SimAnneal)>
[Mode-num, VibEng(Mode-num), ...]                     Optional initial normal mode energies (NSample) <[オプション]初期基準モードエネルギー(NSample)>
[Initial velocity for atom 1: x y z                   Optional initial velocities <[オプション]初期速度
Initial velocity for atom 2: x y z                      (ReadVelocity or ReadMWVelocity)  (ReadVelocity または ReadMWVelocity)>
...
Initial velocity for atom N: x y z
...]                                                  Entire section is repeated NTraj times <セクション全体をNTraj回繰り返す>
[Atom1, Atom2, E0, Len, De, Be                         Optional Morse params. for each diatomic product <[オプション]Morseパラメータ>
...]      
                                                      Terminate subsection with a blank line. <サブセクションの終わりには空行>

NPathの後の入力行には,各経路におけるフラグメント情報を示します。この値では,対応する原子が指定したフラグメント番号に属する(つまり,原子iはフラグメントFragiに属する)ことを指定します。フラグメント情報は経路ごとに,新しい行で始めないとなりませんが,個々の経路のフラグメント情報は必要な限り何行に渡ってもかまいません。

ReadStopオプションが指定されている場合には,終了判定基準を次に指定します。終了判定基準は6つまで各経路について指定できます。トラジェクトリは全ての判定基準が満たされた場合に終了します。しかし,パラメータの値を0にすると,対応する終了判定基準による検証を無効にします。終了判定基準は以下の通りです(デフォルト値は括弧内に示してあります):

  • フラグメント同士の質量中心間の最小距離> R1 (18)
  • 異なるフラグメントに属する原子間の最小距離 > R2 (20)
  • 同じフラグメント内の質量中心と原子の最大距離 < R3 (0)
  • 同じフラグメント内の原子同士の最大距離 < R4 (0)
  • フラグメント間(interfragment)グラジェント< G5 (10-6)
  • ITest=1の場合には,原子IAtomJAtom間距離 > R6 (0)
  • そうでない場合には,原子IAtom JAtom間距離< R6 (0)

距離は全てBohr単位で,グラジェント G5はHartrees/Bohr単位で指定します。

SimAnnealオプションが指定されている場合,終了判定基準の後には,シミュレーテッドアニーリング・フラグメンテーションパラメータを指定します。

  • Estart は初期運動エネルギー (Hartrees) です。
  • DelEはエネルギー利得と損失(Hartrees) です。
  • SBetaは Fermi-Dirac 逆数温度 (1/Hartrees) です。
  • EfはFermiエネルギー(wavenumber)です。 Ef 以下の振動数に対応するモードは強められ,逆にEf 以上のものは弱められます。SBetaが負の場合には動作が逆になります。
  • DPertはランダム摂動のサイズです。
  • IFlagはシミュレーテッドアニーリングの際にエネルギー摂動の適用アルゴリズムを決めます(つまり,固有モードからエネルギーを追加・除去)。次のような正の値を指定します:0 (振動数にしたがって各固有成分の重みを掛ける),1 (ランダム形式でDelEを追加する),2 (0と1の組み合わせる),00 (遷移状態に近ければ,そのモードに従って全エネルギーを追加する), 10 (遷移状態近くでは無視する)。

NSample オプションが指定されている場合,インプットの次のパートでは,各基準モードでどれだけのエネルギーがあるかを指定します。モードごとに,VibEng として並進エネルギーを並進ベクトルの向きにkcal/mol単位で指定します。VibEng < 0にした場合,初期速度は逆方向となります(Phaseオプションを用いると正方向を明示できます)。

次に,ReadVelocityまたはReadMWVelocityオプションが指定されている場合,各原子に対する初期速度が読み込まれます。初期速度はカーティシャン速度として原子単位(Bohr/sec)で,または質量荷重カーティシャン速度(amu1/2*Bohr/sec単位)として指定します。各指定トラジェクトリ計算で,速度の完全セットを読み込みます。

