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有限会社 マクシスワン
小林 了

第20回目のインタビューは、(有)マクシス・ワンの代表取締役を務める小林 了様にお話をお伺いしました。
マクシス・ワン社では、”電子産業の塩”と呼ばれる水晶デバイスの設計、不良解析の効率化を図るべく、多くの特許に裏付けられた技術を基に、独自の解析装置を開発し、オンリーワンを実現しています。

本日はよろしくお願いします。

– 早速ですが、御社の事業概要についてご紹介ください。

 弊社では、水晶振動子の解析装置の開発販売を行っています。 この解析装置は、水晶ブランクシミュレーター(CS-01)という解析用コンピュータシステムと、測定装置を組み合わせたものです。
 CS-01は、この図にように計算エンジンと端末(ターミナル)が繋がれています。また、リモートでお客様が遠隔地の工場間でも使えるようにしています(ターミナル3)。ウィルス対策もかねて、計算エンジンと繋ぐ端末は2台にしてお客様に納めています。
 測定装置は2種類あります。ベベル形状を測定するCA-11と水晶ブランク寸法を測定するCA-13です。
 水晶デバイスは小型化してきています。一見、単なる四角のように見えますが、周りをちょっと削ったり、微妙な加工をしています。それに電極を蒸着し、導電性接着剤をつけてパッケージに固定し、そして振動させるという構造になっています。
 CA-11は、この微妙に削った状態……ベベル加工といいますが、その形状が特性に非常に影響があるものですから、水晶片を微妙に削った状態を3D的に測定する装置です。CA-13は、製品の立体的な形状を高い精度で測定する装置です。これらの装置で測定したデータをもとに、CS-01で有限要素法(FEM)を使って解析し、最適な設計を行う仕組みです。

どのような解析をされるのですか?

 モードチャート上で、ディップスプリアスが、どこでクロスしているかを計算で出しています。また、温度の特性、インピーダンスとの関係などを見ています。

 それから、電極がついた状態の水晶の内部エネルギー分布を計算し、視覚的に見ることができます。半分に割った状態で見るとエネルギー分布を立体的に見ることも可能です。他にも輪郭振動の中の成分が、これはY方向(厚さ)、こっちはZ方向(短辺)というように目で見て分かるようにしています。

ずいぶんと緻密に計算をされているのですね

 そうですね。これに電極をつけ、蓋をした状態が製品になっています。これは少し大きなものですが、ウェアラブルコンピュータ用途になると、こんな小さくなっています。
 小さくなればなるほど、とにかく精密に作らなければ成らないものですから、このような有限要素法を使って高い確度で解析を行う必要があります。

ソフトウェアは御社で独自に開発されたものですか?

 はい。固有値解析と圧電解析というものがありまして。固有値解析というのは機械的な変位の波の解析です。
 例えば机をポンと叩くと音がしますが、その表面を伝わった波だってあっちこっちそこら中にいく訳ですね。そして今度はこの厚みのところに反射した波が出てきます。これはもうあらゆる角度で起きる訳です。そこに電極があり、ちょうど奇数倍のものはエネルギーを与えると大きくなっています。だけど偶数倍であったり、それ以外のものは自然に減衰消滅すると言う性質があります。それをうまく電気的に合わせて、コルピッツ回路と呼ばれる周辺の回路でフィードバックをかけてくと特定の周波数に共振して大きな波になります。
 圧力のセンサ、加速度センサ、温度のセンサと色々ありますが、あらゆるセンサはまず物理的な変位を伴います。例えば圧電セラミックスの平板などで、一方向から圧力を加えますと電圧が発生し、圧力センサーに成ります。圧力をかけるというのは、実際に物理的にひずみを伴います。ひずみを伴ったものはそのままでは取り出せないわけです。ひずみを伴ったことによってそこに電気的な変化が発生します。その変化を取り出すわけです。ガスセンサであるとか、太陽のセンサも電気的に処理できないとコンピュータのシステムに取り込めません。
 物理的な変化に伴う変位があり、それを電気的に発電、例えばピエゾというのがその典型ですが、ストレスが微弱な電気信号になって、それを取り出すことによって初めてコンピュータにセンサとして機能している訳です。だからこの地球上にあるあらゆるセンサは必ずこの2つの要素があって初めて電気的な信号になります。だから実をいうとあらゆる材料が対象になるのです。この機械的な振動に伴う要因と、それを電気的なものに変換したデータとを計算することによって、あらゆるセンサが対象になるということなのです。ですから、我々は水晶振動子の解析をしていますが、将来的にはあらゆるセンサをこれでコントロールできるのです。
 水晶は振動子ということで一般的に知られていますが、セラミックスも、今ではずいぶん広く使われています。それも当社の解析装置で全部カバーできますが、まずは水晶に対象を絞って、そこで実績をつけることに重点を置いています。そして将来、他の分野でもセンサをコントロールしていきたいと考えています。

