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和歌山大学
中西 和郎

"第10回目のインタビューは、和歌山大学 システム工学部 精密物質学科 構造有機化学研究室の教授である中西 和朗先生にお話をお伺いしました。
中西研究グループでは、実験に先立ち理論計算による予想を行う「計算先導」という手法を用いて、有機化学物の研究を進められています。
長年にわたって計算化学に携わられた立場から、これから計算を始めたいと考えている方に向けて、大変有意義なお話をいただきました。"

本日はよろしくお願いします。中西先生の研究室では「実験および理論の連携と融合による新規有機化学研究法の確立と弱い相互作用への応用」をテーマにご研究されていらっしゃるということを拝見いたしました。いくつか研究テーマをお持ちで、共同研究もされておられるようですが、その中で代表的なご研究内容についてお聞かせいただけますか?

 研究は、主として「弱い相互作用の研究」と「NMRの解析法の研究」の2本立てで行っています。
 もともと酸素ラジカルに対する硫黄の隣接基関与(相互作用)を研究していたのですが、この研究の流れの中で、「硫黄をセレンに変えてみたらどうか?」と思い、実験を行ったところ、硫黄の場合とは異なる色々な結果が観測できました。この成果に基づいて、有機セレン化合物を用いて、いわゆる「弱い相互作用」の研究を本格的に開始することができました。これが第1の研究テーマです。
 またこのテーマを推進する手段として、NMRを多用してきました。幸い、Se核はNMR活性であるため、合成した有機セレン化合物の構造や動的挙動を直接観測できるという利点があります。私どもは、77Se NMRを単に研究手段として用いるのではなく、NMRスペクトルの分子軌道に立脚した新規な解析法の研究にも取り掛かりました。ここでは便宜的に、化学における結合や相互作用を強い相互作用(古典的な化学結合)に、それ以外は弱い相互作用に大別しておきます。前者は分子等の骨格を形成するのに対して、後者は微細な構造決定や機能発現の因子となるという認識で(お話を)進めさせていただきます。
 この研究を始めた頃は、有機化学という観点から、弱い相互作用を単なる現象でとらえるのではなく、その要因を直接的に解析した研究例は少なく、「どのようにしたらこの様な相互作用を解析できるのか?」という課題に直面しました。弱い相互作用は時として文字通り極めて弱いため、実験結果のみでは解析しきれない一面があります。この問題を解決するためには、計算を併用して行わないと捉えることができないという結論に至り、その頃から計算を行うようになりました。
 例えば、「ある分子において、ある配座が優先するが、その理由は何か?」という問題に対して、「ある分子に弱い相互作用が働き、その結果、配座間にほんの少しエネルギー差が生じたため。」という仮説を立て、それを計算でフォローするという研究手法を実行しました。実験結果に計算を加味しつつ、研究を続けていくうちに、これらの理由も説明できるようになってきました。
 皆様もご存知のことと思いますが、私は理論化学の専門家ではなく、実験化学者です。しかしながら、以前から「自らの実験結果を自らのイメージで解析したい。」という希望をもっておりましたので、計算化学にはずっと興味を持っておりました。本日は、実験科学者の立場から、希望や期待を含めてお話をさせていただきたいと思います。

NMRの解析は重要だと思うですが、このテーマからお聞きします。その具体的な意義はどのようなものでしょうか?

 NMRの研究の直接的なきっかけは、(当時)分子科学研究所で研究されていた岩村 秀先生のご好意で、セレン化合物のNMRを測定させて頂いたことです。また幸い、77Se NMR化学シフトの計算は、首都大学東京の波田先生のご指導とご協力を頂いて開始することができました。その結果、その解析がかなりの程度理解できる方向で研究が進み、今はNMRの化学シフトを電荷の効果、エネルギーの効果、軌道の重なりの効果に分離して解析し、その由来を説明する研究を行っています。

