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工学院大学
徳永 健

"第15回目のインタビューは、工学院大学 教養教育部門 准教授である徳永 健先生にお話をお伺いしました。
徳永研究室では、「分子型量子ドットセルオートマトンの動作解析と理論設計」を研究テーマの一つに掲げ、限界が近いとされているシリコンを基盤とした半導体デバイスに変わる新しい仕組みのデバイスの実現に向けて、理論的なシミュレーションと実験の両面から考察し、研究を進められています。"

本日はどうぞ宜しくお願いします。
 早速ですが、先生は複数の研究テーマをお持ちなのですが、代表的なご研究をご紹介いただけますか。

 今回は、「分子型量子ドットセルオートマトン(以下QCA)の動作解析と理論設計」に関するお話と、お時間がありましたら「有機半導体材料の量子化学的設計」に関してもお話させて頂ければと思います。

宜しくお願いします。早速ですが、“QCA”とはどのようなものでしょうか?

 まず、言葉としては“量子ドット”、“セル”そして”オートマトン”という3つの単語をつなげたものです。
”量子ドット”というのは、基板の上に打った半径数10 nmほどの金属の小さい点のことです。”セル”というのは、細胞やマス目といった意味です。そして、”オートマトン”とは、模様や現象が、一定の法則に従い自動的にできる・起こる仕組みのことをいいます。「からくり」「自動機械」と訳されることもありますね。
 例えば、マス目(セル)がお風呂場のタイルのように沢山あり、あるマスの周辺に色の違うものがあるとそのマスの色が変わる・変わらない、といった法則に従って時間を進めていくと、最終的に、特殊な模様ができたり、全て同じ色になってしまったりします。生物の繁殖をモデル化したライフゲームは、セルオートマトンの代表例です。量子ドットを使ってマス目を作り、セルオートマトンのような現象を実現させたものが量子ドットセルオートマトンです。

それはどのようなものに使われるのでしょうか?

 コンピュータの基礎構造として利用することを目標にしています。 現在、コンピュータのCPUは電界効果トランジスタ(FET)などを使って作られています。近年、CPUのスピードがどんどん上がってきていますよね。ちょうど博士の学位を取得した頃のことですが、今の原理そのままでCPUの性能を上げていくと、ムーアの法則 ※ によれば、そろそろ演算速度の限界に到達するという話を耳にしました。そうすると、近く、新しい原理のコンピュータを作る必要があるかもしれない…と思いました。そこで、ポスドクの時の研究テーマとして、QCAを用いた新たなコンピュータに関する量子化学計算を掲げました。
※ 世界最大の半導体メーカーIntel社の創設者の一人であるGordon Moore博士が1965年に経験則として提唱した、「半導体の集積密度は18~24ヶ月で倍増する」という法則。

それは、限界を超えることができるかもしれないということですよね?

 理論上はできる、と言われていますが、本当にできるかどうかをコンピュータシミュレーションで確認するのが私の研究テーマです。実用化できるかどうかはまだ分かりませんが、未来のデバイス候補の一つとして検討しています。
 本当のことを言うと、新しいCPUの実現よりも、電子やホールの移動現象を研究したいという希望がありました。ですので、新しいデバイスを作るために電子の動きを見ているというよりはむしろ、電子やホールの動きを研究するためにQCAのテーマを選びました。

民間の企業(CPUメーカー)と共同研究をされていますか?

 いえ、まだ全然そのような段階ではなく、もっともっと手前の基礎研究です。 幾つもの段階を経て新たなデバイスに至るかもしれませんし、トランジスタを用いた現在のCPUに対する優位性がなければ、なくなってしまうかもしれません。そこはまだわからない状況です。

この研究での新たな進展などはございましたか?

 博士の学位を取ってから約7年半、これまでは細々とシミュレーションばかりやってきたのですが、つい最近、実験研究者の方との共同研究がスタートしました。
「理論を実験で確かめることができる」ということで、私の中では大変に大きな進展です。

QCAと現在のデバイスではどのような動きの違いがあるのでしょうか?

