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早稲田大学
國本 雅宏

第14回目のインタビューは、早稲田大学先進理工学部 応用化学科 応用物理化学研究室 次席研究員・助教 國本 雅宏先生にお話をお伺いしました。
量子化学計算をはじめとする理論計算手法を用いることで、金属析出プロセスにおける固液界面反応を分子レベル・素過程レベルで解析し、反応場を構成する種々の因子の化学的特性に依拠した反応メカニズムを研究されています。

本日はよろしくお願いします。
早速ですが、國本先生のご研究の概要を聞かせていただけますか?

 我々は、固体と液体の境界面、これを「固液界面」と呼ぶのですが、ここでどんな化学反応が起こっているのかを研究しています。
 それがわかると、例えばメッキのように表面を加工する技術の発展や高機能なデバイスをつくるための材料づくりに寄与できたり、電池なども固液界面反応の応用例ですが、したがって、電池の性能を上げたり、といったことができるはずなんです。
 研究の仕方の例を挙げますと、例えば、金属の電極を溶液に浸けて、その電極に電気を通します。そうすると、溶液中に溶けているものが電極に集まり、そこで反応します。「これ位の電気をかければ、これ位の反応が起こる」といったことは、測ると求められますので、そういったデータから反応を考察することができます。これはいわゆる電気化学と呼ばれる分野で、我々はその体系を主に使いながら研究をしているわけですが、そういった観点から改めて言いますと、我々は電気化学をベースにして、固液界面の反応を解析する研究を進めている、ということになります。また、そうした研究を通して得られた知見を応用して、実際のデバイス開発につなげています。
 界面というものは基本的に複雑だと言われていて、例えば溶液Aと金属Bの界面反応を考える際に、これまでに研究されてきた溶液Aの知見と金属Bの知見がそのまま使えるわけではない、ということが多いですし、実際の計測も難しいです。だからこそ研究に励むわけですが、日夜四苦八苦しています。
 そんな中でも我々は、主に量子化学計算を使って界面反応をモデル化して、コンピュータで色々な物理化学的な値を計算して、測定だけではわからないその計算結果と、実際の実験結果をつきあわせながら現象を理解していこうということをやっています。

先生のご研究は実験がメインになるのですか?

 そうですね。私が所属している研究室のメインは実験になりますが、そうした実験のグループと、私のような理論計算を使って解析をするグループとに分かれて連携し合っています。ただ固液界面反応という大きなくくりで言えば、もちろん対象は共通したものです。

理論計算は、いつ頃からはじめられたのですか?

 私が計算を始めてからは9年ぐらいになります。私の所属する研究室の理論計算のテーマというのは、私が着手し始める10年くらい前からありましたので、そういう意味では、かれこれ20年近く続いてきていると言えます。もちろん対象はどんどん変わってきていまして、「固液界面反応の理論計算による解析」という大きな括りで見た場合での話になりますが。

あるテーマに対して、計算グループと実験グループとで同時に解析を進めるようなイメージでしょうか。

 そうですね。テーマの性質によって実験との関連の仕方は様々ですが、そういうやり方をしているものもあります。例えば今で言いますと、界面の分光測定と計算解析を並行させて進めています。こうした同時並行的な研究がどんどんできるようになってきていて、とても有意義だと思っています。これには、コンピュータの性能が上がり、ソフトウェアが使いやすくなってアクセスがしやすくなってきたことで、理論研究の速度が大幅に加速されてきているということが背景にあると思いますし、分光測定の精度が高くなってきているということもまた背景の一つであると思っていますが、今後もこうした実験と計算とが接近する傾向はさらに強まっていくと期待しています。
 そうした同時並行的な研究に対して、“もうすでにこういう結果がわかっているけれどもプロセスの改善のためにはもっと本質を掴まないといけない”、というように、実験的知見に対してしっかりとした理論的な説明を与えてプロセス改善につなげていく、というモチベーションで始まる研究もあります。界面での反応物のミクロな挙動は非常に追いづらいですから、こういうところに理論解析の強みの一つが生かされると考えています。

普段は計算のみをされているのですか?

 そうですね。これもテーマによるんですが、既に実験結果が出ているためにほぼ計算解析のみになるもの、計算を行った後に、実際に実験データを出しているメンバーと打合せて、それを元にまた計算を行って、と繰り返すもの、計算と実験どちらも手を動かすもの、色々あります。ただもちろん、どのテーマにしても完全に私一人で進めているテーマはなく、どれも研究室の学生さんたちとの協同作業です。

現在のご研究を通して、具体的にどういったことを実現されたいとお考えですか?

