従来の反応経路計算では、実験的経験から反応中間体や反応機構を想定した上で行われていました。しかし、多段階からなる反応ではその想定が誤っていたり、そもそも想定できないことも多く、そのような反応の遷移状態構造や活性化エネルギーの計算は困難を極めました。
しかしGRRM法を使うことで、複雑な多段階反応でも特別な想定をすることなく、正しい反応経路が得ることができます。下記はチタノセン (Cp2Ti) 触媒によるジメチルアミンボラン (Me2NH·BH3) 脱水素カップリング反応の計算例ですが、ユーザがインプットとして用意したのは図中の EQ1 のみで、それ以外の EQ1 から TS[1-2] を経由して EQ2 に至り、TS[2-3] を経由して最終的に EQ3+EQ4 が得られるまでの全ての素反応の経路が自動的に求まりました。
Si(100)表面のモデルとしてSi9H12クラスターを想定し、この系への酸素原子吸着過程についてGRRMで自動探索を行ったところ、70個の安定構造(EQ)が得られました。その中で、例えば、EQ4 (on-topタイプ) からの酸素原子の脱着エネルギーは 2.84 eV と見積もられましたが、これは文献値 2.8 eV と良い一致を示しており、この計算の妥当性を示唆しています。このように、GRRMは実際の触媒反応における重要な表面化学プロセスを評価するための有効な手段となり得るでしょう。
下記はプロトン化水8量体のGRRM計算結果です。それによると、最安定の水クラスターは立方体型の氷構造をとることが確認されたほか、280~320 Kに温度が上昇すると二重リング型へ構造転移することが明らかになりました。これは、低温分子線実験やモンテカルロ計算の文献報告の結果と一致しています。
下記はナトリウムが水クラスターに溶けだしたときの反応性を検証したもので、より大きい水クラスターほど、その活性化エネルギーが小さくなることがわかりました。
Tb(NO3-)3(H2O) のGRRM計算では、発光経路であるEET (Excitation Energy Transfer)における交差点のエネルギーが、発光阻害経路であるISC (Inter System Crossing)におけるそれよりも高く、発光経路に 14.4 kcal/mol の反応障壁が存在していることが明らかになりました。この結果から、この錯体は低温では発光が阻害されるために光らないが、温度上昇により発光経路のEET速度が増加して発光強度が大きくなるという結論が導かれます。さらに、同様の計算をさまざまな錯体について行えば、それらの発光効率が予測され、発光材料のスクリーニングを行うことが可能となります。
文献:
・M. Hatanaka, K. Morokuma, J. Chem. Theor. Comp. 10, 4184 (2014)
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