最後に,各2原子プロダクトに対するMorseパラメータデータを指定します。MorseパラメータデータはEBK 量子化ルールを用いた2原子フラグメントの振動励起を決めるのに用いられます。このデータには,2原子の元素記号,それら間の結合距離(Len,オングストローム単位),その距離でのエネルギー(E0 ,Hartree単位),モースカーブパラメータDe (Hartrees)およびBe (Angstroms-1)を指定します。

Options

MaxPoints=n

各トラジェクトリでの最大ステップ数を指定します(デフォルトは100)。トラジェクトリジョブを再スタートさせた場合には,最大ステップ数はデフォルトで元の計算で指定された値になります。

Phase=(N1,N2 [,N3[,N4]])

遷移ベクトルの位相を決めます。これにより,遷移ベクトルの向きと,指定した内部座標での増加の方向を対応させることができます。原子番号を2つ指定した場合には,座標は2原子間の結合伸長になります。3原子指定した場合には結合角を,4原子指定した場合には2面角を指定したことになります。

ReadVelocity

初期カーティシャン速度をインプットストリームから読み込みます。この速度は分子と同じ対称性配向でなければならないことに注意してください。このオプションを指定すると,5次非調和性補正を行わなくなります。

ReadVelocity

初期質量荷重カーティシャン速度を入力ストリームから読み込みます。この速度は分子と同じ対称性配向にしなければならないことに注意してください。このオプションを指定すると,5次非調和性補正を行わなくなります。

SimAnneal

シミュレーテッドアニーリング(徐冷)を用います。初期速度はランダムに生成されます。ほかにパラメータも上述のようにして読み込みます。

ReadVelocity, ReadMWVelocity, SimAnneal は同時に1つしか指定できません。

ReadStop

別の終了判定条件を読み込みます。

RTemp=N

回転温度を指定します。デフォルトは,対称性頂点を仮定した熱分布から初期回転エネルギーを選びます(温度はデフォルトで0 Kです)。

NSample=N

最初のN基準モードに対して初期運動エネルギーを読み込みます(デフォルトは0)。残りのモードに対するエネルギーはデフォルトで熱サンプリングによって決められます。

NTraj=N

Nトラジェクトリを計算します。

Update=n

デフォルトではBOMDは全ての点で2次微分を行います。 Updateキーワードを用いると,新しく解析的Hessianを求める前に,n グラジェント点でHessian更新を行います。GradOnlyを指定すると,グラジェントのみが計算され,ヘシアンは毎回更新されます(完全2次導関数は計算されません)。

StepSize=n

動力学でのステップ幅をn*0.0001フェムト秒にします。

Sample=type

サンプリング形式を指定します。typeには次のキーワードのうちいずれかを指定します:Orthant, Microcanonical, Fixed, Local。デフォルトは,RTempが指定されていなければFixed基準モードエネルギーを用い,指定された場合にはLocalモードサンプリングとなります。

Restart

チェックポイントファイルからトラジェクトリ計算を再スタートさせます。元のジョブのオプションが引き続き使われます。オプションを修正することはできません。

標準的な方法を用いることにより,BOMDジョブで同位体を指定することも可能です。

Availability

全半経験的,SCF,CASSCF,MP2,DFT法

Related Keywords

Examples

以下に示すサンプルBOMDインプットファイルでは,指定可能な多くのオプションを例示しています。ここでの計算は,H2COが解離してH2 +
COになるトラジェクトリを遷移状態から開始するものです。フラグメント経路は1つあり,CとOがフラグメント1に,2つの水素がフラグメント2に属します。

この例では終了判定基準も指定しています。H2とCOの質量中心間距離が13 bohrを超え,H2とCO間の最近接距離が11bohrを超え,フラグメント内の全ての原子がフラグメント質量中心から1.3 bohr 以内にあり,フラグメント内のある原子がフラグメント内の全ての別の原子から2.5bohr 以内にあり,フラグメント分離グラジェントが0.0000005 hartree/bohr以下で,原子1,3間の距離が 12.8 bohrより大きい場合には,トラジェクトリが終了します。

