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茨城大学
増冨 祐司

"第17回目のインタビューは、茨城大学 農学部 地域環境科学科の准教授である増冨 祐司先生にお話をお伺いしました。
増冨研究室では、地域からグローバルの様々な空間スケールでFood securityとEnvironment securityが両立した持続可能社会の構築を目指し、これに対するシミュレーションモデルやGISをツールとして研究を行っています。"

本日はよろしくお願いします。

早速ですが、現在取り組まれているご研究の概要をご紹介いただけますか?

 主にやっているのは「作物成長モデル」を作ることです。コンピュータの中で作物を育てるということをやっています。

農学部の先生にインタビューさせていただくのは初めてなのですが、農学部で計算をされている方は珍しいですよね?

 農学部で大型のコンピュータを使っている人はほとんどいないと思います。ですから学会に行っても寂しい思いをしています(笑)普通、農学部の人は畑や研究室で実際の作物を育てて色々と実験をしますが、私は実際の作物を育てるのは非常に苦手で、すぐに枯らしてしまうんです(笑)
 元々、私は農学部出身ではありません。たまたま対象が「作物」というだけで、そのうち変わるかもしれませんし、大学院博士課程の時には「水」を対象にしていました。
 基本的にはコンピュータの中でできることをやっています。現場には勉強のために行くぐらいですね。

先生にいただいた資料に、「陸面過程モデル(MATSIRO)と作物成長モデルを結合させた「MATCRO」と呼ばれる新しいシミュレーションモデルの開発」とありますが、これはどのようなことをされているのですか?

 気候モデルという大きなモデルがあります。これは将来の気候予測などに使われているものですが、将来の気候予測を正確に行うためには地表面の状態を精度よく予測することが非常に重要になります。地表面が温まっているとか、ぬかるんでいるとか、あるいは蒸発量が多いとか、そういったことも予測しないといけません。陸面過程モデル(MATSIRO)は、地表面の温度や蒸発量、どれぐらいの日射が入ってきて、どれぐらいの照り返しがあるかといった陸面の過程(プロセス)をシミュレーションするモデルです。
 ただしこのモデルには作物の成長モデルは入っていないので、畑や水田でどのように水が蒸発するとか、あるいは水面の温度がどれぐらいなのかということに答えることができません。ですから、このモデルを農地でも利用できるように作物の成長をシミュレーションするモデルを組み込みました。MATSIROとCROP(作物)モデルをくっつけたので「MATCRO」と勝手に命名しました(笑)

シロに対してクロと付けた訳ではないのですね(笑)

 MATSIRO というのは、「Minimal Advanced Treatments of Surface Interaction and Run Off」の頭文字を取ってMATSIROと付けたということになっていますが、実際はつくばに松代という地名がありまして。つくばの研究者の方が作ったものです。

この研究の面白いところはどんなところですか?

 将来が分かるというのは面白いですよね(笑)基本的には対策に向けてこういった情報を出すんですけど、どれぐらい影響が出るかわからなければ対策の打ちようがないですよね?もしかしたらそんなに影響が出ないかもしれないですし、ものすごく影響が出るかもしれない。
 非常に大きな影響が出るのであれば、ちょっとずつ対策を打たないといけないので、そのための情報としての「予測」ですね。 占いや予言ではないですけど、かっこいいですよね「予測」って(笑)……それが一番面白いです。

過去のデータを元にシミュレーションをされているのですか?

 はい。過去10年とか20年ぐらいのデータを取得して精度を確かめています。

 

どれぐらいの精度があるのですか?

 1~2割は簡単に外れます(笑)場所にもよりますが、正しい値が5トン/haだったら6トン/haになったり4トン/haになったりします。例えば私がやっているグローバルスケールのモデルですと、北海道では稲が栽培できないということがよく起こります。それはある種モデルの限界で……。広い地域でやろうとすると、どうしてもどこかで不具合が出てきます。
 北海道は「開拓の歴史」があって、品種改良をしてきて、それでようやくあんなに寒い場所で収穫できるようになった訳です。ですから、世界とかアジアとか広い範囲を対象に全体的に精度よく計算しようとすると北海道のようにノーマルではない場所では推計値が大きく外れてしまうということが起こりえます。

そういった場所も含めてシミュレーションする時はインプットを変えて計算されるのですか?

