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工学院大学
田中 克昌

第12回目のインタビューは、九州大学 応用力学研究所 新エネルギー力学部門風工学分野の准教授を務める内田 孝紀先生にお話をお伺いしました。
九州大学発ベンチャー企業 株式会社リアムコンパクト社によって実用化された先端的数値風況シミュレータ「RIAM-COMPACT®」の開発者でもある内田先生から、RIAM-COMPACT®による最新の研究成果について、事例を交えて解説していただきました。

本日はよろしくお願いします。

スポーツ材料力学研究室にご所属されていると伺いました。「スポーツ材料力学」とは、初めて聞く分野なのですが、どのようなものか教えていただけますか。

 はい。研究室としてはその名前ですね。多分どこにもない名前で、この名前も適切かなというのは、迷うところはあるんですけどね。「材料力学」という分野は確立された学問領域としてあるのですが、その前に「スポーツ」とつけるということが良いかどうかというのは賛否あると思いますが、(学内の)どこかの研究室と名前が被ってはいけないんです(笑)
 実は材料力学研究室というのが他の先生の研究室でありまして。また材料力学に係わる色んな細かい分野もあるんですけど、ほとんどが他の研究室で使われていたため選択肢があまりなくて、それで、研究対象としてスポーツ用具を扱っている関係からこの名前を付けました。
 実は、まだ今年が1年目なんです。昨年の4月に工学院大学に着任しまして。研究室が立ち上がってまもなく1年になります。
 材料力学は、物体にどういう力が働いた時に、どう変形するとか、壊れるとかいうことを扱う学問なのですが、「スポーツ」とつけることで、学生に身近な存在だということをアピールできるかなという意図も少しありまして(笑) 学問領域的にはあまり良い名前ではないのかなというのはお話しましたが、大学全体としてもそうですし、学生にとっても、興味を持ってくれそうな名前をつけました。

また、研究テーマに掲げられている「ゴルフや野球におけるインパクト現象の解明」、「ゴルフクラブの性能評価ツールの開発」、「シューズの衝撃緩衝性能の評価」、「繰り返し衝撃に対するCFRPの疲労特性」について、これらを研究するために用いるアプリケーションはどのようなものをお使いになりますか?

 主に使用しているアプリケーションはLS-DYNAというもので、これは構造解析ソフトですから、所謂CAEのアプリケーションのひとつですね。
CAEのアプリケーションは世の中に沢山ありますが、その中でもLS-DYNAは、自動車の衝突解析でも使われるように、衝撃問題を得意としているアプリケーションになりますので、よく使っています。

研究室に入って、最初に何をやるかは決まっているのですか?まず、このテーマで研究をするとか…

 基本的には「衝撃の現象」を主に対象としていまして、スポーツですと、衝撃の局面って結構多いですね。野球のバットとボールもそうですし、ゴルフでもテニスでも同じことが言えます。あとはランニングしている時の着地も、言ってみれば地面と靴との衝突になりますので。それで、衝突中に起こっていることが、用具の性能に大きく影響することがありますので、そこにまず焦点を置いて研究を進めています。ですので、学生には衝撃を扱う上での原理というか必要となる知識がありますので、そこを勉強してもらいますね。3年生までの段階で衝撃を扱うということまでは(少し紹介ぐらいはありますけど、細かいことは)やりません。

研究室は1年とのことですが、先生はずっとこのご研究を続けられているのですか。

 そうですね。所属は変わりましたが、衝撃問題を扱うという点では、変わらずこの研究を続けています。

何年ぐらい同じテーマでご研究をされていますか?

 大学に籍を置いて15年ぐらいたちますね。工学院大学に来る前は東京工業大学にいましたが、その時から衝撃に関する研究は続けています。

スポーツ用具の性能向上に直接寄与する研究テーマですので、民間の企業と共同研究をされることがあると思うのですが、どのぐらいの段階まで一緒にやるものなのですか?

 大学の1番手が出ない部分というのは、「実際に用具を作って、売る」ということです。  ですので、我々も民間の企業さんと一緒にやらせていただくこともあるのですが、「作って売る」ということはやはりできませんので、作る前の段階の「どういう製品を開発設計したら良いか」ということに役立つ知見というか、情報を提供するというのが、この研究室のできる範囲かなと考えています。スポーツ用具などの開発を支援できるような情報を得るというところまでが我々の扱う領域かなと考えてやっています。

それは計算機でシミュレーションされるのですか?

