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岩手大学
加藤 大雅

第4回目のお客様インタビューは、岩手大学 工学部 機械システム工学科 助教である加藤 大雅先生にお話をお伺いしました。
弊社計算機を導入して戴くきっかけとなった「岩手大学 三陸復興プロジェクト」。三陸水産業の収益性改善に向け、最新熱流体解析技術で昆布乾燥技術に携わり、復興推進に貢献されています。新たな分野への参入における、興味深いお話が聞けました。

現在携わっていらっしゃるプロジェクトをご紹介いただけますか?

 「岩手大学三陸復興推進機構」という組織の中の水産業復興推進部門の下で導入された計算機です。アプリケーションはANSYSを使用し、計算は研究員がフルタイムで行っています。

何名体制のプロジェクトなのですか?

 把握するのが難しいです。というのも、工学部・農学部・教育学部・人文社会学部の全学部で取組んでいるかなり大規模なプロジェクトで、コンブ乾燥(最新熱流体解析技術による高効率なコンブ乾燥技術の開発)に関しては、その一部です。
 水産業復興推進のプロジェクトではありますが、例えば農学部では、水産学の観点から研究していたりします。
工学部(機械システム工学科)では、水産業に関する機械(つまり乾燥室やコンブを加工する機械など)の研究と設計をしています。
 また、地域防災にも深く関わっており、そちらは「津波防災」に関する取組みです。その中で私は、水産研究センター各部門の中の「加工技術」という部門のコンブ乾燥に関わっています。
コンブの乾燥の効率化においては、学部内では船崎教授、私(加藤先生)、井村研究員、富樫技術補佐員の4名で取組んでいます。

弊社の計算機を使用しているご研究はどのようなものになりますか?

 研究の内容としてはとてもシンプルです。
三陸ではワカメ・コンブが非常に大きな産業になりますが、津波で施設が破壊され、今年になってやっと一部の漁師さんたちが例年の8割ほどの収穫ができるようになり、今後本格的に市場に出せるような段階になりました。
 そもそも、乾燥コンブとして商品を市場に出すために、コンブを乾燥させることが必要になるのですが、そのコンブを乾燥させる部屋というのは漁師さんたちが一軒一軒、個々に所有しているものです。
家の裏に倉庫兼乾燥室みたいなものがあり、高さは7メートル×奥行き6メートルくらいのところにコンブを吊下げてコンブを乾燥させています。 重油や灯油で燃やしたバーナーから出す熱風で一日中風を吹きつけて9時間ほどかけて乾燥させているのですが、部屋の温度を70度に設定し、9時間乾燥となると、非常に燃料コストが高いのです。
 70度で保持するだけではなく、乾燥しないといけないので、「窓を開けて暖房しているような状態」で非常に燃料(コスト)を必要とします。
 そうなると、そもそもこの乾燥室を建てることも難しくなっています。 燃料が毎年価格が上がってる現状で岩手の三陸水産業を復興するには、根本的に生産コストを何割かドラスティックに下げないと生き残りが難しいと判断しました。
そのためにどうしたら良いか…一番シンプルな答えとして燃料とコストを下げるというために、(港の近くに多い乾燥室はほぼ震災によって流されてしまったということもあるので)今までとは違い乾燥設備をコスト面を重視した上でゼロから作り直すことになりました。
 乾燥室自体が大きいものなので、もの作りは結構難しく、スケールモデルの実験もお金がかかります。漁村ごと、漁師さんによって手法も違います。 そのような理由から、まずはコンピューターのシミュレーションで色々なパターンを見ることで、どこに問題があるのか、また、他の地域のやり方などをシミュレーションしてみて、乾燥においてどういったことが起こっているのか、ということを研究しました。

 これまで科学的なメスが入ったことのない分野であり、皆、代々試行錯誤しながらそれぞれの手法でやってきていたため、まずそこを一度コンピュータを使って効率の良いやり方を考えてみる、そして最終的に実験してみて実際に漁協との共同施設を建て、次の世代の乾燥コンブ施設を作るという目的で、コンピューターシミュレーションの部分を担っています。
 とはいえ、コンピューターは昨年10月に導入しましたので、実際の実験を行える段階ではありません。
 今年は、田老地区や宮古地区などの港方面に行き、どういう手法で乾燥させているのかを調査しました。現在はコンピュータシミュレーションによって分析している段階です。
 最終的にはゼロから効率良い乾燥設備を作るという目標があるのですが、漁師さんにとっては収入源となっているものなので、今あるプレハブの状態で尚且つ効率よく作業ができるかを考えながら簡易的に復活させることが優先されています。
 基本的にはそれらもシミュレーションで、風の向きを調べ、まんべんなく熱風がいくようにするための計算をしています。

コンブは色々な形状があると思うのですが、計算(シミュレーション)をする上で難しいところなどはありますか?

