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横浜創英大学
若生 啓

第22回目のインタビューは、横浜創英大学 こども教育学部 講師でいらっしゃる、若生 啓先生にお話をお伺いしました。
若生先生は、物理物性、理論物性を専門分野とし、「炭素材料の構造欠陥」や「タンパク質の構造結晶」などをコンピュータシミュレーションによって解明するご研究に取り組まれています。
ご研究における苦労ややりがい、そして今後の展望について詳しくお話いただきました。

本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、これまでは理系の研究室の先生にインタビューさせて頂くことがほとんどでしたが、横浜創英大学様は看護学部とこども教育学部の2学部のみ、その「こども教育学部」ご所属という非常に稀な環境で研究をされていらっしゃるのがとても興味深く、ぜひお話を伺いたいと思いました。

– 若生先生は、どのような経緯で現在の学部に所属されていらっしゃるのでしょうか?

 もともと私は、理学部出身です。横浜創英大学の前身になる横浜創英短期大学の情報学科の所属でした。私自身の専門は物理なのですが、プログラムを組んだりサーバーで遊んだりすることなどが好きで、情報関係を独学で学んでいました。たまたま短大で情報学科にポストがあったので担当の科目(情報処理)をやりつつ専門の研究もできるかなと思い決めたのですが、その後情報学科がなくなってしまい、こども教育学部の所属になりました。そこから今に至ります。

若生先生は弊社のワークステーションを継続的にご購入いただいているのですが、その計算機を使ってシミュレーションをされているかと思いますが、基本的に実験はされずにシミュレーションのみでしょうか?

 実験は共同研究で実験とタイアップして行っているのもありますが、基本的にはシミュレーションや数値解析を行っています。

大学内に先生と同じ研究(職務)の方は他にいらっしゃるのでしょうか?

 全く同じ職務という教員はいませんが、授業の担当でいうと教養科目の担当になっていますので、同じように情報学科からこども教育学部へ移ったという教員で工学系や経営系の先生もいますね。

研究課題としてはいくつかありましたが、本日お話いただけるのはどのようなテーマでしょうか?

 対象となる物質があり、それに対してシミュレーションや数値解析し、物質の性質を調べて行こうというスタンスです。物理の中でも比較的とっつきやすいところです(笑)

 概略で言いますと、今研究しているものは2つあり、1つが、「炭素材料の構造欠陥について」、もう1つが「タンパク質の結晶構造」、両方に共通して私自身が面白いなと興味を持っているのが「構造欠陥」と言いまして、研究の中でのキーワードとなっています。

ご研究のキーワードとして出てきました「構造欠陥」とはどのようなものでしょうか?

 例えば結晶を作った時、結晶というのは原子が規則正しく並んでいるものなのですが、その中の1個の原子が無かったりすることを言います。他にも色々あり、1個だけでなく2個無い状態や、逆に1個多い状態など、通常の規則的なパターンからずれている状態全般のことを「欠陥」と呼ばれています。本当に多種多様な色々な欠陥があるのですが、その欠陥はどんな物質にも必ず存在するのです。どんなに綺麗に結晶を作ったとしても絶対に欠陥が入りますし、その欠陥によって性質も違うので、そこを追究するのが面白いところです。
 教科書などに出てくる物質の性質は「欠陥がない理想的な状態」なのですが、現実には必ずある欠陥がどんな状態の欠陥なのか、また欠陥が入ったことによって物質がどのように変わるのか、その辺りを調べていくことがとても興味深いですね。

結晶構造(欠陥)を見つけるには、実際に物質がないと見つけることができないかと思いますが、先ほどシミュレーションのみされていると伺いましたので、その辺りはどのようにして物質を見るのでしょうか?