 はい。計算機の中で材料の特性などを変えることができますので、そういうものを変えてコンピュータシミュレーションを行って、結果を見て判断するということがあります。

実際に製品化された例はありますか?

 そうですね、メーカーさんも企業秘密があるので、我々とともにやったことを最終的にどういう形に製品に反映したかというところまでは教えていただけない部分もありますが、(研究が活用された例として)ゴルフの衝突を例にあげますと、ボールとクラブがぶつかっている時間って0.5ミリ秒しかないのです。ですから絶対に人間の目では追えないですよね。ぶつかっている間にボールがどういう風に変形して、どのように飛ぶかといったことは、0.5ミリ秒という非常に短い時間の中で起こっている現象ですので、まず追えないのです。
 ですので、そこで何が起こっているのかということを明らかにしてあげようというところからやります。ですから、その時はコンピュータシミュレーションではなくて、実験でこの「瞬間」にどうなっているのかというのを,可能な限り詳細に観察することからまずやります。

カメラで撮影するのですか?

 はい。高速のビデオカメラが今は物凄く性能が良くなっていますので。それこそ1秒間に1万~2万コマ撮ったりします。ボールがぶつかった後にどういう風に変形して、どんな風に復元して飛んでゆくか。で、飛ぶ時には回転して飛びますので、どういう風にしてスピンが発生してゆくかということを調べます。
 それを踏まえて、では、0.5ミリ秒という短い時間の現象を、実験だけで全てわかるかというと、どうしてもやっぱり計測できる情報というのはすごく限られてきます。ボールがどういう風に飛んでゆくか、どんな風にして変形しているかというのはカメラでわかりますが、どれぐらい力を受けているかということを知ろうと思うと、そんなに簡単にはわからないんですよね。というのも、ゴルフで(クラブとボールが)衝突する時、その衝撃力はピークで1トンあります。それが短い間でかかります。直接、力を測るセンサーをつけてもいいのですが、大体センサーが壊れてしまうんですよ。そうするとどうしてもそこで得られる情報は限られてしまいますので、その部分はコンピュータシミュレーションのほうから探ってあげようということをしています。ですので、その時にぶつかっている現象というのをコンピュータモデルとして表現しようということで、私達の場合ですと有限要素法という原理をつかってやるのですが、そういった形でモデルを作って、実際に起きているボールの変形などをモデル化してあげます。その時に、精度が低いモデルだと、結局そこから得られる結果の信頼性はどうしても低くなってしまいますので、なるべく精度が高いモデルを作りたいというのがあります。ですので、まずは実験をやって、実験をちゃんと忠実に再現してくれるモデルをまず作るというところから入ります。それが出来てから、例えばボールのここの部分の材質をちょっと変えてあげたら、どんな風に変わっていくのだろうかと…より飛ぶだろうか、より方向を良くするとか、そういうことをコンピュータで計算しています。
 我々がコンピュータシミュレーションを行う上で、目的としては2つありまして、1つ目は先ほど申し上げましたように、衝突の現象は非常に短い時間に起きていますので、そこでなにが起きているのかというのがなかなか分かっていない。なので、それを解明してあげようというのが一つです。
2つ目は、そのモデルができた先の話で、それを使ってどういう材料や形状にしてあげれば、ボールならより飛ぶようになるとか、バットならより飛ばせるようになるとか、そういった形の研究です。あとは、用具の性能を評価しようという時に、常に試作品を作って実験をしないと確認できないとなると非常に時間とコストがかかってしまいますので、シミュレーションを活用しています。

高速度ビデオカメラで撮影した画像
実験を再現した有限要素解析結果

材料力学という分野で、スポーツに焦点をあてた理由はなんですか?

 私自身、スポーツを学生の頃からやってきているというのがありまして。中学まではサッカー、高校、大学は陸上競技をやっていました。

ゴルフもされますか?