 計算は、大変です。 いづれやりたいことでもあるのですが今のところはまだ、コンブの形状の詳細なところまで計算するということはできていません。
 1つの大きな目的として、何年か先になりますが形状を踏まえた計算までは、計画の最後に出す、同時に、漁師さんが毎年行う作業にフィードバックするために簡易化したモデルでシミュレーションをしています。(とはいえ、非常に大規模な計算にはなっています。)
 コンブの形状は色々ありますが、標準化しないと難しい部分でもあります。

三陸復興プロジェクトを始められたきっかけは?

 そもそも岩手大学は農学部が非常に有名です。
もともとは内陸であり沿岸と内陸の交通の便が悪いという特徴などもあり、水産との接点があまりなかったのです。
更に、水産を科学的な観点から研究している方もあまり多くはなく、鮭や鮪に関する研究は非常に多く規模も大きいのですが、コンブやワカメの乾燥に関しては研究の対象となった事例はありませんでした。
 また、水産工学専門の研究所の方にお聞きしても、これまでコンブに関する研究を行ったこともありませんでした。
大規模な流体力学に関する実験や研究を行っているグループもなかったことから、私が所属するグループが熱・流体の大規模シミュレーションや大規模な実験を行ってきたために、今回自然な流れで(三陸復興プロジェクトの)お話をいただいたのではないかと思います。
 もちろん、このプロジェクト以外にも、コンブの乾燥に関してだけでも小さな規模の依頼もありますし、その他の依頼などもお受けすることはあります。

今回のプロジェクトに携わったことで、良かったことはどんなことですか?

 今年6月に初めてシミュレーションしたもの(研究結果)を漁協の方々に対して披露し、ご提案する機会を設けることができたのですが、これまで科学のメスが入っていなかったというのもあり、現場での色々と試行錯誤されていたお話を直接聞くことができたことはとても興味深いものでした。水産のことに対し、何もわからない状態から始めることで、新たな分野のお話を聞き、(シミュレーションを)やればやるほど難しいと感じる部分も出てきたのですが、うまくいけばコストを下げ、作業時間短縮もできるなど、漁協の仕事の効率化に貢献できるのでは?ということを考えますととてもやりがいを感じました。
 漁師さんたちは非常にタフな方々が多く、初めは時間短縮に関してもあまり気にせず、むしろ楽しんで作業している方も多くいるという事実もありましたが、業務効率化による利点をお伝えし、話し合う中で少しずつ考え方も変わっていく過程もやりがいを感じました。周囲と共同作業していくという風潮の農家の方々とは対照的にテリトリーを重視するという仕事の手法もあり、初めはこのプロジェクトが多くの方々と情報共有しながら進めて行くというスタイルでもあるため違和感を感じられた方もいらっしゃると思います。
 そんな中、漁協の方々が国からの助成で共同の(コンブ乾燥のための)プレハブ施設を何棟も建てたので今は共同作業が発生したのですが、これはこれまでにない取組みでとても珍しいことです。
具体的な成果はまだ得られていないのですが、新しいやり方を試みて利益をもたらすことができれば、そのやり方が浸透するのではないかと考え、研究とその成果のプレゼンなどを繰り返し現在試行錯誤しています。
 状況は、少しずつではありますが変わっており、それを見られることはとても面白いです。新しく設計するものができるとしてそれを使うことで、例えば燃料が2割削減できることがわかったらとても嬉しいことだと思います。
 計算上では無駄な部分がどこなのかは出てきていますので、機械工学の観点から見てアイディアを出すのですが、それを出すだけではなく、漁協の方々や漁師さんが維持できるシステムでないといけないので、そのあたりのバランスが難しいと思います。

シミュレーションでコストの削減ができるということが実現したとき、だいぶ変わりそうですね?