 コンピュータで計算した値を上手に応用して、実用プロセスを設計するというところまで行くのが目標です。やはりコンピュータでしかできないことというものがありまして、私が主にやっているのは量子化学の計算ですが、やはり量子化学計算でしか分からない情報というのが数多くあります。化学反応の始まりの状態や終わりの状態は測定できても、それら2つのあいだの過程をとらえるのは実験ではすごく難しいんです。 そういうものを解析できるというのが計算の非常に良いところの例です。
 また、それが解析できれば原理的には、プロセスを設計する指針になるパラメータが得られることになるわけですから、そこを最大限に活用できれば、すごく面白いなと思っていますし、今目指しているところです。
 ただしそのためには、計算されたパラメータがどういった理論に基づいてどうやって計算されたものなのか、どういう範囲で適用できるものなのか、などを理解して、そのパラメータをよく知った上で、上手に使っていく必要があります。そのあたりはすごく気をつけてます。

何か実用化された時に、そこに計算が関わっているというのは凄いことですよね?

 そうですね。多分これからどんどんそういう感じになっていくと見通しています。計算の使い方も色々あると思いますが、私のバックグラウンドはエンジニアリングですので、やはりエンジニアリング志向の使い方をしていきたいと思っています。

夢が膨らみますね。解析にはどのようなアプリケーションをご利用ですか?

 主にGaussianです。GAMESSも必要に応じて使います。ただ、そうしたアプリケーションだけですと、出てきたデータだけが頼りになってしまって、それだけだと知りたい情報がどうしてもはっきり見えないという場合がありますので、結果をポストプロセッシングするようなプログラムを必要に応じて作って使っています。同じような考えを持って、そうしたポストプロセッサコードを自作で用意してWebページなどでフリーで配布している人もいるので、それを利用する手もないことはないんですが、やっぱり自分で作ったものでないと、あるいは自分でコードの中身がわかっていないと、データの信頼性の範囲がわからなかったり、エラーを解消できなかったり、カスタマイズできなかったりするので、そういったものは自分で作るようにしました。

固液界面の計算は時間がかかりますか?

 そうですね……。ものによりますが、固液界面を扱っているので、計算しなければいけないものとして多くの金属原子と液体の分子があって、そうなると当然、時間がかかりますね。色々とモデル化の時点で工夫して、計算コストも下げるように心がけるのですが、金属を扱うのは絶対避けられないので、その分の時間、といいますか、リソースコストはかかります。もちろん金属種によって計算しやすいものとそうでないものがありますが。ただ、最近では大規模系を計算できる手法で有用なものが開発されて進化していますので、そういった手法も必要に応じて使っていくようにはしていますし、今後もどんどん取り入れていきたいと思っています。

結果が出るまでの間にどうされていますか?

 必ずしも “結果が出るまでの間”、というわけでもないですがグループの中でのディスカッションにすごく時間をかけています。計算解析では、そのモデルを考え出すのに多くの時間が要るんですよね。もちろん,周辺知識の勉強のための時間のように,どの研究の場合にも共通して必要になる時間も確保しなければいけないというのは当然ですけど、それ以外に、です。計算では、数値として答えが出たとしてもその答えに物理的な意味、化学的な意味があるかどうかというのは、最初に考えるモデルがいかに妥当であるかどうかで決まってきていて、だからこそモデルをよく考えて計算しないと、「値は出てきたけれど、それが何の意味も持っていない」、というようなことになってしまいます。
 ですから計算をする前に、仮説を立てて、ここをねらうんだという目的を明確にした上で、その目的意識に合ったモデルを考える、という手順をしっかり踏んでおく必要があります。もちろん、計算をしてみないとそのモデルが正しいかどうかわからない場合というのも少なくないですが。。。その意味では、そういった議論をする打ち合わせの機会や準備の時間は、計算するのと同等かそれ以上に大事です。時間もかなり使います。

「固液界面」の研究は、世界的に見て活発に展開されているものなのでしょうか?

 はい。やはり固液界面を扱うということはたくさんの原子を扱うことになりますので、容量の大きい計算になります。どういう風に考えて、そうした計算を少しでも低コストでできるようにするかというのは、皆さんが知恵を絞りあっているところです。私はどちらかというとそういう人たちからの発想を利用して、実プロセスの考察につなげていくという立場なのですが、そういう私のような立場の人も含めて、界面反応を計算で扱っている方は多くいると思います。特に最近はエネルギー分野がホットトピックなので、電池に関する固液界面の研究が増えてきているなという実感があります。日本だけではなくて世界中で増えてきていると思います。

学会に出て発表を聞いたりする機会は多いのでしょうか?

 計算については、電子状態理論を専門とされている共同研究先(早稲田大学 化学・生命化学科中井研究室)から最新のトピックスを伺ったり、論文を読んだりして情報収集をするんですけど、学会などで講演を聞いたりする際は「どういう計算解析のニーズがあるのか」とか、「どういうところが分かっていないのか」というところにフォーカスをあてたいと思っているので、実験系の話を聞くことの方が学会では多いです。講演を聴講する、というのももちろんですが、やはり講演だけでは現れてこない計算解析のニーズなどは、直接お話をうかがったりするなどして情報を得るようにはしています。

研究室に所属される学生さんは何名ぐらいいらっしゃるのですか?