 ゴルフはやらないです。ゴルフの研究をしているのなら、プレーも絶対やるべきだという方と、やらないほうがいいという方と両方いらっしゃいます。やらないほうがいいとおっしゃる方は、やると先入観が入るからという意見です。私は、どちらかというと先入観が入るのが嫌なのでやらないです。と表向きは言っていますけど(笑) 本音としましては、ゴルフはいつになってもできるだろうと。何歳からでもできるスポーツですので。あとお金がかかるじゃないですか(笑)

材料の良さというか性能の良さというのはプレーにどれぐらい貢献できるものでしょうか。例えば、スピード社の開発したレーザーレーサーなどは有名ですが。

 基本的にスポーツ用具に使われている材料自体が時代とともに変化してきているんです。ゴルフクラブで言えば、昔は木だったんですよね。柿の木を使っていました。パーシモンと言われるものがそうです。硬い木だそうで、それが使われてきて、そこから金属に変わって、また金属の中でも最初は鉄だったんですけど、鉄だと重いので、それよりも軽くて強いということでチタンが使われました。あとは、ゴルフクラブはボールを打つヘッドの部分と、握るシャフトの部分とありますが、シャフトは木から金属材料に変わって、今は炭素繊維が使われるようになってきています。 それによって、従来300ヤードしか飛ばなかったのが350ヤード飛ぶようになったとか、変わってきているところは、確実にプレーの向上に繋がってきていると思います。
 ただ、スポーツ用具の難しいところは、例えば石川遼くんが使っているクラブを普通のお父さんが使って同じプレーができるかといったら、それは絶対無理じゃないですか(笑) 結局、そのクラブを使いこなせるか否かはやはりプレイヤーのスキルによっても影響を受けてきますので、こういう人にはこういうクラブが合います、片やこういう人にはこっちのクラブがいいです、といったことが絶対にあると思うんですよ。ですので、今まではより軽くしましょうとか、より強くしましょうとか、ある一方向で製品の開発をしていってもある程度のものはできてきていると思うんですけど、でもやはりそれを使いこなすのは人間ですので、その人にとって合うか合わないか、使えるか使えないかというところが大事になってくると思うんですよね。実は、そこはまだ私の今の研究では扱いきれていないので、今後の流れとしては、そういう方向をどういう風にやっていったらいいかというところですかね。

材料だけではなくて人の癖とかも取り入れていくということですね?

 そうですね。人の動きとその動きによる用具の挙動も取り入れて評価していかないといけないと思います。だからヤンキースのイチローが使っているバットを少年野球の子たちが使えば、あれだけヒットを打てるかといえば打てないので。(繰り返しになりますが、)スポーツ用具の難しいところは、例えば車とかですと、エンジンだったら出力とか燃費とかどんどんあげようとか、ある一つの性能だけを突き詰めていけば、どんどん良くなっていくというところに持っていけると思うのですが、どうしても人間により近い対象になってくると、やっぱりなかなかその方向性だけで良し悪しが決まらないというのが難しいところです。
 あとはルールが伴ってきますので。プロ野球のボールで問題になりましたけど、反発が低すぎてホームランが打てなくなってしまったりなど…(笑) ゴルフでいえばとにかく反発は抑えよう抑えようとしていますし、水泳で言えば先ほどレーザーレーサーのお話が上がりましたが、それが規制されたりとか。やはり、良すぎてしまうと面白くないので。
 スキージャンプではウェアのダボダボさ加減とかもルールで決まっているんです。体に対してどれだけダボダボで良いということであれば、それこそ腕に布を貼ると空気抵抗が増えますよね?だからここに対して何パーセントまでしかダメといったルールがあるんです。あとは使われる布の空気の通気性まで規定されています。

奥が深いですね。どこまで関わって良いのかというのが、ご研究の難しいところかも知れませんね。何かが製品化された時に、その工程で係わることができるというのは嬉しいですよね?

 そうですね。2020年のオリンピックが東京に決まりましたが、それに向けてなにか関われたら非常にうれしいなと思ってはいます。ゴルフに関しては、リオのオリンピックから正式競技になるんですよね。そういう意味ではなにかできたらいいなぁと思います。

メーカーさんとの共同研究についてですが、学会で発表されていますか?

 はい。日本機械学会が母体となっている組織が複数ありまして、材料力学という組織も当然ありますし、流体力学もあります。約25の組織があるのですが、その中にスポーツ関係を扱っている「スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス専門会議」という組織があります。そこは基本的にスポーツ用具とか人の動きとかを工学の視点で扱いましょうという組織で、その中で研究発表をやっています。あとは、(日本機械学会の)全体が集まる年次大会と、それ以外にも各部門が開催しているイベントがありますので、関連があれば不定期になりますが行くこともあります。

学会とは別に、メーカーが主催するCAE関連のイベントにも参加されていますか?