 実際に、実験と理論、両方のアプローチが必要な分野です。実験の方達は物質を電子顕微鏡で見たり、X線をあてたり、ラマン分光をあてたり、色々な装置や測定方法によって欠陥を見つけたり、その欠陥によってこう変化するという結果を見たりします。
 ただ、実験では見づらいところや手が届かないような部分というのが必ず出てきて、原子レベルでの解像度を追えるというのは難しいですし、欠陥がどのようにしてできて、どのようにして形状が変わっていくのかという過程を見たり、結晶の内部のところを見たり…というのがシミュレーションの部分です。

また、「狙った欠陥を作る」というのは難しいですね。できた物質を観察したり、あえて熱をかけたりしてランダムに欠陥を作ったりすることはできますが、「こういう欠陥をこの部分にこのように作りたい」ということはかなり難しいことで実験ではなかなか見えてこない部分だったりしますが、原子1つ1つで行うシミュレーションの場合はコントロールができるので、そういう場合は実験よりもシミュレーションが有利になりますね。
 私の立場としては、実験でどのような結果が得られているかを念頭に置きつつ、シミュレーションではこのようなことが起きましたとか、シミュレーションでこのような状況を詳しく解析してみましたとか、そんなスタンスでやっています。

そのお話からすると、この研究は必ず実験部隊と連携して行うというイメージですがいかがでしょうか?

 必ずしも実験部隊と連携しないといけないというわけではないです。カーボン系とタンパク系とで分けますと、カーボン系の研究はシミュレーションのみでも可能ですが、タンパク系の研究の方は実験系の先生と共同研究をしていまして、その先生に実験をしてもらい、その結果をもとに私が解析をしています。
 やはり私のような手元の計算機のみというポジションで行う研究ですと、実験とタイアップしたり、シミュレーションでアプローチしたり…というスタイルになります。

近頃は計算も実験もやる先生が増えてきたように思いますがいかがですか?

 そうですね。やはり化学系の先生がこれまで実験のみだったのが計算も取り入れるようになったという方は多いようですね。
 そういう意味では、私の場合は学生時代からずっとシミュレーションで研究をしてきていました。物理の基礎の方で理論をやっている先生もシミュレーション一本の先生が多いですね。
 私が学生の時に配属された研究室はシミュレーションがメインの研究室で、シミュレーションの手法から始めました。どうやったらシミュレーションができるかというところから始めて、色々な文献を読んだり、自分で式を解いたりしてプログラムの作り方を勉強して、自分でプログラムを作れるようになったらそれを使ってシミュレーションをやる…というやり方でしたので、それ以来ずっと続けて来ています。
 特に市販のアプリケーションは使わず自作のプログラムでやってきていて、シミュレーション一本でここまで来ている感じですね。物理系の先生は自作の先生がとても多いです。多分既存のものではなく、全て自分でやらないときがすまないという性格なのかもしれないですね(笑)

近頃はハードウェアを購入する際、価格が安くて性能もそこそこであればサービスに大きな違いがない限り、どのベンダーからコンピュータを購入しても同じだと思われる方が増えてきましたし、共同利用環境などで手軽にスパコンを利用できる時代になり、ハードウェアベンダーにとっては厳しい時代になりました。そんな中、若生先生は継続的にワークステーションをご活用されていますが、その辺りのお話をぜひお聞かせください。

 物理系でシミュレーションをしている先生は、いわゆる第一原理計算をしている先生が多く、そういう先生は、ワークステーションというよりもスパコンに近いものを使うことが多いです。共同利用環境を使うという人も多いですね。ただ、私も昔使ったことがありますが、共同利用のスパコンは善し悪しがありまして、本当に大規模な計算を長期間に渡ってする場合は有効なのですが、そこまで規模も大きくなく、そこまで計算時間がかからないという範囲だと、意外と順番待ちで時間を取られることが多くなります。大抵自分の持ち時間というのがあり、自分の計算したいジョブを投げて、終わると自分の持ち時間が終わるというシステムで動いているのですが、計算自体は早いのですが、タスクを投げて1日経ってようやく計算が始まって、1日かかって計算が終わるくらいの計算だと、手元のパソコンで計算した方が良い場合もあるんですよね。
 私の場合、デスクトップパソコンだと重いのですが、スパコンを使うほどの計算でもない…という規模なので、ちょうどその間くらいのワークステーションが本当にマッチしているのです。
 昔はワークステーションを何台も並べて繋いで計算したりもしていたのですが、だんだんそれも辛くなってきた頃にちょうどHPCシステムズさんが扱っている計算機の存在を知ったのですが、私の計算規模に合っていて、使い勝手もよかったのです。物理の理論をやっている人たちというのは第一原理計算で厳密に精度を上げてやっていくか、規模を大きくしてやっていくかという二方向になっていっているような感じなのですが、化学系の先生は私と同じくらいの規模の、スパコンに投げるほどでもなくパソコンでは物足りない…というような計算をする先生が多いような気がします。
 ワークステーション規模で、1週間かかる計算を1日2日に短縮できたらなぁという方々が増えてきたように思います。