 QCAの利点を表すキーワードとして、「カレントフリー」という言葉が出てきます。「電流を流す必要がない」、という意味です。トランジスタは電流を流し、その信号伝達によって演算をします。一方、QCAは、セル間の電荷の反発によって演算を行います。

 通常、QCAの1つのセルは4つの量子ドットを正方形の頂点の位置に配置して作られます。その2か所に例えば電子を1個ずつ注入します。このとき、相対的には、2個のドットの電荷はプラス(赤色)、残りの2個のドットはマイナス(青色)になっています。

このようなセルが、タイル状に無数に並んでいると想像して下さい。プラスとプラス、マイナスとマイナスは反発します。あるセルの状態は1とすると、電荷の反発により、それに隣接するセルの状態も1になります。このようにセル間で情報が伝達していきます。
 1つのセルの中で、赤がスラッシュ状に並んでいるものを状態0、赤がバックスラッシュ状に並んでいるものを状態1の信号と考えることができます。1と0の信号を伝えることができますので、セルをうまく配置して入力を付けることにより、演算をさせることができます。 セル内で電子が動くことにより1と0が入れ替わるのですが、電流はセル内だけで流れ、セルを跨いで流れるわけではありません。これが「カレントフリー」という意味です。
 セルを上手く組み合わせることにより、FETで作るのと同じような論理回路を構築することができます。

とても難しい研究テーマですね

 そうですね(笑)。昨年は、当研究室に配属された4年生の1人にこのテーマを担当してもらい、2月に卒論発表をしたのですが、聞いている審査の先生に、「わからんねぇ…。こりゃ難しい!」と言われました(笑)。
 私自身は、主に1-2年生の化学の基礎教育に携わっています。基礎教育では、自分の専門以外の様々な科目を勉強します。このQCAのテーマを始めるに当たり、私の学生時代に受けた基礎教育の何が一番役に立ったかというと、おそらく「情報処理概論」です。コンピュータの仕組みの理解には、AND回路やOR回路といった論理回路の理解が必須ですが、このテーマをやろうと思った時も、1年生のときに勉強した内容を覚えていたので、取っ付きやすかったですね。 そういう意味では、色々なことを幅広く勉強しておいて良かった…と実感しました。

先生の研究の論文でいくつか問題点が挙がっていたのですが、理論上解決できる仕組みを教えてください。

 まず、QCAデバイスでは、基板に金属の量子ドットを4つ打って1つのセルとします。2つの量子ドットに電子を注入し、0と1の状態を実現させます。そして、複数のセルを組み合わせて0-1を切り替えることにより、論理演算をします。
 0の状態と1の状態のエネルギーが全く同じで、これらの状態はエネルギーの山(活性化エネルギー)で隔てられています。しかしながら、この山が低いと0-1が勝手に切り替わってしまい、正しい演算ができません。
 通常の量子ドットでは、エネルギーの山が低いために常温では0-1が容易に切り替わり、実用化できないと言われています。実験でも、金属の量子ドットを使った場合では1 K以下の温度でないと0-1状態を保持することができないことが確かめられています。
 そこで、解決法として、金属の量子ドットの代わりに分子を用いることが提案されました。これを分子QCAと言います。分子1個の中に4つのユニットがあるような分子(例えば、4核の金属錯体)を使って0-1の状態を考えると、0と1の間にあるポテンシャルの山が金属の量子ドットを使った時よりもずっと高くなる、ということが理論上わかります。そうすると、常温でも0-1が勝手に切り替わらなくなり、正しく演算ができるはずです。ですので、近年は分子QCAデバイスを作る試みが行われています。ただ、基板に分子を置いて論理演算を行うためには、走査トンネル顕微鏡などを用いた高度な技術が必要ですのでまだ実現されていません。これからの進展に期待ですね。

QCAの研究自体はいつごろから存在している研究なのでしょうか?