 インプットというよりは、パラメータの調整ですね。 例えば作物は、播種してから成熟するまでに必要な気温の積算値というのがだいたい決まっています。これをそのまま北海道に適用すると、なかなか成熟してくれません。そこで北海道で計算する場合は、この値を低めに取ってやる必要があります。
 ただ、こういった調整を広い地域でやろうとすると大変です。それをいちいちやる情報もないですし、仮に情報があったとしても時間がかかるので中々できないのが現状です。地域の研究者であれば、地域で得られる情報を使ってやるのですが、広域に全球や大陸スケールでものごとを見たいという人にはなかなかそういうことができません。
 ですから、こういった広域を対象とした研究は、「ここよりはここがいいとか、悪い」という相対的な影響を大雑把に理解することが目標です。つまり、ざっくりと見るためのものです。この計算によって大きな悪影響が見込まれるところは、その後で細かなスケールの緻密な計算を行うということになります。

このようなご研究をされている方は増冨先生のほかにもいらっしゃいますか?

 環境研(国立環境研究所)でやっている人もいますし、あとは農環研(農業環境技術研究所)で同じ分野の研究をしてる方がいます。

将来的に商用化される可能性はありますか?

 基本的には政策利用の意味が強いです。大きな規模の話になりますと国策であったり、国際議論の場であったり、そのようなところに情報提供として持っていくことになります。ただ以前台風の被害予測をした際には、保険会社の方が興味を持たれていました。

そのような時は情報を無償提供されるのですか?

 はい。我々は税金でやっていますのでご要望があれば無償でご提供いたします。

面白さの反面、大変なところはどういうところですか?

 プログラムのバグ取りが大変です。1文字間違っていたのに気付かずに1か月かかった時もあります。変な結果がでてきたときは、プログラミングが間違っている可能性もありますし、プログラミングは正しくて、実際の世の中がそういうものだという可能性もありますし。どちらが間違っているかというのは隅々まで見てやらないといけません。それが大変ですね。

一度バグが発生すると大変ですね。

 はい。何日も籠もることになります。自分が書いたコードであればだいたいの勘所がわかりますが、他の方が書いたものをチェックするのは大変です。
 MATCROに関しては、MATSIROの部分も含め自身のコードに書き直して使っています。コードの書き直しには結構時間がかかりましたが、後々自分が作業する時に随分使い易くなりました。

どれぐらいの種類の作物の成長モデルを計算できるのですか?

 今のところ米だけです。日本ではコメのデータが結構手に入るのでモデルを作りこむのに丁度いいです。ただ、ゆくゆくは小麦やトウモロコシ、大豆なんかもやろうかなと思っています。

世界の食糧受給の問題もあります。これからもっと活用されていくといいですね。

 そうですね。農学部では、こうしたモデル計算やシミュレーションをやっている人はあまりいませんので、そこは面白くもあり、寂しくもあります(笑)

学会はどのような学会に参加されていますか?

 はい。農業と気象の話ですので、農業気象学会にはまめに出ています。気象学会にも温暖化の勉強をしに行っていますし、発表もたまにしています。

増冨先生は元々理学研究科のご出身で、その後地球環境に関するご研究を始められたと伺っておりますが、きっかけはなんだったのでしょうか?

 その頃は物理をやっていたのですが、周りの人がすごく賢くて。これは私には無理だなと思ってやめてしまいました(笑)やめてから、旅にでもでようかと考えていました(笑) それから色々ありまして、当時地球環境問題が話題になっていたこともあり、シミュレーションでなにかできることがないかと探していたところ、たまたまそういうことをやっている先生がいまして、「すみません入れてもらえませんか」と言って研究室に入れてもらいました。
 物理をやめるところから大学院に入り直すまでの期間には本当に色々な経験をして、今に至っています(笑)

弊社のコンピュータは先ほどご説明いただいたMATCROの開発に使っていただいているのでしょうか?

 気候モデルは通常、スパコンでないと動かないようなものなのですが、少し解像度を下げることで御社から購入したコンピュータでも十分に動かすことができるんですよ。

コンピュータは年々性能が上がってきていますが、新しく購入しただいたコンピュータの性能はいかがでしょうか?

 そうですね。まだグローバルな計算はしていないので格段に上がったという認識はありませんが、速くなったという印象はあります。

ご研究が行き詰まった時の解消法がございましたら、教えていただけますか?

