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日本大学
大貫 進一郎

第28回目のインタビューは、日本大学理工学部 電気工学科にて教授を務めていらっしゃる大貫 進一郎先生にお話をお伺いしました。
大貫先生は、複合物理シミュレーションによるナノ構造デバイスの光応答解析をテーマとされています。
光物質相互作用の高精度解析を目的に複数の支配方程式を同時解析する複合物理シミュレーションが計算化学の分野で注目されており、超高速・超高密度磁気記録方式の実現、非局所的効果を考慮した光学応答モデルの開発、電子の量子状態を制御する光パルスの設計などに向けた複合物理計算法及び数値モデルの開発数値シミュレーションによる検証をされています。

この度はよろしくお願いいたします。研究のお話、色々お話きかせていただければと思います。

はじめに、現在のご研究に至るまでの流れをお聞かせいただけますか?

 伯父が精密機械の会社を経営していたため、幼少期から色々な経験を積ませてもらいました。物心ついたときにはモノづくりに親しんでおり、精密機械の制御には電気が重要になると考え、日本大学理工学部電気工学科に進学しました。学部3年生までは、トランジスタ回路などの設計に興味を持ち、オシロスコープなどの測定器を自宅にそろえ勉強しました。4年生で研究室配属となり、コンピュータミュージック用ソフトウェアの開発を卒研テーマに選びました。
 音楽教育や自動作曲用のソフトウェアをC言語で作り始めたことが本格的にコンピュータを学ぶきっかけです。大学院進学後、指導教員の影響を受け電磁波工学の研究を始め、電磁波の散乱解析に関する研究で日本大学より2000年に学位を取得しました。その後、イリノイ大学でポスドクとして電磁波の大規模問題の研究に従事し、2004年から母校に戻り、現在に至ります。

ご紹介いただいた研究テーマの中の資料を拝見し、「超高速・超高密度次世代磁気記録の設計・開発」と「量子混合計算」とございましたが、こちらについての概要と、それに伴う計算機の有効性をお聞かせいただけますか?

 帰国後、学内の分野横断型プロジェクトに参画する機会があり、電磁波応用の新しい研究テーマに出会いました。1つ目の「超高速・超高密度次世代磁気記録の設計・開発」では、現在のハードディスクに変わる新しい記録方式を開発しています。理工学部の共同研究者の先生が、磁化反転を光だけで制御する現象を2007年に発見しました。
 これは、現在のハードディスクよりも最大で10万倍程度高速に書き込む可能性を示す、革新的な方法です。超高速に書き込めることは大変なメリットですが、記録密度が光のサイズで決まってしまい「記録密度が上がらない」という問題も浮上しました。我々の研究グループでは、右図に示す金属のクロスバー型や十字開口型のナノアンテナを用いた「光を絞る」技術を使い、光直接記録方式の高密度化を研究しています。
 設計したアンテナは、光のスポット径をナノメートルサイズまで絞れることを電磁界シミュレーションで検証しました。このアンテナを用いると、記録速度が現在のハードディスクに比べて最大で10万倍、記録密度は数倍程度向上します。現在実験による検証も進めており、日本大学理工学部から大きな研究成果を近いうちに発信できると思います。

クロスバーが金である理由はどうしてなのでしょうか?

 磁気記録には可視光のレーザーを使います。この波長帯域で、金は局所的に光を増強する性質を持っています。また、粒子状の記録媒体を併用することで、情報を書き込みたい粒子だけに光を絞り込むことを可能としました。これにより、記録の安定性が向上します。

「量子混合計算」につきまして、こちらはどのような計算でしょうか?

 光をマックスウェル方程式、物質をシュレディンガー方程式で扱い、これら2つの方程式を時間と空間に対して同時解析する数値計算です。従来法より信頼性の高い解析をできることがメリットで、新しい光デバイスの開発などを目的としています。右の図は、この解析法により、電子状態を制御する光パルスの設計を行った例です。
我々の設計法では、光と物質の相互作用を正確に考慮できるため、電子の基底状態と励起状態を完全に制御できる光パルスを実現できています。現在はシミュレーションによる検証段階ですが、実験による検証の可能性を、共同研究者の先生方と話を進めています。我々の設計したパルスが、高効率に電子状態を制御できることを実験でも証明したいです。

実用化されるのはいつごろを想定していますか?