また研究のお話に戻らせて頂きますが、先生の研究の1つである「カーボンナノチューブについてのコンピュータシミュレーション」関するお話をお聞かせ頂ければと思います。

そうですね、まず、色々な原子があるのですが、その中でもカーボン(炭素)が面白いなと思っておりまして、研究しています。
 面白さが何かというと、カーボンというとダイヤモンドやグラファイト(黒鉛)などが教科書などに出てくるかと思いますが、何が違うかというと、原子構造(原子の並び方)、つまり結晶構造の違いだけで、結局は炭素原子でできています。グラファイトは、例えば木炭や石墨の主成分なのですが、このとき「炭素原子は手が3本」なんですね。炭素原子が平面的なシートを作っていて、それが層状に重なった構造になっています。
ダイヤモンドの結晶構造も1つの原子から手が4本というように、それらが繋ぎ合わさると立体になります。
グラファイトは手が3本なのですが、原子は全く同じなのに結合の仕方が違う(結晶構造が違う)だけなのです。にもかかわらず、結果的にできる物質が全然違うものだったりします。また、フラーレンというサッカーボール型の分子なのですが、これは手が3本で少し曲がっていることにより、C60(炭素原子60個)で球状になるものなのですがC70だと少し長細いラグビーボールのような形状になります。もっと大きいものや形状が変わるものもたくさんあります。
 さらに、グラファイトの一枚を筒状に丸めるとカーボンナノチューブになります。螺旋度などでも色々な違いもありますし、入れ子状に重なっているもの等、単一原子なのですが、組み方の違いでものすごく多様な物質を形成します。 こんな多様なものを生み出す原子は他にないので、そこがカーボンの大きな特徴であって非常に面白いです。更に、ここに入る「欠陥」となるとものすごい種類になるのです。

「欠陥」とはどのようなものでしょうか?

 そうですね。カーボン系の物質には色々な欠陥があるのですが、本当に1つだけ欠落しているような欠陥もあれば、5角形のはずのものが途中から7角形になっていたり、8角形になっていたりするものもあります。
 形状がいびつになったりするようなものや、層状になっているものが縦にずれるようなものなど本当に様々です。
線状の欠陥などはグラファイトにもありますし、ナノチューブにも入っています。バリエーションの多さがこの研究の面白さでもあります。

「欠陥」というのは、一般的にネガティブな要素のように思えるのですが、原子に欠陥があることにより何か不具合などが生じるのでしょうか?

 良い悪いというよりは、この研究においては「欠陥そのものが面白い」と思っています(笑)
というのは、新たな欠陥を見つけたり、それが面白い形状であったり…など欠陥に対する追究が面白いのです。

その欠陥をそのままにした場合は何かその先に不具合はあるのですか?例えば、遺伝子の異常などは、健康上問題が生じると思うのですが、同じように原子に欠陥があることで問題になることもあるのでしょうか?

