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中京大学
須田 潤

第3回目のお客様インタビューは、中京大学 工学部 電気電子工学科 准教授である須田 潤先生にお話をお伺いしました。
須田研究室では、誘導体材料を利用した光デバイスの高性能化を目的として計算シミュレーションと分光実験の計算と実験の両面からの研究を行っています。

早速ですが、先生のご研究の内容をご紹介いただけますか?

 私の研究テーマは主に第一原理による大規模計算とラマン分光実験を研究手段として、酸化物結晶におけるフォノンの非調和効果です。私が研究対象としてきたのは酸化物ですが、将来的には、酸化物超伝導体の超伝導においてフォノンは重要な役割を果たしていると予想されますので、酸化物超伝導体のフォノンの非調和効果の研究を行いたいと思っております。
 これまで、誘電体材料の利用技術に注目し、計算シミュレーションと分光実験の計算と実験の両面からの研究を行っています。現在は、ロシア科学アカデミー・プロフォルフ物理学研究所のDr.Zverev氏とラマンレーザー用酸化物結晶におけるフォノンの非調和効果の研究を共同で行っています。具体的には、酸化物結晶を用いたラマンレーザーの利得の非調和効果を調べるためにフォノンシミュレーションを行っています。
 結晶のフォノンバンド計算によるラマンスペクトルの温度依存性の計算結果はラマン分光実験の結果を良く再現しております。

この研究を始めようと思われたきっかけは何でしょうか?

 以前はオプトエレクトロニクスの研究をしており、ラマン増強効果の研究を行うつもりで始めましたが、研究テーマを変更していく中で、今のフォノンの非調和効果の研究に辿り着きました。

ラマンレーザーは日常の生活においてどのあたりで実際に使われているのでしょうか?

 

 身近なものといえば、テラヘルツ用光源ですね。
踏切のセンサー部分や、PM2.5や黄砂などのレーザーライダー利用した遠隔分光測定の研究にも使われているようです。

計算と実験の両面からご研究されているとのこと、各利点やどちらも必要な理由とはどのようなことでしょうか?

 実験の良さは細かいデータが実物で見られることにあり、シミュレーションの良さは、実験では出せない部分の領域までをシミュレーションでできることにあります。
  スーパーコンピュータではバッチ処理で待たされることがありますね。今後はクラスター計算機を利用することも考えております。

計算機環境と実験環境ではコストパフォーマンスはどちらがよいとお考えですか?

 私が研究で利用する実験装置は10年以上使用できるものです。 ただ、このような物性実験をするには測定時間が意外とかかるので、徹夜で行っても1週間はかかります。このように実験は時間がかかります。計算機は高温でも人がそばにいないといけないということがないので、計算機の方が高速で良いと考えられます。

計算をして結果が出る時間と実験で結果が出る時間はどちらが速いのでしょうか?

 場合によりますが、結果だけということなら、実験の方が速いと思われます。 得られた特性の原因等の解析までを含めると明らかに計算機の方が速いです。

シミュレーションの結果と実験の結果に違いはありますか?

 結果の違いという言葉は難しいですが、計算の精度次第ということでしょうか。 どこまで計算の精度を求めるかになると思いますが、結局、同じと思っております。

どのような計算をされていらっしゃいますか?

 最近行っているのが第一原理で求められたポテンシャルパラメーターを用い、古典的な手法であるシェルモデルと組み合わせたシミュレーションを行っています。
 一方、第一原理計算のためのVASPを使用し、酸化物結晶の構造についてスパコンを使用してフォノン計算を行っております。共同利用環境のスパコンを使用し、シミュレーションを行うことにより、格段にスケールの異なる解析が短時間で可能になりました。
 私が参加している振動分光の学会では、必ずと言っていいほど、第一原理計算を用いて分子振動の解析が当たり前のように行われています。 理論と実験を行うようになったのは第一原理シミュレーションとの出会いがきっかけとなっています。

計算環境はどのようなものですか?

 現在、北海道大学情報基盤センターのスパコンとHPCシステムズさんのワークステーションの2台となります。

弊社の計算機はどのような位置づけとなりますか?

 手元の計算機というのはなくてはならないものです。
 大きな計算をスパコンで計算する場合でも、必ず手元の計算機で小さな領域の計算をしてから、スパコンを使用します。手元の計算機がなければ、スパコンが使える環境でも計算はできません。

研究の中で困難だと感じていることや課題となっていることはございますか?

 課題といいますか、複雑な構造における超高温や超高圧下の第一原理計算分子動力学が必要になりますので、第一原理計算の分子動力学の効率的な計算方法を習得していきたいです。

先生がこれからしていきたい研究テーマはございますか?

