HPCシステムズ株式会社(本社:東京都港区、代表取締役 小野 鉄平、以下 HPCシステムズ)は、国立研究開発法人理化学研究所(以下 理研)計算科学研究センター(以下R-CCS) プロセッサ研究チームに対し、専用のFPGAクラスタを用いて量子誤り推定アルゴリズムをスケーラブルかつ高速に実現するシステムの導入と運用環境の構築を行いました。
理研R-CCSプロセッサ研究チームは、内閣府が推進するムーンショット型研究開発制度の目標6「誤り耐性型汎用量子コンピュータ」における「スケーラブルな高集積量子誤り訂正システムの開発(グラント番号: JPMJMS226A)」に参加しており、量子計算機の誤り訂正技術の実現を目指しています。
このシステムには、アイベックステクノロジー株式会社(以下 アイベックステクノロジー)が開発・製造した最新の大規模FPGA搭載アクセラレーションカードが採用されています。
△今回導入したFPGA クラスタシステムの前で撮影
左より 理研R-CCS プロセッサ研究チーム チームプリンシパル 佐野健太郎 様 / HPCシステムズ マーケティンググループ 松尾志保 /アイベックステクノロジー 営業部 アカウントマネージャー 榎本美咲 様
本取り組みについて、理研R-CCSプロセッサ研究チーム チームプリンシパル 佐野健太郎様より解説いただきました。
今回導入したFPGAクラスタは、誤り耐性量子計算機に必要となる量子誤り訂正のハードウェア研究開発に用いられます。以下のような高性能なFPGAを多数搭載したFPGAクラスタを用いることにより、従来の限界を打ち破るような成果を達することが可能となります。
最先端かつハイエンドのFPGAを導入することにより、従来よりも大きくかつ高い周波数で動作する回路を実装することができます。オンチップメモリ容量も増えていることから、メモリアクセス性能が重要なアプリケーションに対して積極的にオンチップメモリを利用することが可能となります。また、外部メモリについては高速メモリであるHBMに加え、帯域はそこそこであるが容量の大きいDDRメモリが使えることから、外部メモリに対して速度と容量の両方を要求する設計が可能となります。また、400Gbpsの帯域を持つネットワークポートがボードあたり3つ搭載されており、FPGA間等での高速なデータ通信が可能となります。これは、複数のFPGAをクラスタに束ねて高性能処理を実現する上で、重要な強みとなります。
△理研R-CCS(兵庫県神戸市)に設置されているスーパーコンピュータ「富岳」
量子コンピュータの実用化に向け、国内外で研究開発がますます活発化しています。なかでも、量子誤り推定アルゴリズムは、量子計算中に生じるエラーを推定・評価する技術として注目を集めており、量子コンピュータの信頼性を大きく左右する重要な要素となっています。
量子コンピュータは、外部環境の影響を非常に受けやすく、計算中にエラーが発生しやすいという課題を抱えています。従来のコンピュータと異なり、わずかなノイズや干渉によって演算結果が不正確になるリスクがあるため、計算の正確性を担保するためには、エラーの発生を定量的に把握し、影響を評価する仕組みが欠かせません。
こうした背景のもと、量子誤り推定アルゴリズムは、量子ビット(qubit)の挙動を解析し、どの程度のエラーが発生しているか、またそのエラーが計算結果に与える影響をどのように補正・制御すべきかを評価するための中核的技術として進化を続けています。将来的には、より高効率かつ高精度な量子誤り推定アルゴリズムの開発により、量子ビット(qubit)の誤りを自動的に検出・訂正しながら計算を進めることができる誤り耐性量子計算機(Fault-Tolerant Quantum Computer、FTQC)の実現が期待されています。
理研は、日本を代表する総合研究機関として、基礎科学から応用研究まで幅広い分野で世界をリードする成果を上げてきました。特に量子情報科学や量子コンピューティングにおいては、先進的な理論研究とハードウェア開発の両面で国際的に高い評価を受けており、産学連携や社会実装に向けた研究開発を積極的に推進しています。量子誤り訂正に関する研究は、その中核を成す分野のひとつです。
今回はその研究の加速を目指し、これまで研究・産業用途を問わず先進的なハードウェアソリューションを提供してきたアイベックステクノロジーが設計した、高速かつ柔軟な演算性能を求める最先端研究に適したFPGAボード「IPAC-1000」(製品詳細:https://www.ibextech.jp/product-solution/hw-product/ipac-1000/)と、高性能コンピューティングに特化した高度なシステムインテグレーションに強みを持つHPCシステムズが、用途や研究目的に最適化した構成設計から、導入・検証・運用支援に至るまで一貫した支援することで、高信頼かつ高効率な計算環境を実現しています。
△FPGAボード「IPAC-1000」