 「間(ま)を置く」ことですね。ずっとやっていると気分も落ちてきてネガティブになりますので、ちょっと間を置いてお風呂に入ったりしていると、「そういえば、あそこをチェックしていないな」というように思い浮かんでくることが多いです。
 そうするとまたやる気が出てきますので。気分転換が大切だなと思います。

プロフィールに「ビール大好き」と書いてありましたが、それも解消法のひとつでしょうか?

 そうですね(笑)お酒を飲むのもひとつの解消法ですね。実はお酒はビールしか飲めないんですよ。酔っ払って、妻と子供をいじるとすごく嫌がられますがこっちは楽しくなります(笑)

どんな学生時代を過ごされましたか?

 大学生の頃は割と勉強しませんでした(笑)友達とバンドを組んだりしていました。大学院でも同じ物理をやっている同僚は皆勉強していまして。「これではいけない」と、博士課程2年目に入った頃に辞めて、全然違うところ(京都大学大学院 地球環境学舎 地球環境学専攻)の博士課程に入って、その頃からようやく勉強しだした感じです(笑)

研究室の学生さんはどんな方が多いですか?

 皆素直な良い子ですね。生意気な奴もあまりいないですし(笑)生意気ぐらいが丁度良いかとも思う時もありますが。大きな野望があるとか、「これだったら誰にも負けない」という負けん気とか、そういう尖ったところが多少あってもいいですよね。

学生さんにはどのようなことを普段求めていますか?こういう風になってほしいとか。これができるようになったら良いね等。

 「一般的に言われていることを鵜呑みにするな、よく考えろ」といったことをよく言っています。あとは、「やる時にやらないと碌な人間にならないぞ」とも言っています(笑)先ほども言いましたように、私自身博士課程に入り直したときぐらいからは結構真面目に勉強したんですよね。その時は「やらないといけない」と思ったので。別に今遊んでも構いませんが、いつかどこかでやらなければいけない時がきます。その時だけは一所懸命やってほしいと思っています。 その時に重要なのは「出来ないことなどこの世の中にはない」と思いながら挑むことだと思っています。
 「すでに誰か他に出来ている人がいるのだから自分にも出来るはずだ」と。「世界に一人しか出来ないことは、おそらく出来ないかもしれないけれど、これからやろうとしていることは、少なくとも世の中で1万人はできている人がいる。だったら君も出来るはずだ」と言っています。それは自分にも言い聞かせていることでもあります。

研究室では、学生さんごとに取り組まれていることは違いますか?

 そうですね。ですがパソコンを使ってなにかやるということは共通しています。私がやった研究の残ったものや、続きをやってもらうことも多いです。卒業研究では、最初があって終わりが無いと、つまり結果が出たというところまでいかないと周りも評価してくれませんので。そこまで行けるようなもので、かつ彼らが興味をもつようなものに取り組んでもらうようにしています。

ご研究が私生活で役に立ったことはありますか?

 子供にそのうちプログラミングを教えようと考えていますが、それぐらいですね。私の研究における唯一の武器はプログラミングですので。私自身の私生活に役立っているということではないですけどね。家でカチカチやっていると面白そうだと言って子供が寄ってきます。

もしかしたら将来同じ研究をされているかもしれませんね?(笑)

 そうですね。僕自身はこの研究をあと10年、20年したらもしかしたら面白く感じなくなるかもしれませんが、コンピュータサイエンスはこれからどんどん伸びてくると思いますので、コンピューターを使って何か一緒にできたらそれは楽しくていいかなと思います。

プライベートでなにかご趣味はございますか?

 研究が趣味です。あと最近は勉強をするのが結構好きになってきました(笑)中高生の頃は嫌いだったんですけどね。面白いですよね、勉強するって。研究とは直接関係はありませんが、経済学や生態学などの勉強もしています。いつか研究の役に立てば良いなと考えています。

今後の取組みについて展望を聞かせていただけますか?

 今は御社のコンピュータを使っていますが、いつかは京などを使ってシミュレーションをやりたいです。京を使わないと解けないような問題を探して、研究ができたらいいなと思っています。

– 本日はお忙しい中、大変興味深い研究内容をご紹介頂きありがとうございました。

増冨 祐司 先生のプロフィール

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