 QCAデバイスをコンピュータの原理に用いるというアイディアは、1993年にC.S. Lentにより提案されました。実験で論理回路の動作が確かめられたのは、1997年です。2000年ごろからは、金属の量子ドットを分子1個で代用する研究が始まり、現在も盛んに続けられています。私が取り組み始めたのは博士の学位を取ってちょうどポスドクになる2007年です。

それは世界的にも同じような時期なのでしょうか?また、日本は世界と比べて研究の進行具合はいかがですか?

 そうですね、今の話は世界的な年代の話です。日本で研究している方は、さほど多くはないですね。私自身はあまり考えたことがないのですが、様々な企業や研究機関が競争しているという感じではなく、研究室レベルで続いている研究テーマ、というイメージです。

どれくらいの研究者様がこの研究をされているのでしょうか?

 かなりマイナーだと思います(笑)。その分、この研究が進んだときに一気に注目される可能性があり、やりがいもありますね。
 自分で計算だけをやっていたときは、あまり先のことは考えていませんでしたが、実験研究者の方と一緒に研究を進めていくようになると、「2-3年後には基板にくっつけて顕微鏡で測定して……というところまでいけたらいいですね!」といった感じで、夢が広がります。

長年研究されていますが、年々進化されていますよね?

 少しずつではありますが、進んでいます。「このような電子構造を持つ分子だと、このような信号伝達挙動を示す」といった知識が蓄積されてきています。特に、分子軌道の分布や、分子軌道エネルギーの観点から解析を行っています。

この研究にはどういった計算手法を用いているのでしょうか?

 簡単に説明すると、時間に依存するシュレディンガー方程式を用いて、電子の動きを見ています。上の図に示したモデルで計算した例を、結果だけですがお見せします。もともと電荷がないところに、スイッチとしてqの電荷が現れるとすると、その反発によって分子内の電荷が変化することが分かります。
電荷の移動にかかる時間や、電荷の移動量も分かるので、演算にどれくらいの時間がかかるかを大雑把に見積もることが可能です。このような挙動には、分子軌道の分布や分子軌道エネルギーの値が深くかかわっていることが分かっています。

計算機はどういったものをご使用されていますか?

 PC・ワークステーション(WS)等を主に使用して計算しています。研究機関のスーパーコンピュータを使用することもあります。

2013年に弊社のWS(HPC5000-XS216TS-Silent)をご購入いただいているのですが、問題なく稼働していますか?

 こちらがそのWSです。研究室内に約20台のWSとPCがあり、計算を流しています。
 corei7、corei5、Xeonなど、様々なCPUを搭載したものを使用しています。WSは問題なく稼働しています。どれくらいの規模の計算をするかにも依りますが、HPCさんから購入したものがCPU・メモリともに最も性能の高い計算機なので、負荷の大きい計算はこれを使用して流すことが多いです。

重い計算というのはどのくらいの時間を要するのでしょうか?

 事前にどのくらいの時間を要するかを考えてから流すと予測はつくのですが、何も考えずに計算を流してしまうと1ヶ月位かかることもありますね(笑)。そういう時は、計算の近似を粗くするか、プログラムを修正して高速化を図ります。時間を予測して計算するときは、長くても2-3日程度で終わるようにしています。

一つの専門知識だけではなく、幅広い知識が要求されるということですね。優秀な方でないと手を出しにくい研究テーマですね?

 いえいえ(笑)。ただ、一つ思うのは、大学1,2年生の頃は基礎科目として数学や物理など様々な分野の基礎を学びましたが、今の研究はその頃の授業内容すべてを駆使して成り立っている、ということです。
 ですから、物理、数学、プログラミング、情報処理、英語、すべてが今の研究に活きています。私自身が勉強好きな人間なので、とにかく、どの科目も一生懸命勉強したので、それが今とても役に立っています。

ご研究の実証説明にはどのようなことが必要とされますか?