 超高速・超高密度記録方式は、2~3年後を目途に実験による検証を行いたいと考えています。実現できれば世界初、日本大学理工学部から世界に向けた大きな研究成果となります。製品化までには高いハードルがいつくもありますが、実用化に向けて更に研究を続けていきます。

こちらの研究で弊社のコンピュータをお使いになっていただいておりますが、シミュレーションのみで実験をされるということはないのでしょうか?

 我々の研究室ではアルゴリズムや解析コードの開発とシミュレーションによるデバイス設計などを行っており、今のところ実験はしておりません。周りの先生方には実験の専門家が多く、シミュレーションの結果を実験系に、実験系の結果をシミュレーションにフィードバックすることで、様々な共同研究に発展しています。電波や光の数値解析に長年従事した経験から、磁気記録の安定性やデバイス特性の向上方法なども提案させて頂き、頭の中で描いたことが少しずつ実現される喜びを感じています。学内の大型プロジェクトも今年で5年目を迎え、共同研究者の先生方と定期的なディスカッションや勉強会を開催し、研究成果に結び付けています。

こちらの研究テーマの魅力・面白さを教えてください。

 超高密度・超高速記録に関しては新しい記録方式を利用したブレークスルー技術を実現すること、古典・量子混合数値計算に関しましては工学と理学の橋渡しを行い、新しい省電力デバイスの開発などに貢献することです。学会活動を通じて交流のある、将来を担う若手研究者や学生の方に興味を持ってもらえるような研究テーマを考えることは面白いです。大学教員という立場上、研究・教育を通じて次世代に知識や技術を繋げることを意識しています。また、研究分野を広げるために、専門分野から少し離れた方々に興味を持っていただけるテーマを探すことも大きなモチベーションになっています。

電気工学の分野は、薬学や化学などの分野に比べて女性が少ないように思いますが、その辺りはどのようなお考えをお持ちでしょうか?

 理工学部では、理学系・建築系に女性が多いです。工学系にもっと女子学生が増えてほしいと常々感じています。電気工学科には、女子学生を積極的に採用したいと言ってくださる企業も多いので、女子学生にとって狙い目な学問の一つだと思っています。ぜひ周りの女子学生の方へ入学を勧めてください(笑)。工学を学び技術の更なる発展に貢献していただきたいですし、女性は男性とは違う視点をもっていることが、製品開発の上でも非常に重要だと思います。女性目線の電化製品の開発など、益々頑張ってもらいたいですね。

女性は「製品化されたもの」に対しては興味を示す人が多く、そもそもの電子部品・機器といったデバイスや、コンピュータ内部の装置などに興味関心を持つ人が少ないように思えるのですがいかがでしょうか?やはりまだそのあたりは男性社会のようなイメージはあります。

 留学していたイリノイ大学には工学系に女子学生は多かったですし、中国などは理系女子がたくさんいる印象です。先日国際会議でミャンマーに行った際、お会いした先生のほとんどが女性教員だったのには驚きました。「コンピュータはそもそも女性の学問」と言われ、まさに女性が活躍していました。電気工学といわれ構える方も多いと思いますが、「デザイン」というと女性的な感じがしますよね?この感覚がこれからの工学には必要だと考えます。電子部品・機器設計もデザインの一つですから、女性が今後ますます活躍できると思います。出張講義などで高校生の方にも時々お話をさせていただいていますが、電気工学は今が狙い目です。多くの方が気が付く前の選択をお勧めしています(笑)。

こちらの研究の難しいところはどのような部分ですか?