 電気工学をテーマに行っていきたいですね。
 具体的には、パワー半導体の研究を行いたいですね。例えば、シリコンカーバイトにおけるラマン分光を用いた結晶状態の研究に興味があります。 また、ラマン分光とシミュレーションの両面をやっていきたいと思っています。パワー半導体は、モーター制御等のパワーエレクトロニクスで利用されており、大手の電気機器メーカー等、国内研究機関で盛んに研究が進められています。

弊社のマシンを使用してみて、ご感想などございますか?

 特に問題なく動いています。 気になる点は熱問題だけですね。北海道では結露を心配していましたが、名古屋では気温の変化から、夏場の熱による故障を心配しています。
 また、動画を滑らかに動かすようなツールをご提案頂ければと思っています。

弊社のサポートをご利用されたことはございますか?

 あります。ネットワークカードの修理をお願いしました。
対応も良くて特に問題ありません。

過去にされていた研究のご紹介

 CaWO4結晶における音響フォノンイメージの研究。 CaWO4結晶は非常に有力なフォノン・シンチレーター材料であり、ダークマターからの粒子と音響フォノンを相互作用することによりシンチレーションを起こします。
 今後、チャレンジしてみたい研究としては、環境に関係したレーザー分光とシミュレーションの応用です。 先日、学会に行って参りましたが、レーザーライダーはPM2.5や黄砂の研究に使用されております。 また、遠方からの電気設備のメンテナンスを行うことを目的として、水素の分光技術を用いることが提案されています。そこでも、マルチスケールのシミュレーション技術が活躍できるのではと考えています。
 レーザーライダーが地球温暖化を観測するために利用されてきていますが、レーザーライダーをロケットにのせて、宇宙からの地球観測も行われる計画があると聞きます。そのようなレーザー分光の最先端分野において、ダイナミックなマルチスケールのシミュレーションをやってみたいというのもありますね。

※注釈

※超伝導とは
ある特別な材料を-100℃以下の極低温に保持すると電気抵抗が0になる現象のこと。超伝導体は中の磁力が完全に0となる(マイスナー効果)という性質を持つため、超伝導を利用した電磁石は普通の永久磁石に比べてはるかに強力な磁力線を発することができる。この磁石を動力源に利用したのがリニアモーターカーである。 その超伝導の発生の鍵となるのは「フォノン」という仮想的粒子であり、その振る舞いを明らかにすることは、学術的にも実用的にも大きな意味を持つ。

※フォノンとは
結晶を構成する原子は絶えず細かく振動しているのだが、その振動と等価な振る舞いをするように設定された仮想粒子。(結晶中の格子振動を量子化した粒子のこと。) 超伝導が起こるためには2つの電子が「クーパー対」と呼ばれるペアとなって行動する必要があるが、電子はお互いマイナスの電気を持っており、そのままではその反発によりペアを作ることができない。2つの電子がクーパー対となるためにはお互いを仲立ちして結びつける「何か」が必要であり、それがフォノンである。実際の超伝導状態では、2つの電子は電子-格子相互作用を介してお互いのフォノンを(仮想的に)交換し合うことによって引力が働き、ペアとして安定化することができる。

※ラマンレーザーとは
ラマン効果によるレーザー発振を利用したレーザー。通常、光が物質に入射すると、入射光と同じ波長の光が放出される(レイリー散乱光)のだが、入射光より少し長い波長の光もわずかに放出される(ラマン散乱光)。このラマン散乱光を利用すると、レーザー放射に必要な入力光源の波長と異なる波長の発振を起こせることができ、レーザー物質のバンド構造に依らず自由にレーザー放射波長を変化させることが(原理上)可能になる。

※ラマン効果とは
1928年、インドの物理学者チャンドラセカール・ラマンにより発見された発光現象。分子や結晶に光が入射すると、光が分子骨格や結晶格子の振動(フォノン)と相互作用して、入射した波長より少し長い波長の光が放出される。この波長の変化が物質に固有であるため、ラマン効果は物性研究だけでなく、爆破物検査、環境検査などに幅広く利用されている。

本日は興味深いお話、誠にありがとうございました!

須田 潤先生のプロフィール

  • 研究室:中京大学 須田研究室
  • 専攻分野:ラマン分光、フォノン物性、第一原理計算
  • 長期的研究テーマ:大規模計算による誘電材料の特性シミュレーション
  • 短期的研究テーマ:分子性結晶のフォノンバンドギャップによるフォノンの非調和効果
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