 実験は共同研究者の方にお願いしていて、私は計算しか行っていません。ですので、自分自身で実験により実証するわけではないのですが、信号の伝達がより速くなりそうな分子を提案する、いう点で貢献していきたいですね。
 やはり、このようなデバイスのシミュレーションの話をすると、実験的にどうやって検証するのでしょうか?とよく聞かれます。
 デバイスの実証には、走査トンネル顕微鏡が不可欠になります。走査トンネル顕微鏡というのは、基板表面を細い針でなぞっていき、トンネル電流が一定になるように針の高さを変えることにより表面の様子を探る顕微鏡です。
 この顕微鏡を使うと、針が分子にあたった状態で、電子を針から一つ注入したり、針の先に電子を局在させてその反発で分子に信号を伝達させたりできると考えています。これにより、QCAで演算できることを確かめられるかもしれません。
 既に、顕微鏡で1分子を観測し、状態の1, 0をスイッチできるという論文が、他の研究グループから発表されています。さらに、1歩進めてその信号をセル間に伝達できれば、デバイスにできるかもしれません。

先生の研究テーマは複数ございますが、それらは同時進行で行われているのでしょうか?

 すべて同時に行っています。コンピュータを使って計算していることは共通していますが、内容はバラバラです。ただ、テーマの1つである有機半導体に関する研究も「分子の中を電子がどう動くか」に注目しているので、QCAについての研究との共通性が大きいですね。

研究分野も多岐に渡っていらっしゃいますね。(量子化学・量子力学・統計力学・熱力学)

 研究分野、対象、手法など、色々なことを行っています。今行っているQCAでは、分子数個を対象にしています。以前、九州大学にいた頃に、例えば、水の中にある分子の周辺に数多くの水分子があった時に、水分子が様々な現象にどのように影響してくるかをシミュレーションしたのですが、その理解のためには系全体を統計力学的に見ることが必要でした。その時に、熱力学や統計力学の面白さと重要性を学びました。

商用のアプリケーションはお使いですか?

 量子化学計算ソフトウェアであるGaussianや、可視化ソフトウェアであるGaussViewを使用しています。一般的な計算はGaussian、GaussViewで事足りています。Gaussianで分子の構造や波動関数を求めて、そこから先は自分の作ったプログラムを使って時間変化などを見る、という手順が多いです。

論文上でQCAに関する問題点を3つ挙げていらっしゃいました。先ほど常温に関する問題は既にお聞きしましたが、QCAから分子QCAになることで解決できる残りの問題点に関しても教えてください。

問題点2:デバイス動作が、量子ドットのサイズ・位置に大きく依存する
   - 基板の上に金属のドットをポツンポツンと打っていくと、1個1個のサイズや位置が同じにはならず、少しずれます。金属のドットのサイズや位置が少し変わるだけで、動作が大きく変わってしまうという論文報告があります。一方、分子は決まった形をしていますので、必ず同じものをペタペタと配置することができます。量子ドットとして分子を使用すると、サイズや位置が一定になるというのが分子QCAの最大の利点でしょう。
問題点3:セル間のクーロン相互作用が弱いため、信号伝達強度が弱い
    - QCAデバイスの動作のポイントは、セル間に働くクーロン力を利用している点です。金属のドットでQCAを作り電荷を注入すると、ドット全体にモヤッと分散したような形になります。そうすると、セル間に強い反発力が働きません。つまり、信号が伝わりにくくなります。
 一方で、金属原子が4つあるような分子QCAだと、その金属近辺に電荷が集中的に存在します。狭い範囲に電荷が集中しているほど、ドット間のクーロン力が強く、信号の伝達が起こりやすいと言われています。

3つの問題点の中で、実際に3つとも計算機を使って解析を行っているのですか?

 特に、「セル間のクーロン相互作用が弱いため、信号伝達強度が弱い」という問題の解決に一番力を入れています。金属の種類によって信号伝達挙動が違ってくるので、どの金属原子が良い・悪いという知見を得て、適切な分子を実験研究者の方に提唱できると良いですね。

計算するうえで難しいと感じるところはどのようなところでしょうか?

 分子の中での電荷の時間変化をみるためのプログラムは既に作り、手法自体も論文で確立しているので、計算を流すだけなら容易です。ただ、信号の強弱の原因を探る必要があります。このためには、量子化学的な観点で考える必要があり、どのような道筋を通って電子が流れるのか、どういう分子軌道を伝って電子が流れるのか…そこの見極めがやはり大変ですね。
 自分の作った解析用のプログラムを用いて、どの軌道が大きく寄与しているかを抽出し、分子設計に役立てています。

もし将来的にQCAが実用化されるとしたら、今現在の課題となっていることや条件などはございますか?