 研究は全て難しいです(笑)。100回トライして99回は失敗ということが日常茶飯事です。ですから行き詰まっても、あまり悩まないようにしています。現在の研究テーマは、電磁波工学の境界領域ですので、分野間での言葉の違いも学びました。我々の分野ではこう呼ぶのに、あちらの分野ではそう呼ぶのか…とか、同じ内容なのに表現が違うという経験をすることで、研究者間の境界条件をつなぐコミュニケーションが重要だと改めて感じています。分野間での共通の話題や言葉を見つけ、自分自身の常識を疑い始めると、研究テーマに繋がることも学びました。

大規模計算機センターをこれまでにご利用されたことはございますか?

 学部4年生で卒研を始めてから現在まで、大規模センターを利用した経験はありませんでした。日本大学でお世話になった先生方は電磁界理論の専門家でした。限られた計算機の中でどうすれば早く且つ正確に計算できるのか?理論面からのアプローチも考えつつ、研究に取り組んでいました。学生時代はコンピュータがとても高額だったので、小さなリソースで研究することを学びました。
 留学先のイリノイ大学では「大型計算機の計算をデスクトップPCで実現する」という高速解法で世界的に著名な先生にお世話になり、ワークステーションレベルでの航空機や車体の電磁界解析に取り組みました。
 今回導入させていただいたHPC社製の計算機サーバーは今までの研究者人生の中では大型のコンピュータとなります。以前はデスクトップPC1台程度で解析できる研究テーマを心がけていましたが、HPC社製の計算機を導入したことで、研究の幅が広がりました。

研究を進めるにあたり心がけていることはございますか?

 長年携わってきた電磁界解析を中心に、その境界領域の分野を切り開いていくことを研究テーマとして考えています。私一人の知識だけではカバーできないので、その道の専門家と一緒に新しい分野を作ることを目標にしています。そのためには、近くて遠い専門家とディスカッションができる環境づくりを心掛けています。「お互いを理解する」ことで相互作用が生まれ、新しい研究テーマが生まれてくるということを実感しています。研究者間のコミュニケーションを心掛けることで、自分自身の視野が拡がってきました。

これから新たに取り組みたいと思われていることはございますか?

 現在シミュレーション設計しているデバイスを実現し製品化まで持っていくこと、混合数値計算の研究では、今まで見たことのない、新しい物理現象が発見できたら楽しいだろうなといつも夢を見ています。

学位を取得された後、4年ほど留学されていたことがあるとのことですが、その時にされていたご研究に関するお話や、その他印象に残っているお話などあればお聞かせ下さい。

 留学先のイリノイ大学は、トランジスタと超伝導でノーベル物理学賞を2度受賞しているJohn Bardeen(ジョン・バーディーン)が教鞭を取っていたことで有名です。コンピュータの分野は、Mathematicaやインターネットエクスプローラ―が作られたことで世界的に知られています。私が所属していたのは電気工学科にある計算電磁気学の研究所です。
 世界各国から集まっていた優秀な研究者が、研究を進める姿を間近で見ることができたのは財産です。当時の友人は各国の大学で教授になっている方が多く、現在では国際会議の運営などを一緒にしています。指導教員は電磁界解析の第一人者で、毎回のディスカッションで、研究の進め方を丁寧に指導して頂きました。また、民間との大きなプロジェクトの取り纏めをさせて頂いたこと、大学院・学部の電磁気の授業を担当させて頂いた経験は、現在の日本大学での教育に役立っています。

学生に教える際、何を重視されていらっしゃいますか?

 それぞれの学生さんが持っている長所を伸ばしてあげられたらと常々思っています。良い所を研究室で引き出し、学生本人に長所を意識してもらい更に伸ばし、社会で活躍してくれることが理想です。ただ、学生さん一人一人にあった教え方は違うようで、個人的にうまく行ったなと思える時もあれば、同じやり方をして同じだけの成果をあげられなかったと感じる時もあります。最近では、教えるということを通じて、実は自分自身が教わっているのだと痛感しています。年を取ってしまったかもしれないと気づかされる瞬間です(笑)。

研究室の学生に求めることはどのようなことですか?