 そういう場合もある時もありますし、欠陥が入ったことによって逆に良くなるということもあります。様々ではありますが、例えばナノチューブですと、電子デバイスに使ってみようという話になったりするのですが、その際に欠陥が生じると電流の流れが乱れたり、故障の原因になったりすることはあります。
 一般的に工学の観点や応用物理の観点から言うと、欠陥というのは「悪いもの」というイメージが強く、なるべくなくそうという話になりがちです。
 例えばシリコンでCPUなどのデバイスを作っていますが、その際シリコンという物質になるべく欠陥がないように結晶化して、製品にしていこうという感じでやっていったりするので、「なるべく欠陥をなくそう」という観点が非常に強いです。ただ、そういう観点からしても、「どういう時にどんな欠陥ができるのか」ということがわからないと欠陥をなくすためにどうしたら良いかというのがわからないので、できた欠陥をこのようにしたら取り除けるということがわかれば、欠陥除去の役に立つという結果になります。
 ただ、私自身は、欠陥そのものが面白いと思っているので、「欠陥があってもいいんですよ」という話にしたいと思っています。
 例えばグラファイトやグラフェンというのは結構注目されていて、ナノチューブに関しては、それを使って導線にしたりという話もあったのですが、実はナノチューブの研究自体は今、少し落ち着いてきています。
 というのは、ナノチューブは直径が少し違う場合や、巻き方が少し違う場合など、少し違うことで性質がガラッと変わってしまうのでその辺りを工業的に制御するのが難しいということがあり、むしろチューブではなくシートの方が応用としては良いのではないか?という意見もあります。シートの方が工業的には丈夫であったり、作るのが楽であったりというのがあるようです。ただ、シートだと1枚だけだと不安なので2枚、3枚と重ねるのを数層グラフェンというのですが、そのようなものが今後は良さそうだという話もあります。
 グラフェンを使って電気を流すような使い方をした時に、層になっているので層と層の間の電気が流れにくいのですが、そういう時にずれるような欠陥が入ったりするとうまく層の間にも電気が流れるようになったりするのです。電気が流れやすくなるためには欠陥が入っていた方が良いという話が一つの事例となりますが、私はそういう欠陥の特性(メリット)を話したいです。欠陥があることによって物質に付加価値を与える、欠陥があることによってメリットも生まれるということを見つけていくことが面白いなと思っています。

研究論文も欠陥によるメリットを書かれているのでしょうか?また、この研究の面白さはどのようなところですか?

 そうですね。そういう書き方をしていますが、どちらかというと基礎的なスタンスでやっているので、「結果がこういう性質となりました」という風な書き方ですね。何かの結晶を実験的に作ろうとすると、必ず欠陥が入ってしまいます。それによって、その結晶の性質に影響を与えることがあります。ですので、材料工学や物質科学の基礎として欠陥について調べることは重要です。
 個人的な興味で言いますと、色々な形が出てくるのが面白いんですよね。規則正しいだけでなく、欠陥が入ることによって形が変わったり、新たな方法が見出せたり、綺麗な状態だと存在しないものが出現してくることに面白さがありますね。人間でも完璧な人よりも少し欠点があると、面白みや親近感を感じたりするようなのと似ています(笑)欠陥が入るというのはそういう意味で面白いです。

欠陥は、必ず存在しながらもそれらが同じ欠陥とは限らないのですよね?

 はい、その通りです。もちろん同じ形状の欠陥は存在しますが、まだ他の人が見つけていないような新たな欠陥も出てきます。

この研究の大変なところはどのようなところでしょうか?

 シミュレーションで、例えばナノチューブに熱を加えて欠陥を作ってみたり、自分で安定な構造を探してみたりという形でどのような欠陥ができるのかをシミュレーションで調べることが多いのですが、一見グチャグチャで、わからないような構造になったりするのですが、そこにどんな共通点があるのかを見つけ、構造が複雑になっていたりする時にそれをどうやってとらえていくのかというところが難しかったりします。
 欠陥が綺麗にスッと入っていれば良いのですが、グチャグチャ~ッとなってしまうことがあって、そういう乱れた中にどのようなパターンがあるのかなという規則性を探すのがとても難しいところでもあり面白いところでもあります。

この研究で一番やりがいを感じる部分はどの部分でしょうか?

 一見、グチャグチャに見えるようなものの中に、何か規則的なパターンや法則性のようなものが見えてくると、「ああ、これはこういう性質なのかな?こういう性質になりやすいのかな?」等という時に新たなものが見えてきた気持ちになるので、そこが一番やりがいを感じる部分ですね。

この研究はどのくらいの期間この研究をされていらっしゃるのでしょうか?