その意義を述べますと、例えばある実験を行います。我々化学者は、その実験の測定結果をもとに、新しい物質や新しい化学反応を生み出したいと考えるのですが、その根拠にしている測定法の1つに汎用性のあるNMR法が挙げられます。すなわち、NMRの測定結果をもとに「このような機能が出現可能ではないか?」、さらには「このような反応が進行するのではなのではないか?」と思いを巡らすことができれば、NMR法はさらに有用な研究手段になると期待されるわけです。しかしながら、NMR化学シフトを支配する因子は大変複雑に絡み合っているため、例えば、注目する核の電荷のみを考察した場合、「それは実は一方的な見方なのではないか?」、「そのファクターも重要だが、それ以外の、今無視しているファクターの中に、実は重要なものがあるのではないか?」というような疑問が出てくるわけです。そのような疑問に実験化学者の立場から可能な限り答えるためにNMR解析の研究を始めたわけです。もし、新しい解析方法を使うと「今までの解釈や原因が変わってくるのではないか?」、「今までの定説とは違う解釈があるのではないか?」と考えさせられ、すると今度は分子設計が変わってくる…。(私の研究では)そんな「新しい認識へのきっかけ」を増やすことの一助となればと思っています。
 研究というものは当たっているか当たっていないかわからないような「ちょっとした印象」がスタートとなることも多々あると思います。「直感的にこういうことが期待できそうという研究は、大概は既に他の人がやっている。だから、ここから何をやるかということが大変なことだ。…」という言葉がもう30、40年も前から言われているのですから(笑)。簡単にできそうなことは大概誰かがやられているので、人が思いつかないようなことを思いつかないとうまくいかない。そこで皆さん思いつきのきっかけが欲しいと考えているのだと思います。本当に、嘘かも知れないようなちょっとした印象でやってみようと思うこともあるので、その最初のイメージが欲しいんです。その「イメージ」作りに役立つことができれば、と思っています。

弱い相互作用について、もう少し詳しくお話をお聞かせください。

 弱い相互作用をやりはじめた一番のきっかけは、「超原子価結合」と呼ばれている一連の相互作用でした。普通、化学結合は2つの原子の間で成立するというのが古典的なイメージなのですが、3つの原子が直線的に並び、その3つの原子の間に結合が2つ…というイメージではなくて、それ全体でひとつの結合として認識されるような形式の結合があるんです。この結合の真ん中の原子の結合様式は古典的なイメージとは異なり、中心原子周辺の電子数が古典的な8個を超え、10個(またはそれ以上)となることから、超原子価結合という名前がついています。
 私たちは、先に述べましたように、硫黄やセレン、テルル化合物の構造を研究しているのですが、これらの元素を含むある分子では、4つの原子が直線性を保って安定化するという事を発見しました。この場合、4原子の結合を一塊で解釈した方がいいということで、(3つの原子の「超原子価結合」に因んで)「拡張超原子価結合」と命名しました。すなわち、我々は3原子の直線的な結合から4原子の直線的な結合へと概念を拡張したのですが、そういう感覚で見ていくと、分子中の原子が5つ、6つ、7つと(直線状に)並んだものをも合成できることが分かってきて、弱いながらも隣の分子とほとんど無限に並んでいる相互作用もこの概念で理解できることに気付きました。
 そこで、この結合をさらに詳しく調べてみようと考え、最初に行ったのはセレン4個の場合だったのですが、それから硫黄4個の場合、真ん中がSe-Seで両サイドがS、Sの場合、その逆…などといろいろやってみたら、普通では説明できないような反応性を示す系を見出しました。つまり、真ん中のS-S結合やSe-Se結合の反応性は、それらの結合の性質で決まるのではなくて、両サイドに何(の原子)が付くのかで決まっているということが分かったのです。これは通常ではありえないことと思いますが、「New Journal (of Chemistry)」という雑誌に出したら、ぜひ表紙に、と言っていただけました。ただ、その時はヨーロッパの学会に出席するための飛行機の中で対応が遅れてしまい、(あとで連絡をとって)裏表紙に載せてもらえることになりました。
 この拡張超原子価の概念は、最近、化合物の機能発現や生化学・薬学の分野においても重要な役割を果たしていることが指摘されるようになりました。

普通ではありえない分子構造とメカニズムが見つかったということですね。逆に言えば、今度はそういう現象があるのだという前提で考えれば、新しい設計や反応も可能になり、化学の新しい可能性を切り開いたことになりますね。

 そうですね。偶然ももちろんあるわけですけど、「このような現象は起こるはずだ。」といった大きな期待を持ってチャレンジすることが多々あります。「外れても仕方がない。」、「外れてもともとかな?」という感じでやることも多いと思いますが・・・。やってみて、ねらいが当たった時はとてもラッキーだなと思います。
 ただそれでも、4つ、5つと(直線状に)並んだものの中で各々の結合がどんな性質を持っているのかということをきちんとおさえたいと思い、計算を始めました。測定値は真実そのものですが、どうしてその値になるのかという理由を語ってくれません。その疑問に答えてくれつつ解析ができるというのが計算の良さの1つであると思います。

共同研究は、どのような研究をなされているのですか?