 はい。各アプリケーションのユーザーミーティングがありますよね?大体が東京か名古屋か大阪で開催されていますが、タイミングが合えば行って情報を集めたりしています。

ご研究を通して果たしたい夢はありますか?

 最終的に、我々は「作って、売る」ということはできませんので、開発設計の段階で我々が得たものが反映されて、実際に製品化がされて、スポーツに取り組んでくれる人が増えてくれたらいいなと思います。
 日本のスポーツは、「体育」が起源になっているところがあるので、あまり運動が好きじゃないという人が多くいますよね?スポーツは苦しいから嫌だと。それは、「体育」が軍事(訓練)からきているからだと思います。スポーツは苦しいものだという概念があるようですね。
 海外ではスポーツって各地域にクラブチームがあって、小学校に入る前の小さい子供から、高齢者までみんなが施設を使ってスポーツを楽しんでいるという文化が一つあります。その中には例えばオリンピック選手がいたりとかして、スポーツが生活の中に根付いているところがあります。日本はどうしてもまだ、スポーツをやるということは根付いていなくて、観るのはプロ野球とかJリーグとかあるのですが、そうではなくて、みんながスポーツをやって楽しめるようになればいいなぁと思います。
 ですので、オリンピック選手を目指すような人のために特化して色んな開発をするというのも一つの方向だと思うのですが、広く普及するということになると、そうではないコンセプトの開発が必要になってくると思いますので、そういう方向も大事かなと思います。ですから、我々が得たものがうまく活用されてみんなが楽しめるような用具が開発されたらうれしいなというのがありますね。なかなか難しいですけど(笑)

この研究分野はどの国が進んでいますか?

 スポーツ用具を工学的に扱おうということを組織立てて始めたのは、日本とイギリスがほぼ同時です。ただ、どうしても日本語の発信よりも英語の発信のほうが世界的には広まりますので、やはりイギリスのほうが先と見られていますけど。

そうだったんですね。日本は最初の段階から関わっていたんですね。

 はい。スポーツを工学的に扱う組織として、International Sports Engineering Association(ISEA)という学会組織がありまして。本部はイギリスのシェフィールドにあるのですが、それは2年に1回国際会議があって、世界から(研究者が)集まっています。今はこの分野の研究は、アメリカは勿論、オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリア、スペインといった国々でも盛んに行われています。

どれぐらいの歴史があるものですか?

 ISEAが一番最初に国際会議を開催したのが、1996年。日本もほぼそれと同時期にこういう組織を立ち上げて、国内での研究発表会を始めています。

ご研究を始められてから今現在に至るまでに計算環境で変わってきたと感じる部分はありますか?

 計算機は劇的に変わってきていますよね。例えば、ボールひとつとっても、かつては二次元の、いわゆる円で扱っていたものが、ちゃんと今は三次元の球として扱えるように変わってきていますし、そこはコンピュータシミュレーションで劇的に変わってきていますね。あとは、「流れ」ですかね。流れというのは水泳で言えば水の流れがどうなっているかとか、ボールならフォークボールがなぜ落ちるのかとか、そういったことがより詳細に見られるようになったとか。そういうところは確実に進化していますね。
 あと、自分の(研究)領域で言えば、以前はゴルフの衝突の部分しか扱えなかったものが、スイングしはじめてから、クラブがどんな風なしなり方をしているか、ねじれているかというのも、なかなかそれは実験から計測するというのは難しいことですので、そういうのを全部コンピュータの中でシミュレーションして、どうなっているかというのを予測するようになりました。研究で扱う範囲が広範囲に渡るようになりました。それは計算機の性能が上がったのが大きいです。

さきほどゴルフとクラブの衝突についてご説明いただきましたが、ゴルフでは止まっているボールを、野球の場合は飛んでくるボールを打つという違いがありますよね?衝撃はどちらが大きいのでしょうか?また、解析手法に違いはありますか?