 途中、タンパク質をメインに研究していた時期などもあるのですが、カーボン系の欠陥という話であれば通算7、8年は継続して研究しています。
 熱をかけることにより、原子が激しく振動している様子です。もともとナノチューブの一部だった原子が飛び出してくるということがシミュレーションでわかり、もう一本の箇所も熱を加えることによりプツッと消えて原子の振動が激しくなっています。
 これは偶然色々なことをやっているうちに見つけた現象なのですが、通常の状態ではなく内側から見てみたもので、全部同じ原子なのですが、残っているところにうまく5角形と7角形が入って閉じるというのがわかりました。

長年継続されているご研究の場合、時代と共に結果(発見)も少しずつ変わっていくものでしょうか?また、今後やりたいことなどはございますか?

 そうですね。昔はナノチューブの欠陥が面白いと思ってやっていましたが、最近は世の中的な流れもありますし、先ほどお話したグラファイトの欠陥が面白いなと思ったので、今はグラファイトの欠陥にシフトしていますね。
 炭素自体が面白いというところは共通していまして、まだ先の話ですが、やっていきたいと思っているものもあります。
 層状になったナノチューブやフラーレンに欠陥が入っているようなことは実験では既にわかっているところもありますが、原子一つ一つの細かい配置まではわからないので、今はまだモデルでしかないので、本当にそういう構造が現実的に安定になっているか、存在できるような形になっているのかどうかというのはシミュレーションしないとわからない部分が残っているので、そこをシミュレーションでそのあたりを調べられたらいいなと思っています。
 炭素というのは本当に多様で、色々な物質を生み出しますし、欠陥自体も色々な種類の欠陥があるので、いくらでも何かできそうだと思っています。まだまだ分からないこともたくさんあるのでそういうのも調べていきたいなと思っています。

先生は、シミュレーションを行う際、一番何を重視されてコンピュータを使われていますか?(要求されるスペックは何が優先ですか?)

 まず一つは、居室に置いておけるかどうかということがあります。大きな計算機室というのを持てないので、自分の居室に計算機を置いて使うような使い方をしていますのでラックマウントタイプの大きいものだとスペースの問題や音の問題で置けないので、省スペースで静音性を重視しました。
 また、今現在の状況ですとマルチコアがやはり便利なので、シミュレーションする時に今だと1個のシミュレーションを数か月回すというよりは、パラメータを振っていき、数日から数週間位の計算を何個も並列に条件を少しずつ変えて走らせるというような使い方が多いので、マシンが何台にも分かれてしまうと管理が大変ですし、それぞれのマシンに計算を走らせるのも面倒なので、1台にマルチコアで収まっていると1台で全て走らせることができるし、結果も1台にひとまとめになるので、とても便利です。

先生は継続的にワークステーションを弊社から導入して頂いておりますが、昔と比べてパフォーマンスは格段に上がりましたか?

 パフォーマンスは確かに上がりました。ただ、計算機はとても速くはなりましたが、私の計算自体が数か月回すような計算ではないことからそこまでの違いを感じることはできていないですね。
 20年前くらいと比べると性能はかなり上がりましたが、この数年という見方で考えると、そこまでCPUが飛躍的に進化を遂げたという印象はあまりないように思います。値段はとても安くなりましたね。
 逆に言うと、以前買ったワークステーションと、最近買ったワークステーションを並べて使ってもあまり不自由がないというのがいいところです。安心して新しいものを買えるし、古いものもそのまま使えるというのは便利です。

これまでお使いになっている中で、何か困ったことなどはございましたか?(初期不良や故障・操作上の問題等)