 まだまだ実用化を考えるような段階ではないのですが、まずは常温で動作する必要がありますね。ただし、演算速度が桁違いに速ければ、液体窒素程度の動作温度でも実用性はあるかもしれません。あとは、基板に分子を置いて、デバイスにするのも難しいと思います。ですから、この研究は急に何かが加速するというよりは、日に日に少しずつ進歩していくといった感じで、仮に実用化したとしても、まだしばらくかかりそうですね。

もしこの研究に挑戦したいという学生さんが研究室に入った場合、深く理解するまでに時間がかかりそうですね。

 そうですね。すぐに理解できる内容ではないですね。1年かけて少しずつ理解して、卒論発表前にやっと少し理解できたかな?という程度で良いと思います。
 私自身、学生時代から難解な研究テーマを扱っていることが多く、学会で発表しても理解してもらえないことがよくありました(笑)。それに比べると、この研究テーマのほうが、よく理解してもらえているように感じます。中には、この研究に興味を持ってくれる学生さんや研究者の方もいますので、とても嬉しいです。

やはりこの研究に興味を持つ学生さんは、先生が学生の頃のような感じで勉強熱心だったり、好きなものが似ていたりするのですか?

 いえ、あまり私に似ている子はいませんね(笑)。でも、かなり勉強しないと理解できない研究なので、頑張ってもらいたいところです。将来、10年、20年後にQCAの研究が進んでいるか、完全になくなっているか……。今のCPUに代わるデバイスが幾つか出てきた時、その中にQCAがあったら嬉しいですね。仮にQCA以外の物だったとしても、それが何なのか、とても興味がありますね。

研究室の学生さんは何名ほどいらっしゃいますか?

 応用化学科の4年生が4名います。自分の研究室以外の学生さんが、Gaussianの使い方や量子化学的な知識を教えてもらいに来ることは、たまにありますね。

学生さんの教育で心がけていらっしゃることはございますか?

 基本的には自由にやらせています。週に2回、与えた研究テーマの進捗状況を確認して、進んでいない時は尻を叩いたりもしますね。内容的には、3名がQCAに関する研究で、残りの1名が有機半導体に関する研究をしています。今年はQCAについての実験の共同研究も始めましたので、QCAの研究に力を入れています。
 実際に研究していることの本質は、どちらのテーマも、電子やホールの流れに関することです。ですので、特別誰かが全く違うことをやっているというわけではなく、プログラムが流れない時などはお互いに原因を話し合ったり、アドバイスしあったりしています。

研究ポリシーはどのようなお考えをお持ちですか?

 研究ポリシーについて、特に考えたことはなかったですね。強いて言うなら、学生の頃に自分が所属していた研究室は、実験研究と理論研究の両方をこなすところでした。私自身も、学部4年生と修士課程1年生のときは、実験研究と理論研究も両方ともやっていて、実験の反応待ちの間にプログラムを作ることもありましたね。
 その後、キャンパスの移転もあって実験はしなくなり、博士課程の頃は理論研究のみになったのですが、将来の目標としては、やはり自分の研究室を実験と理論の両方とも兼ね備えた研究室にしたいな、と思います。まだ、全然実現できてはいないのですが、このような目標を考えますと、「色々なことを勉強し、理論も実験もこなす」というのが研究ポリシーかもしれません。私の研究テーマでは、色々な知識が必要となるので、大学の基礎科目で習った基礎的なことをしっかりと理解して研究に生かしてもらいたいです。

「有機半導体材料の量子化学的設計」というテーマのお話をお聞きしてもよろしいでしょうか?