 学部の学生さんから博士課程の学生さん、留学生の方まであわせてだいたい30人ぐらいです。その中でも私が主に関係している計算のグループは、毎年4, 5人くらいですが、だいたいそれぐらいの人数のグループが、他に5グループ、6グループあり、それぞれで実験しています。

学生さんと連携した研究ではどんなことが楽しいですか?

 私の立場でこういうことを言うのは本来おこがましいですし、ありきたりなことですが、やはり学生の皆さんの成長を実感できる瞬間に出会えるのはとても楽しいです。良い意味でも経験が浅い最初の頃というのは、当然基本的な内容を理解するところからスタートしているという段階であるわけですが、試行錯誤しながら、そして紆余曲折を経ながら自分のテーマを一定の期間続けてもらって、色々とディスカッションを重ねて……とやっていくうちに、学生さん達がキレの良い質問や指摘を、言葉の精度を正確にしてこちらに投げてくれるようになったり、手ごたえのある討論をしてくれたりするようになってきます。そういうことが実感できる瞬間に立ち会えるのは本当に嬉しいです。もちろんそれは私が何かやっているからというよりは,研究室の教授の先生のご尽力や、学生さんそれぞれの努力の賜物であるわけなんですけど。

先生のご研究におけるポリシーをお聞かせいただけますか?

 研究する時のこだわりということで言えば、こういう研究なので「うまいモデルを作る」、つまりモデルをいかに綺麗に作るかというところを、必ずしも見た目の話ではないですが、突き詰めて考えて、こういう考え方で、こういうことを狙って、このようにモデル化したんです、というところをロジカルにしたいというのがあります。そのために念入りに打ち合わせをしています。なかなか難しいといつも感じるところではあるんですが……。
 あとは、学生さんと一緒にやらせてもらっているという立場からのことで言えば、基礎的な知見を追うことの面白さを伝えられるようにするように心がけています。物事を理解すると、対象の見え方がそれまでとは全く違ってくるものだと思いますが、特に基礎的なところを理解できると、視界の広がりにより幅が出てくると思っていて、我々が取り組んでいるテーマは特にそういった内容にアクセスしやすいテーマだと思っているので、せっかくそうしたテーマをやっている以上は、そこを体験してほしいと思います。もちろん、基礎的なところを追うのと同時に、そういった知識とエンジニアリングとのつながりも理解して、知識をどのように応用に役立てていけるか、をしっかり考える必要がありますので、それは大前提の話ですが。

システムの話になりますが、現在ジョブスケジューラーにLSF(IBM Platform LSF)をお使いですが、弊社が納めさせていただいた計算機はご研究に役立てて頂けていますか?

 もちろんです。有効に活用させていただいております。学生さんは計算のことを知らずに入ってくる訳ですから、コンピュータにおいてはLinuxも触ったことがないという人が大方です。そういう人にもどんどんやってもらうわけですので、こちらで(システムのことを)複雑に考えずにジョブを投入できるというのは大変助かっています。

計算機の稼働率はどうでしょうか?

 ソフトウェアのバリエーションも整っているので、稼働率は高いです。学生さんがお休みの時以外は常に動いている状態です。

現在、計算機で解明したいと思っていることはどのようなことですか?

 固液界面反応を考える上で、電位をかけられた電極でどういう風に反応が起こっているのかというところを理解するのはまだ難しいんですが、電気化学の研究室としては、そこが一番知りたいところです。また、実験では主に水溶液を使っているわけですが、そうかといって、溶液中には反応物と水しかないという訳ではなく、液中にはナトリウムであったり、塩素や硫酸、その他色々なものが存在していますし、電気をかけたときにはそういった色々なものが電極の金属に集まっていく…我々としては、こういった成分が具体的にどういう悪さをしたり、どういう良い役割したりするのかというのをもっと深く調べていかなければいけないと思っていますし、やり始めているところです。

最後に先生から我々ベンダーに対してご要望などございましたら、お聞かせ願えますか?

 いつも色々と助けていただいていて、お蔭様で、ケミストリーに割く時間を多く確保できるようになっています。環境づくりの面でも、色々と快適な環境を提案していただいていますので、非常に円滑な研究活動の実現につながっていると思います。
 今後も、そうしたご提案を色々としていただけると嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします。

– 本日は将来が楽しみなお話をお聞かせ頂きありがとうございました。

國本 雅宏 先生のプロフィール

  • 研究室HP:
    早稲田大学 先進理工学部 応用化学科 応用物理化学研究室
  • 応用物理化学研究室 研究テーマ:
    ・ エネルギーデバイス
    ・ センシングデバイス
    ・ 磁気記録デバイス
    ・ エレクトロニクスデバイス
    ・ ナノ・マイクロファブリケーション
    ・ シリコンデバイス
    ・ 反応機構解析
  • 研究概要:
     実験では困難な解析を伴う場合の多い金属析出プロセスにおける固液界面反応を、量子化学計算をはじめとする理論計算手法を用いることで分子レベル・素過程レベルで解析し、反応場を構成する種々の因子の化学的特性に依拠した反応メカニズムを提案。
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