 国内外の多くの先生方と共同研究を行ってきました。代表的な共同研究としては、徳島大学・薬学部の落合先生からお話を頂いて、先生の研究室で行なっている反応の理論解析を担当させていただいたものでしょうか。それは、安定な炭化水素の反応を自在に操る可能性を秘めた反応で、ヘキサンやシクロヘキサンのような、安定で何の変哲もない炭化水素中のC-H結合がC-N結合に変わるという反応です。通常そのようなことは起こらないはずの反応が、見事に進行するわけです。
 どうしてこのようなことが起こるのか、さらにその選択性も計算化学で解析したわけです。実験的に求めた活性化エネルギーと計算で求めた活性化エネルギーが誤差の範囲と思える程度の精度で一いたしまして、こんなにうまく一致するものなのだと、我ながら驚きました。この研究はScienceに掲載していただきました。Scienceに掲載されるというのはとても名誉なことであり、科学者にとって一度は載せてみたい雑誌の1つです。そのような雑誌に掲載されるのはとても嬉しいことでした。またこの共同研究において、計算結果が、新たな実験計画をたてる一助になったこともあったようです。とても喜ばしいことと思っています。

民間企業との連携についてはいかがでしょうか?

 徳島大学の落合先生との共同研究は製薬会社さんと関わる研究といえますが、私の研究室独自で行っている研究では、主に地域企業から共同や研究協力の依頼が多くあります。具体的には、本来産業廃棄物となるような残渣中に有用な化合物が含まれているかどうかを、複雑なNMRスペクトルを解析することによって評価したり、紀州梅の梅酢中の健康成分のリサーチを依頼されたり、「目的化合物の合成法を、計算に基づいて、経路や難易の目処をたてて欲しい。」というようなお話が多くきます。
 また、和歌山市周辺の中堅の化学会社(例えば本州化学工業(株)様・新中村化学工業(株)様・日本化学工業所(株)様などですが)に、多くの卒業生が就職しております関係で、卒業生を含めて測定や解析依頼があった場合は、なるべく会社の方に測定してもらうようにしています。もちろん測定や解析を間違えてないか等のチェックやフォローは行いますが、NMR等の精密機器の測定は基本的に自分自身で測定しないと見たい所をきちんと測定できないことが多いので、このような方針を採っています。

ご研究方法として、「計算先導」という方法を取られていると伺いました。これについて教えていただけますか?

 実は私は以前、本学の教育学部に在籍しておりまして、本学にシステム工学部が設置されるに伴って現在の所属に移りました。学部新設当時はまだ学部棟がありませんでした(新設学部の1・2年は教養課程であるため、一般的には(国立大学では(新設当時))3年になる頃に建物が出来上がるようです)。しかしながら、新設の学部では、学部設置に引き続いて、大学院等の設置申請の書類作成に追われることになりました。
このことは、建物も実験室も何も無いという状況で、書類作成上の成果が求められることを意味していました。まじめに考えるとかなりきつい話です、実験室なしで成果を出さないといけなかったということは(笑)。幸い、この学部が新設された時に、システム情報学センターが併設され、大型の計算機が導入されました。その結果、本センターの先生と共同研究をする形で、計算機の空き時間を活用して計算を始めることができました。本当に助かりました。今でも感謝しております。
 このような状況の中で始めた計算でしたが、結構、性に合っていました(笑)。その後、いよいよ学生が研究室に配属され、実験を始めたわけですが、地方大学の小さい研究室ですから、「大きな研究室のように、膨大な実験量を系統的にこなしていく。」というようなことができません。とにかく、予算・場所・時間の面から、いかに効率的に研究を進めるかというのが大きなテーマとなりました。このように、必要に迫られて始めた計算に多いに助けられることになりました。計算を始めた当初は、マシンタイムのこともあって、合成した化合物や目的化合物の安定性や物性を計算していたのですが、その後、可能な限り実験をする前にあらかじめ、合成したいものの物性や反応性等(遷移状態等)を計算するという研究形態を理想と考え、それに近づける様にしてきました。そうすると、ダメなものと、いけそうなもの、かなり確率が高いもの等に分かれてきます。
 自分がやりたいことと確率が高いことが一致するとは限らないのですが、そこを全部先におさえてしまって、計算上OKだと確認してから実験をはじめるというシステムを作ったんです。それに格好をつけて「計算先導」という愛称をつけました(笑)。

面白いですね。それで「計算先導」を取り入れてからの研究効率はいかがですか?