 原理としては、QCAの研究とつながっています。分子の中を電子やホールが流れる様子を見てみよう、という意味では同じなのです。ただし、大きく違うのは、QCAの研究テーマは、”現在あるデバイスとは別の仕組みのものを作りましょう”というのが目標なのですが、有機半導体材料の研究テーマは、”現在あるデバイスと同じ仕組みのものを別の材料で作りましょう”というのが目標です。
 半導体というと、通常はシリコンを使うわけですが、最近、有機ELや有機LEDといった言葉を耳にするように、有機物でデバイスを作るという研究が盛んにされています。そこで、私はコンピュータを使って新しい有機半導体を提唱するという研究をしていて、1例としてフラーレンを対象にしています。
 半導体にはn型(電子を流すもの)とp型(ホールを流すもの)の2種類あり、これらを組み合わせて色々なデバイスが作られています。しかし、電子またはホールの流れるスピードが、一方だけ速くて他方が遅いと、応用範囲が狭くなります。
フラーレンはもともと、電子を流しやすいが、ホールを流しにくい分子です。このため、フラーレンは電子を流す用途には使えても、ホールを流す用途には使いにくいので、結果的に使いにくい分子になってしまいます。そこで、フラーレンに何かくっつけてホールを流しやすくする、ということをシミュレーションで試みています。

 フラーレンの、どこに何を付加させるとホールの動きが速くなるのか?ということを解析して、学会発表や論文発表を行っています。今は、フラーレンの中のどのようなルートを電子やホールが通っていくのかというのをQCAと同じ手法で求めています。元になる方程式自体は全く同じです。フラーレンに水素をいくつ付けると速くなるか、電子は水素を避けて通るのか水素近辺を通るのか……ということをシミュレーションしています。
 マーカス理論によると、再配列エネルギーが小さいほどキャリアの移動度は大きくなります。ホール移動の場合、最高非占軌道(HOMO)が分子全体に非局在化しているほど再配列エネルギーが小さく、HOMOが局在化しているほど再配列エネルギーが大きくなるという結果を得ています。

残念ながら、計算した分子については実験的に確かめたことがないので、こちらもQCAと同様に色々な方とコラボレーションしたいですね。
QCAよりも有機半導体の論文を多く書いていますし、QCAに比べると実験的な検証も行いやすいのですが、残念ながらまだ具体的な話はないです。
 有機半導体の話は、学会などでも発表件数が多いので、QCAよりもずっとメジャーな研究だと思います。最近は実験研究でも、計算の結果を入れてサポートするようなものを入れないと論文が受理されにくいという話も聞きますので、Gaussianなどを使って計算してみたいという実験研究者も増えているようですね。

何か研究以外で趣味はお持ちですか?

 2年ほど前から、ランニングをやっていまして、無駄に走っていますね(笑)。山岳耐久レースや市民マラソン大会にも出ます。スタート直前の高揚感はちょっと癖になりますし、自然の中を走るのは良い気分転換になります。レースでは、割とがむしゃらに走っています(笑)。

最後に、今後の展望や、特にお話されたいことなどございましたら是非!

 実験の研究者の方とコラボレーションして、色々なことに挑戦してきたいですね。
 QCAの候補分子として、金属を含む錯体が良く知られますが、錯体ではない有機化合物で作ることもできます。つまり、有機・無機を問わず様々な物質で作ることができるので、色々な研究者と協力できたら良いと思います。
それをきっかけに研究が加速するのが楽しみですね。
 私達の進めてきたQCAの理論研究も、実験研究とのコラボレーションという新たな局面を迎えました。これから、理論計算・分子合成・分子測定を駆使して、QCAコンピュータを実現したいですね。この記事をご覧になった方は、ぜひQCAという言葉を覚えていて下さい(笑)。未来のコンピュータはQCAからできているかもしれません。

研究室に設置されているコンピュータ拝見させて頂きました。

徳永 健先生のプロフィール

  • 研究室HP:工学院大学 基礎・教養教育部門 一般教育部
  • 研究概要:
    ✓ 分子型量子ドットセルオートマトン(分子QCA)の動作解析&理論設計
    ✓ キャリア輸送材料の量子化学的設計
    ✓ 溶媒和構造の変化を通じた化学反応エネルギーの力学的仕事への変換メカニズムの解明
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