 衝撃の大きさでは、(軟式野球でのデータですが)ボールとバットの衝撃のほうが大きいです。ゴルフボールよりも軟式ボールのほうが重いので、どうしてもその分だけ力が大きくなりますし、ゴルフの場合ですと止まっているものに対して振って打ちますので、速度としては、クラブのほうの速度だけが影響しますが、野球の場合は飛んできたものをバットを振って打ちますので、ぶつかるときの速度で言うとボールの速度とバットの速度とを足しあわせた速度になりますので、衝突する速度は野球の方が大きいんですよね。
 ですので、衝撃力としては、野球のほうが大きい傾向があります。コンピュータで扱う上では、計算の条件をどう与えるかの違いだけですので、そこの扱いに関しては、大きな違いはないです。ただ、実験となると全然違います。

実験はどこでされるのですか?

 実験室がありますので、そこでできる範囲の実験であればやります。できない場合は外へ出ます。ゴルフだと、飛んでいってどこの地点に落ちたかまでちゃんとやろうとするとかなり広い場所が必要になりますが、我々が扱っているのはボールがどれだけ飛び出すか、ボールの速度とか角度とか、どのような回転をもって飛ぶかというのがわかればいいというのが対象ですので、(ボールを受け止める)ネットさえつけてしまえば、クラブさえ振れるスペースがあればできますので。

衝撃の強さ、角度、回転などがわかれば、ボールがどこで落ちるかが計算でわかるものなんですか?

 そうですね……。まず、スイングの局面があって、衝突の局面があって、(飛んで行くのを弾道と呼ぶとすると、)弾道の局面があって、「飛んでから、ここまで」というのは、もう用具が関われないんですよ。例えば、打った時に失敗したと思って、ちょっとねじったりしてみても間に合わないんですよね。離れてしまったら、どう飛んで行くかはその時の気温ですとか気圧ですとか風の向きとか風速とか、そういうもので決まってしまうので、ここの部分は機械工学の分野で言うと流体力学の分野になるんです。ここでボールが空気抵抗をどれだけ受けているかとか、空気の流れによってどういう作用をうけてどの方向に飛んでいってしまうとか、どれだけの距離までのびるとか、そこはまた全く別の研究領域になります。私の場合、この領域は研究の対象外になります。

ひとつのスポーツでこんなにも多くの研究が活かされるものなんですね。

 そうですね。ゴルフボールには表面に小さい凸凹がありますよね?ディンプルと言うのですが、あれは特許の塊なんですよ。各メーカーがこぞって特許を競っているんです。あれによって基本的に空気抵抗を減らせます。それで飛びやすくしています。そこは完全に流体力学の人たちが計算をして、どういうディンプルのデザインにしたら飛ぶんだろうかというのをやっていると思います。

ご研究をされていて、想定と大きく違って驚いたことなどはありますか?

 基本的にそんなことばっかりですね(笑) 特に、研究対象が衝撃なので、普段目で見えないじゃないですか?それが初めて高速のビデオカメラとかで見えるようにした時に、「あぁ、こんなことが起こっているんだ」っていうのは結構あります。ゴルフボールでも元々の直径から3分の1ぐらい変形しています。一方で、プロ野球選手がバットの“しなり”を活かして打っていますといったコメントをされることがあるんですけど、実は野球のバットはしなっていないこともわかりました(笑) 感覚的にスイングで加速してきてバットがしなってボールを打っていて、そのしなりが戻ってきてボールと当たればよく飛ぶというイメージでプレーしていると思うんですけど、調べるとしなっていないんです。
 勿論、ボールとぶつかった後はしなりますけど、振ってくる間にしなるということはないんです。それも計測するとよくわかります。
 結構、自分たちがイメージしているものと違うことはあります。どうしても目に見えないことが多いので、実際に計測してみると、こんな風になっているんだと驚かされることがよくあります。

ご研究の対象となるスポーツは主に野球とゴルフですか?

はい。主に野球とゴルフですね。それでもボールとバットとクラブがあります。

これから増える可能性はありますか?

 そうですね。衝撃を扱っていますので、それに関わるものは(色々と)あると思います。
 では、いままでなぜ野球とかゴルフを中心にやってきたかというと、その理由のひとつには、(お金の話をすると)マーケットの規模が大きいからです。ゴルフは(最近は小学生でもやりつつありますけど)基本おじさんのスポーツですよね。イメージとしては。ゴルフクラブは良い物になると1本10万円近くしますし、そういう意味でもマーケットの規模が大きいんです。
 なので研究対象とした時に扱ってもらいやすいというのがあります。人気があってもマーケットが小さいとどうしても……特に我々大学の場合ですとモノを作れませんので、何か研究をやろうと思った時に、例えば試作品を作ってもらうとか、何か試料を提供してもらうとかする時に、メーカーさんが魅力的に感じるものとなるとマーケットの規模が大きいものにどうしてもなってしますので。ですので、今のところは野球とゴルフです。
 ゴルフのボールは中が詰まっているのに対して、軟式の野球ボールは空洞になっていて、今丁度扱い始めているんですけど、これができるようになれば、テニスボールやサッカーボールも中が空気ですので、そういうところに範囲を広げてゆくことができるかなとは思います。まだ研究室の規模が小さいのでそんなに沢山できないのですが、来年度以降は扱えるものがちょっとずつ増えていくとは思います。