 もちろん上がりました。「まず計算中心で論理を組み立てて、実験をすすめる。」という癖が付きました。昔は当然計算などというものが存在しなかったので、「自分では絶対いける!」というイメージで研究をスタートしていたのですが、計算先導により今は自信のあるアイデアへと変わりました。未知のものに対して、「この答えが正しいか?どうか?」という自問自答が繰り返されることも多いのですが、計算結果という後押しがあることで、勇気づけられることが多々あります。
 また学生に説明する際にも、「このことは計算で裏付けられているから。」と言うことによって説得力が向上します(笑)。もしかしたら「学者の醍醐味を味わいたいというのであれば、どっちに転ぶか分からないことをやりたい。」と思う人がいるかも知れませんが。でも、野球に例えるならば、バットをこう振りたいのなら、この筋肉を云々・・・というように、きちんとした理由を付けて説明をした方が良いといった話をよく耳にします。この頃の学生さんに説明する場合も同様で、計算結果の裏付けがあれば、説明もし易く、我々にとっても限られた予算の中で研究を進めるのに効果的な方法でした。
(林先生)
 「計算先導」の例としては、単結晶作成のための溶媒の選択に計算の結果を利用したりすることもあります。例えば、目的分子の双極子モーメントやatomic chargeの計算値を見て、「この分子は極性が強いから極性溶媒がいいかな?」とか、その逆だったら「非極性溶媒がいいかな?」とか。ある時、単結晶が全然できなくて困っていたところ、こういった計算結果からヒントを得て、結晶溶媒を替えてみたら一発で上手くいったということがありました。Grignard反応や、リチオ化反応の条件選択にも、計算結果を参考にしています。こんな感じで、いろいろ、計算結果を実験のヒントにしています。
 それから少し話は飛びますが、自分のイメージだけでは化学変化の可能性をすべて網羅することはできません?量子化学探索研究所(NPO法人)を立ち上げられた大野公一先生らの提案されているGRRM(という計算方法)を使うと、ある範囲の可能性を全部計算してくれると聞いています。それは実験化学者の立場から計算を行っている我々にとっては、願ったり叶ったりという訳です。それも含めて、計算にはとても期待しています。

実際の計算において苦労されている点はございますか?

 今現在何が足りないのかと言うと、計算をスタートさせる前のコマンド用のインプットファイルが限られていることだと思います。特に、これから計算を始めようとしている方が、そのような資料を探そうとしてもなかなか見付からない様です。山を登るために体を鍛えようみたいな本はあっても、山を効率よく乗り越えるためのHow to本がなかなか見つからない様なものですね(笑)。
 理論や計算の学会では、トレンドがわかることもありますが、情報がまとめられているようなものは存在しないということでしょうか。本を読んでなんとなく計算のイメージは湧いても、実際には、条件をどのように設定したら良いかを把握するのが困難な場合が多いように思います。

それをカバーしていくのが今後の弊社の使命かもしれません。では、これから計算を始めたいという方に向けて、アドバイスをいただけますか?