多くの企業に導入いただいていると伺っております。

 国内の水晶デバイスを扱う企業ではすでに我々のもので標準化しており、大企業では、各工場に複数台導入いただいているところもあります。海外においても台湾や中国を中心とした東南アジアの企業や、特殊なものではニュージーランドの企業にも導入実績があります。一般のコンシューマー向けにスマートフォンや家電製品、車関係の企業に広く導入していただいております。
 水晶に関わっているところは、月に2千万個から3千万個くらい作っています。スマートフォンだけでも大変な数です。CPUの発振器、GPS用の無線、時計、その他含めてだいたい4~6個くらいは中に水晶が入っています。
 それから車にはエンジンコントローラやサスペンションなど、色々なところにマイクロコンピュータがついていますが、これらはお互いに通信しなければいけません。そのため、大体20個、高級車になると50個くらい水晶がついています。ですから、ちょっとした工場でも概ね月に2~3千万個作ります。水晶を加工し、電極をつけ、ものによっては半導体をつけてパッケージにして製品化するのです。製品として月に1千万個作るって大変じゃないですか?もし不良品だったら全部捨てることになります。1つ1つの歩留まりよくするためには、1番いい条件にしないといけません。そのためにこのシミュレーターを使って、どういう条件にしたら1番いいかということを全部やるのです。日本のメーカーでは量産時の歩留りは98~99%くらいを目指して生産ラインを調整しているのですが、その解析の道具として使われています。水晶は益々小型高性能になっているものですから、接着剤もつけた状態で全部管理しています。接着剤もシリコン系やエポキシ系で差異がありますが、そういう材料によってどうなるかということもここで全部シミュレーションすることができます。

解析すべきポイントが多くて大変そうですね

 そうですね。温度特性であったり、ディップスプリアスの位置、寸法、インピーダンスなど、全部やるためには複素計算ができないとこういうのはでません。それらを全部計算で出るようになっているのが特長です。

水晶デバイスの品質向上に繋がる解析を網羅的に行えるのがセールスポイントですね。

 はい。こういうものを使うことによって、ゲーム感覚で最先端のものを開発できるのです。最近では、家電メーカーが車を作るという発表がありました。コンピュータがあれば誰でも車を作れるという時代ですから、自動化するときには必ず正確な通信ができて、そのためにはこういったもの(水晶デバイス)が必要で、そのためにはうちの装置が必要とこうなっているわけです(笑)。
 数式やグラフを並べて、厚い本見せられて勉強しろとか言われたってなかなか分からないじゃないですか。でもこうやって見ると、電極がこれでいいとかすぐに分かります。技術と専門家を育てるのは大変ですが、この装置があれば、新入社員でもすぐに最先端の開発に取り組むことができます。年配の人には嫌われますが(笑)。
 今は、水晶が中心ですが、ニューセラミックスといった新素材が開発されていく中で、全部これでもって開発することができますし、ラインの歩留りを改善することができます。

水晶デバイスに関わる事業を始められたきっかけは何ですか?

 まあ大それたことはないのですが、とりあえず「食わなきゃいかん」ということで水晶をやりだしました。
 もともとは、ベベル形状解析装置を作るところから始まりました。これは一目で削ってある形状が見えますが、このようにイメージに表せるのはうちの装置だからできるのです。何も無いと単なる水晶の1つの切片にしか見えません。だけど微妙に削ってあることがこの装置を通じて見えるようになっています。これがあっという間に広がっていきました。そして多くのお客さんからサンプルが入ってきますので、その中で解析までやろうとことになり、スタートしました。最初からこんな高度なことやろうとは、全く頭にも置いてなかったのですが、こういうものが広がっていったものですから、お客様の要望がたくさんあって、「それではやりましょう」ということで、大それたことを考えないうちにまあこうなってしまいました(笑)。

有限要素法を用いた解析アプリケーションは多く市販されていますが、なぜソフトウェアを作ろうと思われたのでしょうか?

 そうですね。例えばANSYSとか有名なソフトがありますが、そことの違いはやはり、形状データを作れるというところです。市販のソフトでは演算は出来るのだけれども、元になる構造データをどう作るのかというのが容易に出来ないのです。形状を読み込んで、そのまますぐシミュレーションできるのが我々の特長です。
 例えば、電極を付けた状態の水晶振動子に接着剤をつける際に、水晶の隅からどれぐらいのところに接着剤をつけるポイントをもってくるのかということも、形状を読み込んでシミュレーションできます。形状データを元にして、パッケージと接着剤と水晶の関係を見出す訳です。その上で計算をしていくのですが、このようにヤング率や温度係数、ポワソン比、密度など、特性を全部入れるんですよ。