CPUやGPUなどの既存のアーキテクチャでは実現できないような高速・低遅延処理で、かつ研究用途など少量生産に限られる場合には、FPGAを用いた専用回路が有望です。しかしながら、専用回路の開発、そのためのソフトウェアの開発や開発環境およびシステムのメンテナンスには大きな手間がかかります。その一方で、FPGAを用いた大規模システムのような案件を担当できるような技術力や経験・実績を有するベンダー様はなかなかいらっしゃらないのが現状です。その中で、アイベックステクノロジー様、HPCシステムズ様は、FPGAを用いた研究を推進するために必要な技術的サポートや開発等を柔軟に行ってくださる、信頼のおける企業であると、感じています。研究者や学生たちの希望となるような仕事に共に取り組み、国内研究の発展にも貢献していただけることを期待しています。
IPAC-1000は2022年から3年の歳月をかけて開発いたしました。
日本国内で開発から製造まで一貫して行い、OFS(Open FPGA Stack)やoneAPIなどのソフトウェアのサポートも自社で行っています。当社の技術力に加え、親会社の日本デジタル研究所やパートナー企業の協力なしには実現できない、非常に難易度の高い製品でした。
今後も当社は技術力の研鑽を重ね、佐野先生率いるプロセッサ研究チームと連携しながら、量子計算機の誤り訂正技術をはじめとする先端研究の発展に寄与してまいります。
今回の導入は、量子計算機の誤り訂正技術の研究を加速させる重要な一歩です。
IPAC-1000は、IBEXテクノロジー様が3年の歳月をかけて開発された製品であり、その高い技術力は今回のシステム構築において重要な要素となりました。HPCシステムズにおいても、FPGAを確実に動作させるための筐体構成やネットワーク接続のバリデーションなど、数多くの技術検証を重ねてまいりました。今回、本導入を実現できたことに心より感謝申し上げます。
また、理研R-CCS プロセッサ研究チーム様の研究テーマは、「量子計算機の誤り訂正技術の実現」という非常に先進的かつ意義深い挑戦であり、今回のシステム導入を通じて、その一助となれたことを光栄に存じます。
本研究で取り組まれている量子誤り推定アルゴリズムに関する知見や技術は、HPCシステムズが目指す将来の方向性と深く関わっています。将来的には、当社の強みである量子化学計算や反応経路探索ソフトウェアの高度な機能を、量子コンピュータ上で実現することを視野に入れています。そのためにも、量子誤り訂正技術の発展を、産業応用へと結びつけるべく、継続的に取り組んでまいります。
日本で唯一の自然科学の総合研究所である理化学研究所において、次世代の「計算科学」の世界トップレベルかつ日本の中核拠点の研究センターとしての活動を目標としています。スーパーコンピュータ「富岳」に続く次世代のスーパーコンピュータに向けた研究開発のみならず、量子コンピュータなどの新たな計算技術との連携、劇的に進化する「AI for Science」に向けた基盤モデルの開発などによって得られた成果は国民生活や産業・経済の向上に役立つと期待されます。
https://www.riken.jp/research/labs/r-ccs/index.html
所 在 地:兵庫県神戸市中央区港島南町7-1-26
センター長:松岡 聡
アイベックステクノロジー株式会社は、オリジナルIP(Intellectual Property)を、マーケットニーズに対応したLSI、ボード、システム製品に提供するファブレスカンパニーです。
冠たる成果物である超低遅延対応の画像圧縮伸張技術IPは、放送市場において映像伝送装置HLDシリーズに搭載され、スポーツ中継や情報カメラなどで豊富な運用実績があります。
リアルタイム相当の映像伝送が可能であり、リモート操作等での超低遅延技術が必要とされる社会インフラ市場への展開にも注力しております。
法人名 アイベックステクノロジー株式会社https://www.ibextech.jp/
所在地 神奈川県川崎市麻生区南黒川10-1
設立 1985年
資本金 8,430万円
代表者 代表取締役社長 森田 年一
HPCシステムズは、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)分野のニッチトップ企業です。
HPC事業では、科学技術計算用高性能コンピュータとシミュレーションソフトウェア販売、科学技術計算やディープラーニング(深層学習)環境を構築するシステムインテグレーションサービス、シミュレーションソフトウェアプログラムの並列化・高速化サービス、計算化学ソフトウェア、マテリアルズ・インフォマティクスのプログラム開発・販売、受託計算サービス・科学技術研究開発支援、創薬研究開発や素材・材料研究開発分野向けサイエンスクラウドサービスをワンストップで提供しています。また、CTO事業では、顧客の用途、課題をヒアリングしながら、価格・性能・品質・高低温・防塵・防水・静電対策・過酷な環境に対する高耐久性など多種多様の対応が求められる、工場生産設備・製造装置・検査装置、制御機器や交通インフラ、自動運転、リテール店舗などのコントローラーとしての産業用コンピュータやエッジコンピュータの仕様提案から開発、生産、保守サポート、長期安定供給を実現しています。
法人名 HPCシステムズ株式会社 https://www.hpc.co.jp/
所在地 東京都港区海岸 3 丁目 9 番 15 号 LOOP-X 8 階
設立 2006 年 7 月 3 日
資本金 2 億 3,042 万円 (2025 年 3 月 31 日時点)
代表者 代表取締役 小野 鉄平