 量子化学計算を行うために、基礎を一から勉強して計算に入るというプロセスは、理想的な方法だと思います。しかしながら、例えば私は研究室の学生に対して、あえてこの難行・苦行にとらわれることをあまり薦めておりません。それよりも「ソフト(の使い方)から入って、習うより慣れろ」という方法を勧めています。それができる時代になったともいえます。
 計算を始めたいと思っておられる実験化学者の方々も量子化学の専門家になりたいわけではないのですから、ソフト(の使い方)から入る方が良いのではないでしょうか。もちろん後々、量子化学も勉強する必要に迫られてくることが多いのですが・・・。(私も)実験化学者であり、自分たちのデータを自分たちのイメージで解析するために計算を始めたのであって、理論の専門家になることを目指してはいないのです。
 最近は計算が入っている論文が多いので、自分で計算を始めてみると、ある程度は読めるようになります。読めるようになると親しみを感じて、苦手意識がなくなりますので、教育的にも良いのではないかとも考えます。(和歌山大学システム工学部では)学部学生が3年生の10月頃に、研究室に配属されるのですが、その学生全員に1年位は計算をしてもらうのが一番良いのではないかと思います。ただし大部分の学生には拒まれるのが現状ですが。
 ここ最近、実験を中心にされており、あまり計算に精通しておられない先生方から、計算を頼まれることが増えてきました。実験をされている色々な方とお話ししますと、皆さんも計算したと思っておられるようですが、計算をしてみてもイメージ通りの的確な答えが出ないことが多いようにも伺います。このような場合は、誰か頼れる適切な方に訊ねるのが一番の近道だと思います(笑)。
 自分の計算経験のみから計算が成功する秘訣を得るためには、かなり多くの計算をこなしてみないとイメージが湧かないように思います。(私の場合、)よく出席する学会が同じで、その方の研究内容も知っていて、なおかつ今まで計算をしていなかったという方から依頼された場合は、「一番知りたいことを聞かせていただき、私が行った計算結果は、全てお渡しします。」と言っています。初めから一人でやるというのはとても大変なんです。誰か頼れる人がいると言うのは大いに利用するべきですし、それはとても大切なことだと考えます。

研究を進めるにあたって、心がけていることはありますか?

 計算先導をとり入れる上で難しい部分は、計算にもいろいろとテクニックがあり、誰がやっても同じわけではないということです。例えば誤った計算方法で出した結果が、たまたま(実験結果と)合っていたとしても、このような幸運が3回以上続くことは稀であると思います。それから、計算結果に過度の期待をし過ぎるのも良くありません。要は、目盛りが1 cm幅のものさしなのに0.1 mmの誤差まで測るというのは無理ということです。いくらコンピュータでもやはりそこまでは難しいようです。
 他には、例えば偶然、測定値と計算結果が一いたしたことに対してレフリーがOKを出してしまった。論文として世に出回ってしまい、読者がそれを信じたことによって、被害が起きたこともあるように聞いています(笑)。ただ、それでも計算機がないような時代に比べれば、格段に計算によって報告される結果の信頼性は高くなっていると思います。

研究をされる中でやりがいを感じる時はどのような時ですか?

 そうですね。大きい小さいにかかわらず面白いと思ってやっているんですけど、どういう風に理解したり、説明したらいいのかな?という所が、ある説得力で説明できるようになれば、それは面白いなと思いますね。

今後、新たに取り入れたい計算はございますか?(どのような計算をしていきたいですか?)

 そうですね。大きい小さいにかかわらず面白いと思ってやっているのですが、「どういう風に理解したり、説明したらいいのかな?」というところが、説得力を持って説明できるようになれば、より面白いなと思います。例えば、弱い相互作用の解析に際して、Bader先生が提案したAIM法 (Atoms-in-Molecules method)を少し工夫して適用してみましたところ、有益な結果が得られました。一般に、AIMでは化学結合や相互作用を、対応する2原子間に現れる特異点(Bond Critical Point)における電荷密度 の2次微分 と全電子エネルギー密度 の符号によって評価・分類します。上述の工夫を発展させ、
でプロットする方法を考案したわけです。また通常、AIMでは最適化構造におけるデータに基づいて解析を行っていたのですが、着目する結合や相互作用を伸縮することに対応する摂動構造におけるデータも合わせて解析することを提案しました。この結果、最適化構造のデータからは化学結合や相互作用の静的な性質が得られ、一方、摂動構造を含めることによって解析される挙動を動的な性質として提案しました。この解析法をAIM2元関数解析法と命名し、化学結合や相互作用全体を統一的に解析し、分類して理解できる方法として評価していただき、JPCA (The Journal of Physical Chemistry A)の表紙に採用していただきました。予想以上の成果が得られてとてもやりがいがあると感じました。

弊社のサポートをご利用されたことはございますか? また、その際の対応などはいかがでしたか?