遷移ベクトル方向の初期運動エネルギー5.145 kcal/molで,これは生成物の方向です(正の方向はC-H距離より大きくなると増加するようになっています)。 H2 とCO に対するMorseパラメータは2原子物の振動励起を決めるよう指定してあります(これらは予備計算で求めておいたものです)。計算は300 Kで実行されます。

# HF/3-21G BOMD(Phase=(1,3),RTemp=300,NSample=1,ReadStop) Geom=Crowd

HF/3-21G dissociation of H2CO --> H2 + CO

0 1
C
O 1 r1
H 1 r2 2 a
H 1 r3 3 b 2 180.

r1 1.15275608
r2 1.74415774
r3 1.09413376
a 114.81897892
b 49.08562961 

1
1 1 2 2
13.0 11.0 1.3 2.5 0.0000005 1 1 3 12.8
1 5.145
C O -112.09329898 1.12895435 0.49458169 2.24078955
H H -1.12295984 0.73482237 0.19500473 1.94603924  
                                  Final  blank line  最後は空行

ここでの6つの終了判定基準は全ての説明用に示しただけです。ほとんどのケースでは,終了判定基準は1つか2つで十分です。

BOMD計算の開始時には,ジョブに用いられるパラメータが出力されます。

TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ
-------------------------------------------------------------------
INPUT DATA FOR L118
-------------------------------------------------------------------
General parameters:
Max. points for each Traj. = 100
Total Number of Trajectories = 1
Random Number Generator Seed = 398465
Trajectory Step Size = 0.250 sqrt(amu)*bohr

Sampling parameters:
Vib Energy Sampling Option = Thermal sampling
  Vib Sampling Temperature = 300.0 K
  Sampling direction = Forward
Rot Energy Sampling Option = Thermal distribution (symmetric top)
  Rot Sampling Temperature = 300.0 K
Start point scaling criteria = 1.000D-05 Hartree
...

Reaction Path 1
****************
Fragment 1 center 1 ( C ) 2 ( O )
Fragment 2 center 3 ( H ) 4 ( H )
Termination criteria:
  The CM distances are larger than 13.000 bohr
  The min atomic distances among fragments are larger than 11.0 bohr
  The max atomic and CM distances in frags are shorter than 1.3 bohr
  The max atomic distances in fragments are short than 2.500 bohr
  The change of gradient along CM is less than 5.00D-07 Hartree/bohr
  Distance between atom center 1 ( C ) and 3 ( H ) is GE 12.800 bohr

Morse parameters for diatomic fragments:
         E0          Re          De           Be
C O -112.0932990   1.1289544   0.4945817    2.2407896
H H -1.1229598     0.7348224   0.1950047    1.9460392
---------------------------------------------------------------------

基準モードに対する初期運動エネルギーは,各トラジェクトリステップの開始時に出力されます。

-------------------------------------------------------
         Thermal Sampling of Vibrational Modes
Mode    Wavenumber      Vib. quant.#   Energy (kcal/mol)
-------------------------------------------------------
  1     -2212.761                         5.14500
  2       837.330            0            1.19702
  3      1113.182            0            1.59137
  4      1392.476            0            1.99064
  5      2026.859            0            2.89754
  6      3168.689            0            4.52987
-------------------------------------------------------

トラジェクトリ計算が完了した後,サマリ情報が出力されます。

Trajectory summary for trajectory      1
Energy/gradient evaluations           76
Hessian evaluations                   76

Trajectory summary
 Time (fs) Kinetic (au) Potent (au) Delta E (au) Delta A (h-bar)
0.000000 0.0214192 -113.0388912 0.0000000 0.0000000000000000
1.169296 0.0293490 -113.0468302 -0.0000091 0.0000000000053006
2.161873 0.0407383 -113.0582248 -0.0000144 0.0000000000045404
...

この情報はトラジェクトリの各タイムステップで出力されます。さらに,この出力には各フラグメントの原子の幾何パラメータ,フラグメント間距離と,各フラグメントとフラグメント間の質量荷重速度が含まれます。GaussView 3.0などの可視化ソフトを用いて,トラジェクトリ経路を3次元で表示させることもできます。

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