 一番初め(2010年)に購入したワークステーションで(2013年頃に)メモリエラーが起きたのですが、交換して新しいメモリを取り寄せてもらったのですが、その時に感激したこととして、取り回しが非常にしやすいということがありました。私自身、学生の頃からずっとコンピュータを使ってシミュレーションをしていますが、学生の頃は2002年あたりのコンピュータは日進月歩で、Pentium4が出た頃で、当時はスパコンまでは必要ではなかったもののパソコンでは性能が足りなくて、高性能なパソコンを使って研究したいというのがあり、メーカー製のパソコンを買っても2世代とか3世代前のCPUしか搭載されていなかったので、最新のCPUを使うには自作パソコンだ!となり、研究室のメンバーで秋葉原に行ってショップを回って安いパーツをバラバラに購入して自作パソコンを組み立て動かすというのをやっていました。
 それを毎年繰り返し、1年でもすごく変わるんです。メモリ容量もどんどん大きくなりましたが、故障率もかなり高かったです(笑)それが、2010年位になるとそれも落ち着いてきて、自作でパーツ購入よりは、出来上がっているものを買ってしまった方が手間もかからない上に安くて性能も良いというものが出て来ていました。

 そんなものが手軽に買えるようになったので、数台を並べて並列でタスクを走らせるようなことをしていたのですが、そのやり方をすると20台も30台も必要になってきてしまうとあって、並列計算がしたいと思っていたので、当時の共同研究の先生と開発したプログラムがあってそれを将来的には動かしていきたいなと思っていたので、そういうことを視野に入れつつマルチコアで部屋に置けて、使い勝手がいいような計算機を探していました。

 そこでHPCシステムズさんから出ていた計算機を見つけて購入してみたのですが、とても便利で、これまで使っていたパソコンも必要なくなり、1台で良くなり、更にあれば並列計算するのに更に便利かなと思い始め、2台、3台と増やしていきました。
 なので、パーツを自分で組むというのを死ぬほどやってきたのでトラブルというのもたくさん経験してきました。
 本当によく壊れまして、メーカー保障もないので壊れたら終わりで、部品を交換したり、故障原因を追究したり、うんざりするほどやってきました。
 それで、ワークステーションを購入した後に、メモリが故障した際、数々の故障の苦い思い出から、「またか…面倒なことが起きたなぁ…」と思いながら、そこで初めてそのワークステーションの中身を開けて見てみました。そうしたら、コンポーネントがものすごく整然と並んでいまして、取り外しも誰にでもわかるようになっていて、感激しました。
 故障原因に関しても、昔は原因追究にひと苦労したのですが、そのワークステーションは、画面に故障原因が出ていました。「No.●●のメモリがエラーです」と。マニュアルに沿ってそのメモリを簡単に取り外し、新しいものを取り付けたのですが、至ってスムーズで簡単でした。サポートの対応もとても丁寧にして下さり、その通りにやって行ったという流れもあり、とても助かりました。昔の苦労を経験しているだけに、修理の対応に対するスムーズな流れに感動しました(笑)

計算機ベンダーに対するご要望などは何かございますか?

 ソフトウェアを購入した際に、使い方をサポートする(セミナー)などがあるのはいいなと思いました。自分自身では自作のプログラムを動かしていますが、余力があれば別の計算手法でシミュレーションが出来たら面白いなと思っていまして、そういう時に気軽に導入できて、導入後に使い方のサポートがあればすごくありがたいです。第一原理計算、DFT計算、古典的なMD・MMなどが手軽にできるようなソフトウェアがあればいいなと思います。
 また、タンパクのデータの解析をしているのですが、タンパク質そのものの結晶シミュレーションというのはとても難しいのは、タンパク質の結晶は、分子と分子の間に水が入っているような結晶なので、相互作用を考えたときに、分子と分子の相互作用だけでなく、タンパク質と水が入った相互作用を考えなくてはいけなくて、それがすごく難しいです。その辺をうまくできるようなソフトウェアはないだろうか…と興味を持っています。
 Amberも検討したのですが、導入となるとやはり敷居が高いです。というのも、それなりに勉強しないといけませんし、インストールしたり、その後のトラブルなどを一人で対応したりというのを考えると腰が重くなってしまいますね。その辺をうまく解決してくれるようなものがあれば嬉しいです。
 既にあるサービスですが、計算機を導入した際、MPIの環境構築をしてくれるサービスはとてもありがたかったです。2台目以降の導入の際も既存環境と合わせるような形で再構築してくれたりしたのも助かりました。早く計算に取り掛かりたいので、その辺をサポートして下さるのがとても便利です。
 新しい何か計算手法に手を出したいと思った時に技術的なギャップを埋めてくれるようなサポートがあると、こちらとしては踏み出しやすいですしありがたいですね。

横浜創英大学の学生はどのような学生が多いですか?