 はい。私自身はコンピュータのことには全く知らずに、計算だけやりたいという感じなので、コンピュータの初期設定等は貴社のサポートを利用させていただき、日常の管理は林先生に任せていて、一切タッチしていません(笑)。きちんとやっていただいていて、とても満足しています。
(林先生)
 昔、Gaussianのソフトを自分でインストールしたことがあって、色々と困った経験があるのですが、今はHPCシステムズさんにハード・ソフトの両面からサポートしてもらっているので、助かっています。

弊社の取り組みとしてこれまではハードウェアの構築までを行ってきましたが、現在は新たな取り組みとして「研究支援」をテーマに、実験をメインにされるご研究者様に対して量子化学・分子動力学等のセミナーを実施しています。先生は、計算支援サービスに関してご興味はございますか?

(林先生)
 面白そうですね。先ほど計算経験の少ない研究者が、計算を始めようとしたら、「誰か頼れる人」に聞いて、行うのが良いといっていましたが、その「頼れる人」に、貴社の計算支援サービスがなってくれると気軽に聞けて嬉しいことです。本当にこの分野のHow to本は見つからないので、学生さんたちにとっても良いサービスだと思います。期待しています。

こちらの「お客様インタビュー」は、学生の方々も閲覧されています。これから計算をして行く方々に向けて、この研究の魅力や伝えたいことなどはございますか?

 実験をやっている人間は、ある種の期待を持って実験を行う訳です。それで、答えというか、測定値が出る訳ですが、期待が大きいものだから、時として自分の期待を先行させて解釈する傾向にあります。しかしそれが本当に真実かどうかというのは、第三者のほうがシビアなんです(笑)。計算を(実験と)同時並行的にやっていると、計算が「第三者の目」の役割をしてくれるわけです。そうすると、あまり間違いが起こりません。普通は(実験プロセスにおける)要所要所を計算するのですが、そうではなくて、計算は計算で、可能な限り実験と同じものを走らせます。そして実験と計算の最終結果を突き合わせると、かなり客観的な解釈が成り立つと期待されます。
 もうひとつ、実験結果は数値で出てきます。でも、その内容(私はストラクチャーという言葉を使うんですけど)がどうなっているか、そのプロセス(理由)がハッキリわからないのです。つまり、実験結果は真実ですが、その数値を与える理由を語ってくれません。このような実験結果を(他の実験や研究に)応用しようとすると、その目的に応じて色々な仮定や予想をする必要があるわけです。しかし(それらが)全部合うということはなかなかないんです。でも計算は、その数値が出た理由を示してくれます。きちんとした理由があれば、あまり間違うことなくというか、高い精度で次の段階を予想できるわけです。
 化学反応の研究で昔から行われていたことの一つは、新規な化学反応が見つかったら、その反応機構を明確にすることでした。それはつまり、その反応が進行する理由や条件を明らかにすることで、反応のさらなる改良や応用を統一的に提案することにつながるわけです。そういうことを、計算が担ってくれる時代になったのだと思います。私の様な実験化学者が行う計算でも、自らの実験結果を自らのイメージで解析でき、必要に応じて精度も確保できる時代となったことを幸せに思います。
 皆さんも、理論の専門家の方が提供してくれる計算法(計算ソフト)を大いに利用して、大いに自分の実験結果を解釈したり、次の段階に応用したり、改良したりされたら良いのではないかと思います。なにより、無駄や誤解が省けます。

本日は有意義なお話をたくさんお聞かせいただきありがとうございました!

中西 和郎先生のプロフィール

  • 研究室HP:和歌山大学 システム工学部精密物質学科
  • 研究テーマ:
    実験および理論の連携と融合による新規有機化学研究法の確立と弱い相互作用への応用
  • 研究概要:
    ・計算科学を駆使した高機能性物質の開発・評価の方法論
     (計算先導)の確立
    ・拡張超原子価結合系の提案と同系の設計・構築および安定
     化因子解明とその応用
    ・NMR化学シフトの起源や配向性等の実験的・理論的解明
     と視覚化およびその応用
    ・NMR化学シフトの新規解析法の提案と応用およびNMR
     結合定数解析への適用
    ・AIM (Atoms-in-Molecules)2元関数解析法の提案と実験
     化学への応用
  • セールスポイント:
    研究の特徴として、再現性と因果関係が成立する研究法の確立があげられます。高度な合成技術に加えて、機器による高精度な測定と正確な解析を特徴として、不明な部分も量子化学計算によってより深く解明しています(計算先導と愛称)。
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