 人生を楽しんでくれることです。働いたら辛いこともたくさんあると思いますが、困難が多少生じてもめげないこと、辛い時でも笑って過ごせることを伝えられたらと思います。研究室での経験が少しでも社会人になった時に活かされることを期待しています。

昨年、弊社の計算機・ラックマウントサーバータイプのものを導入いただいておりますが、数名でご利用になられていると伺いました。複数名で使用していると伺っておりますが、手元の計算機導入のメリットはどのようなことだとお考えですか?

 以前は、研究室のメンバーが個々のデスクトップで計算を行っていたので、ラックマウントサーバーを導入させていただくことで、飛躍的に計算環境が改善されました。計算時間が短縮できたこともそうですが、特に大容量のメモリを利用し、以前では扱えない大規模計算ができるようになりました。ジョブスケジューラなどの使い方に関しましても、HPC様にレクチャーいただき、導入も大変スムーズでした。今回の導入は、研究成果を上げるために非常に大きなメリットがありました。

先生がコンピュータシミュレーションを行う際に、最も重視することはどのようなことですか?

 学生時代から最も意識していることは、信頼性の高い結果が出せるコードを作ることです。その後、計算に無駄がないか、アルゴリズムで高速化できるところはないか、物理現象を近似できるところはないか、など考えて計算プログラムを作っています。

計算の処理速度などは昔と比べ、飛躍的に上がりましたか?

 処理速度は飛躍的に向上しました。以前より大規模なメモリが利用できるようになり、飛躍的に大きな計算が出来るようになりました。計算環境を変えることができたHPC社製のサーバーを重宝させて頂いています。

一方で、シミュレーションに関して、今後の課題となる点はございますか?

 計算機能力が向上することで、更に複雑なシミュレーションはできるようになると思いますが、都心の大学で問題になるのは、電力と熱、それからスペースでしょうか。電気工学科の教員ですので、数値計算を省電力の観点からも貢献できるように心掛けたいと思っています。

最近はクラウド環境を取り入れる大学もありますがその辺りはいかがお考えでしょうか?

 とても興味はありますが、まだ取り入れられていないのが現状です。

研究分野に関することで、私生活で影響を受けることはございますか?

 子どもたちと一緒にアニメの「ワンピース」などを観る時もすべて研究に当てはめてしまいます(笑)。冒険をする仲間は研究室のメンバー、強大な敵は難解な問題といったところです。常に研究ベースで物事を見てしまうのは職業病かもしれませんね。

研究が行き詰った際に気分転換として何か行っていますか?

 いつも行き詰まっていますが(笑)研究・教育・学会活動などで、普段はあまり時間がとれません。運動も兼ねて自転車通勤をし、気分転換を心掛けています。出来るだけ違う道を通ることで違う景色を眺め、新しい発見をすることでリラックスできます。いつもと違う道での小さな発見は、研究に通じるところがあります。20分程度の通勤時間を楽しんでいます。

弊社(もしくは計算機ベンダー)へのご要望などあればお聞かせください。

 電子通信情報学会で「コンピュータアーキテクチャを考慮したシミュレーション技術の最新動向」というシンポジウムを企画させて頂きました。現在様々なプラットフォームが出てくる中、ハードウェアを考慮した計算コードの最適化が重要になると考えています。
 それぞれのプラットフォーム向けの計算手法を開発する際には、ベンダーの方々の協力が重要になります。ハードの特性を隅々まで理解されている専門家の方々にご協力いただくことで、コードの開発時間や計算時間の短縮が実現できると思います。

先生から何かお話されたいことがあればぜひお願いします。

 次の世代に知識や技術をどう繋いでいくかを考えるようになりました。大学、研究会、学会も含め、どの様な貢献ができるのかということが常に頭の中にあります。電磁波の解析を他の分野に広げて新しいものが生み出せるのか、学会活動の中でもそのことを意識して運営するようにしています。電気工学では、アジア諸国に抜かれている分野もありますので、学生や若手研究者の方々と一緒に考え、他国より一歩でも先に出られる新しい技術を開発することがこれからの目標です。

大貫 進一郎 先生のプロフィール

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