 これは計算した例ですが、シリコン系とエポキシ系の材料をつけたらどうなるかを調べました。コンピュータ上で、見かけ上振動させるんです。そうすると、このように支えている部分に赤くなってストレスがかかっているのが分かりますよね。一方、シリコンは柔らかいのでうまく逃げているのが分かります。これを今度はモードチャートで見たらどうなるか、主振動に対してディップスプリアスがどう影響しているのかということを解析するんです。そうするとシリコン系ではちょっと当たっていて、こういうところに結合が起きているとか、エポキシ系は温度に関係なく固めてしまうので、振動が並行になってしまうとか、影響を調べることができるんです。これを元に接着剤の要件を調べることができます。
 これまでは、1つのデータを見るために、モノを作って(実物)半導体をつけて、パッケージして、測定するということをやらなければいけませんでした。しかも1個作ればいいという訳ではありません。回路やネットワークアナライザーには不安定要因が沢山ありますので、大体数百個作る必要がありました。そして分布を取る訳です。みなバラついていますから。その中のピークになる部分を見てはじめてここだというのを突き止めるという方法を取っていました。それがこれを使えば1発でわかります。材料費も人もいらない。数ヶ月かかっていた作業が全部いらなくなります。こういうことが簡単にできてしまいます。

接着剤ひとつとっても材料から、つける位置まで調べられるのですね。

 皆さん「接着剤」と簡単に一言でおっしゃいますが、導電性のある接着剤などは大変ですよ。しかもそれが固定される訳ですから、車に載せたものですと、振動しているため、剥がれ落ちたり、うまくいかないと事故を引き起こしかねません。車の事故というのは命に伴いますから、大変高い精度を要求されます。ですから、一番良い条件にしておかないといけません。やってみてから、使ってみたらというレベルでダメな訳です。

この業界にはいつ頃から携わっておられるのですか?

 私共がマクシス・ワンという社名で会社を立ち上げたのは2000年頃でした。その以前から別会社で日本マクシスという社名で行動していた時期がありました。それも10年ぐらいですかね。その時代に水晶業界に縁を得ました。ご説明した通り、水晶の加工の状態を見る装置や外観検査装置を作ろうという話になりました。日本マクシスは一旦解散しまして、その中のコアのメンバーで集まって再スタートした訳です。ですから水晶業界には20年以上携わっています。

御社には10年ほど前から、解析装置に組み込むコンピュータとして弊社の計算機を購入いただいております。
 当時と比べて計算機は相当性能が向上していますが、それによって変化した部分はありますか?

 やはり昔はメモリ搭載量が少なかったので、領域を20~30万要素でしか分割できませんでした。今はメモリを128GB搭載しているので、領域をさらに細かく100万要素で分割できます。
 計算時間についても昔のコンピュータで1時間程度かかりましたが、今では5分程度で終わります。
 ですから、計算機の性能向上によって当社の解析装置は、昔に比べて解析精度、処理能力ともに大幅に向上していると言えます。

事業を通じてやりがいを感じるところはどこですか?

 販売している立場から申し上げますと、導入しているところとそうでないところでは、目に見えて顕著に結果が違う訳ですよ。こういうものを使うと基礎的な知識がなくてもゲーム感覚で開発できるようになります。通常、作ったものを失敗したら「誰の責任だ」「いくら損したんだ」ということになりますが、コンピュータ上は「この条件が悪いんだ」ということがその場ですぐ分かりますし、尚且つ、失敗したということが知識になります。
 歩留まりも上がりますし、金とか銀を電極として蒸着するようなケースでは、1番最適な値に抑えることで30~50%ぐらいそれらの使用量を減らすことができたという事例もあります。
 ただ、使っているところは良さも分かっていますから「これはすごい」ということで次々採用していただいておりますが、そうでないところからは「そんなに上手くいくのかな」と懐疑的に見られることもあります。ですから、やりがいというよりは「なんで使わないのかな」と感じることが多くあります。

今後の展望についてお聞かせください。

 CS-01の改良を重ねつつ、継続的に販売していくことはもちろんですが、セラミックスなどの類似した業界にも踏み込んでいきたいと思います。去年、ヨーロッパの学会で発表を行ったのですが、終わったらかなり反響がありまして。現在はスイスの時計メーカーやギリシャのフィルターの会社、アメリカの医療用センサーを作っている会社などからも引き合いをいただいています。日本国内の企業は入れるところは大体入れましたので、台湾や中国を中心とした東南アジアで実績を作って、ヨーロッパやアメリカにも販売していきたいと思います。

本日は、とても夢のあるお話をありがとうございました。

小林 了 様のプロフィール

  • 会社名:有限会社 マクシス・ワン
  • 事業内容: 水晶デバイスに関る解析・検査装置の開発、販売
  • 取り扱い製品:
    ・OLPF検査装置
    ・ベベル形状解析装置
    ・水晶ブランク検査装置
    ・SAWウエハー検査装置
    ・画像技術による水晶ブランク整列装置
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