 現在はまだシミュレーションの段階で、「理論上」ということになるので、最終的にはその設備を漁協の方、漁師さんたちが違和感なく使いこなせるようになるところに持っていくことが目標です。
 食べ物を扱っているということは、非常に繊細さを要するところでもあります。
熱力学や工学的に見てコスト削減や時間短縮ができればそれでいいわけではなく、それができたところで製品の味や食感が変わってしまっては意味がないので、これまでの三陸コンブのブランドの質を下げずに燃料コストも削減する…ということがとても難しい課題だと思います。
 ただ、今まで科学的なメスが入るということがなかった中で、コンピューターシミュレーションのようなツールは非常に役に立つと思います。
 漁協の集まりに参加し、お話を聞くことで、コンブ以外の仕事をされている方にもシミュレーションで今よりもっと良くなるということを想定する場面は多々あります。

漁師さんは経験を重視される方が多いかと思うのですが、そういった世界に参入することで反対意見はなかったのでしょうか?

 意外にも、反対意見はありませんでした。初めは抵抗があるように思えたのは否めないのですが、何度もお会いするうちに受け入れられるようになりました。
 仕事柄、保守的なイメージのある漁師さんたちですが、プロジェクト自体に対する反対意見よりもむしろ、これまでの経験上浮かんだアイディアを話して下さったり、よりよくするための提案・質問などもしてくださり、新しいものを取り入れることを楽しむような空気を感じました。
これまでの話をまとめますと、
 水産市場も刻々と変化しており、それに伴い漁協や漁師さんたちは買取り業者さんから、手法の変化やアジア諸国への対応など、国際的なレベルを求められることも多くあるようです。そのため、頻繁に勉強会などが開き、試行錯誤を繰り返しながら、変わりゆく市場に対応しようとしながらもこれまでの手法では限界がある部分もあり、フレキシブルに対応しようにもどうしたらよいのかわからない…という中で私たちが科学的な観点からメスを入れることが助けになることができるのでは?と思いました。

現在弊社の計算機をお使いになっている中で、性能(スペック)が今より向上した場合、やりたい研究テーマなどありますか?

 新たに何か違う研究をやりたいというよりも、今やっている研究テーマでより高いレベルの要求に応えられるようになればいいなと思っています。
 もともとの研究としている航空エンジンに関してももっと大規模なものをやってみたいという希望はあります。(なので計算機はあればあるだけいいですね。)
 計算機のメリットは「成果が分かりやすい」ということだと思います。性能が10倍になったら成果も伴う…といった感じで理論上の想定がしやすいですね。

先生の今後の展望をお聞かせ下さい

 計算力学、流体力学を専門にしているのですが、業界全体として計算機センターを利用するのが主な時代から、研究室に置いて手元で計算できるワークステーションタイプのものが出てきたことで、中小企業も手軽に計算機を使えるようになればいいなと思います。
 コンピューターシミュレーションを行うには計算機自体よりもアプリケーションを購入する方が高いため、オープンソースであったり、ローコストで導入できたらいいな…と思います。

現在の弊社の計算機に対するご感想・ご意見等ございますか?

 計算機自体は、どのベンダーさんでもさほど変わりはないかもしれませんが、高度なシステムインテグレーションや迅速な対応のサポートサービスが他社との差別化になっていると思います。

製品でこれまでの計算環境と比べ、パフォーマンスは上昇しましたか?

 もちろんです。 数値でも現れていまして、例えばANSYSですと4倍の性能がでています。ANSYS以外にも使用しているものもありますが、メモリも大きいので成果に繋がっています。

導入する前にイメージされていた作業量よりも多く作業はできましたか?

 計算のやり方を根本的に変えたわけでないのですが、同じような計算を大規模にできるようになったという意味では想定通りでした。 とても役に立っています。

その他、先生の方からなにかございますか?

 計算機を置く場所(環境)について、クラスターを研究室レベルでこの規模のものを買えるようになったものの、(よい環境で)置ける場所というのがボトルネックになることがあります。
 計算機を購入したとしても設置場所としてデータセンターのような整った環境を必ずしもご用意できるわけではなく、熱問題などの観点から、そういう問題も含めたソリューションなどをご提供いただけたらと思います。
 もちろんコストの問題もあるのですが、環境設備があまり整っておらず貧弱な冷房環境や電源でも対応でき、騒音も考慮したような製品など、トータル的なソリューションをご提案いただけるようなことがあれば、今後更にマーケットも拡大するかもしれないですね。

本日は貴重なご意見、誠にありがとうございました!

加藤 大雅先生のプロフィール

  • https://www.eng.iwate-u.ac.jp/jp/profile/kato_hiromasa.html
  • 岩田大学三陸復興プロジェクトにて弊社クラスター計算機を使用
    https://www.iwate-u.ac.jp/reconstruct/s_index_kiko.shtml
  • 研究成果
    https://www.iwate-u.ac.jp/koho/letter/fukkouletter_vol18.pdf
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