 看護学部とこども教育学部という2学部ということもあり、全体で見ると女子学生が多いです。
 こども教育学部の学生は、幼稚園や保育園の先生を目指す学生が多いですので、子どもが好きで優しく、とても真面目ですね。性格も温和な学生が多いです。人間的にとても親しみを持てる学生がとても多い反面、やはり今の学生は面倒を見られることに慣れているところがあり、面倒見の良さを求められる部分もありますね。
そういう意味でもアットホームで学生と教員の距離が非常に近いです。
大きい大学にはない独特な空気感がある大学です。

こども教育学部ということで、授業の担当科目として挙げられておりました「サイエンスの考え方」や、「サイエンスの観察方法」などございましたが、イメージとしては、こども教育学部の学生さんを対象にした授業であると考えると、基礎から始めるようなイメージでしょうか?もしくは、もっと高度で、先ほどお話お聞かせ頂いたカーボンの話なども取り入れていらっしゃるのでしょうか?

 結構授業にも取り入れています。内容的にはフラーレンやナノチューブなど、文系の学生は今まで聞いたこともなければそれほど興味もない分野なのかもしれませんし、内容的にも専門性が高いかと思うのですが、学生の興味をどのように刺激するかというのをすごく考えていまして、学生が「こども教育学部だからこどものことだけやっていればいいんだ」という考え方ではなかなか先々いい職業人にはなれないと思うので、色々なことに興味を持って、幅広く知識を吸収していくということが大事だと思います。
 世の中を見まわしてみると、色々な面白い話や、難しくても興味を惹かれるものとかがあると思うので、そういう分野が自分の生活にどのように関係しているのかとか、社会ではどういう役割を持っているのかというところから話をすると意外と学生は身近なものだと感じてくれるようで、そういう風に思ってもらえると、専門的で高度な話であっても結構興味を持って聞いてくれているような気がします。
 うまくその辺りを結びつけるようにして、こんなものがあるんだよという風に自分が知っている世界を学生にも見てもらいたいと思っています。
それが学生にとって今後のプラスになるのでないかなと思って、そういうモチベーションで教えています。

同じような質問になってしまいますが、学生さんに求めることはどんなことでしょうか?

 色々なことに興味を持ってほしいということは先ほどお話しましたが、興味を持ったことを追究してほしいという風に思います。
 勉強に限らず、遊びでも何でもいいのですが、面白そうだなとか、興味を持ったものを追究することが大事だと思うのは、今の学生はやや頭でっかちになっていて、色々なことを知っているし、興味もあったりするのですが、聞いただけで満足してしまうところがありますね。
 それについて本を読んで調べてみたり、経験してみたりというのが乏しかったりするので、与えられたものがとても多くて、その中で踏み出して自分なりの世界を作っていくことが弱いという印象があるので、それを乗り越えてほしいです。それは、難しいことではないので、自分で考えて行動を起こして自分の世界を広げて色々な結びつきを持ってもらいたいです。自分自身もプログラミングに興味を持って始めたものが色々な経験や研究にも結び付いて、今の仕事のきっかけにもなったので、学生にも興味を持ったことを追究してみてもらいたいと思っています。

– たくさんの興味深いお話をお聞かせ頂き、ありがとうございました。

若生 啓 先生のプロフィール

  • ご所属:横浜創英大学 こども教育学部 幼児教育学科
  • 専門分野:
    ・ 物性物理
    ・ 理論物理
  • 研究課題:
    ・ 炭素材料の構造欠陥のコンピュータシミュレーション
    ・ カーボンナノチューブのコンピュータシミュレーション
    ・ 放射光トポグラフを用いたタンパク質結晶の物性評価
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