弊社からご導入いただいた計算機はご研究のお役に立てていますか? 

勿論役に立っています。ジョブ管理ソフトもあわせて入れてもらいましたが、複数の利用者で解析をしますので、空き状況や計算の優先度が確認できて助かっています。

さらに計算環境を良くするために、我々計算機ベンダーに期待することはありますか? 

 計算で扱う対象が増えて、計算規模が大きくなってきていますので、どうしても計算時間がかかってきています。それが短縮されればいいなと思います。ありふれた要望ではありますが。

大規模な計算を実行するために計算機センターを利用されることはありますか。

 今のところは無いですね。ただ、今はワークステーションでLS-DYNAを使っていますが、クラスターで使うとなるとライセンス形態が変わって、ライセンス料が今と変わってきてしまいますので一番いいのは大学のコンピュータセンターにLS-DYNAを入れてもらうことなのですが、そんなに大学の中で広く使われているものではないので難しいでしょうね。

今年1年目の研究室とのことですが、学生さんの教育で心がけていることはありますか?

 そうですね、特に今年1年目は、どうしても研究室の体制を作るだけで手一杯でしたので十分な教育ができなかった部分はあるんですけど、心がけていることは、コンピュータシミュレーションで出てきた結果が正しいのか、間違っているのか、どの程度の精度があるのかというのは、前段階の知識がないと判断ができませんので、計算をやった結果の吟味がちゃんとできるように、例えば実験だったらこういう現象が起きているからこうだとか、そういう結果が得られるのは、何が影響しているからそういう結果になっているんだということは、きちっと考えさせるようにはしていますね。
 そうしないと、「何か結果が出ました。でもこれが良いかどうかはさっぱりわかりません。」だと、どう使っていいのかというのが判断できませんので。

最後に、学生さん向けに研究室をアピールしていただけますか?

 計算がある程度主体になっている部分もありますが、計算だけではなくて、前段階の現象を実験でも確かめていますので、計測のノウハウもちゃんとあった上で計算をきちっとやっているところは一つの売りとなっています。
 我々の作るモデルは、基本的に精度も出すモデルを心がけています。計算機はA、B、Cと対象があれば比較を相対的にするというのが通常の使い方ですし、それが本来だとは思っているんですけど、どうしてもスポーツ用具ではルールの規制が入ってきますので、ルールの範囲内でより良くしなければいけないとなった時に、ある程度、定量的に、数値の部分の精度もないと、なかなか開発に活かしていくことが難しくなってしまいますので、そこで精度をきっちり出すところもアピールできるところです。

– 先生の夢が実現することを願っています!本日は大変有意義なお話をたくさんお聞かせ頂きありがとうございました。

田中 克昌 先生のプロフィール

  • 研究室HP:
     工学院大学 工学部 機械工学科 スポーツ材料力学研究室
  • 研究テーマ:
    ・ゴルフや野球におけるインパクト現象の解明
    ・ゴルフクラブの性能評価ツールの開発
    ・シューズの衝撃緩衝性能の評価
    ・繰り返し衝撃に対するCFRPの疲労特性
  • 研究概要:
     スポーツ用具,設備,施設などのハードウェアの高性能化と安全性および快適性を追求することにより,人々の豊かな生活を実現し,社会福祉の向上に貢献することを目的とする研究
  • セールスポイント:
     スポーツには,物体と物体が短時間でぶつかるような衝撃の局面が多く存在します。この目では追えない一瞬の間に生じている現象が,ハードウェアの性能を左右することがあり,これを研究対象とし、このときの現象を高速度撮影による実験的手法などによって計測することや,コンピュータ上で予測する解析モデリング技術を活用することによって明らかにし,研究成果を社会に還元していくことを目指しています。
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