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八戸工業大学
小林 正樹

第6回目のお客様は、八戸工業大学 工学部 バイオ環境工学科 小林 正樹先生にお話をお伺いしました。
「マイクロ波」の化学反応プロセスに関するご研究をされています。電子レンジに代表されるマイクロ波を化学反応の加熱に用い、プロセスの省エネルギー化、ゼロエミッション化を目指されています。今後はマイクロ波加熱化学反応プロセスの熱流現象のコンピュータシミュレーションもご検討されています。

まずはじめに、先生の研究内容をお話いただけますか?

 マイクロ波の化学反応の研究をしています。 マイクロ波は、身近なものでは電子レンジで食品を温めるのに使われているものです。
 化学反応は大抵温めると起きやすくなるのですが、食品を温められるのであれば、化学反応の試薬も加熱できるであろうということから、最近ではマイクロ波を化学反応の加熱源として利用した研究が数多く行われています。
 マイクロ波を利用することにより、とても良いことがたくさん見つかっています。例えば、反応速度がものすごく大きくなることや、普通にお湯で温めたのでは反応しないものでも反応すること、あるいは、副生成物がたくさんできるような反応でも一つのものしかできないので、分離する必要がないこと等です。その場合には廃棄物が減りますし、分離のエネルギーがいらなくなるので省エネルギーになります。
 このような利点が色々報告されていて、これを工業的にプロセス化するにはどうしたら良いかという観点で研究を行っています。研究例の多くは純粋に化学としてのもので、新しい反応ができた、あるいは新しい材料ができた等、そういった観点でやっているのですが、私は化学工学が専門なので、プロセスとして見る立場から研究しています。
 お湯でものを温めるとまずは表面だけ温かくなりますよね?そこから中に熱が伝わってゆくのでどうしても熱い部分と冷たい部分ができるのですが、マイクロ波は電磁波で物質の中にまで浸透していきますから、均一に温めることができるという利点があります。 だけれども経験からわかるように、電子レンジで温めても温かいところと冷たいところとできますよね?そうなった場合に、温かいところと冷たいところでは、違う反応が起きる可能性があり、反応の速度も変わってくるのです。そうすると最終的な生成物はどういう状態なのか?ということが、わからなくなります。

 試験管サイズなどの比較的小さいものであれば、50℃なら50℃と温度コントロールがしやすいのですが、工業プロセスは試験管ではなく、もっと大きな装置でやりますからそういう場合にはどうしても温度や濃度の分布、あるいは流れといったものが影響してくるのです。それらを考慮した上で最終的にどうなるかというのを調べています。
 その場合には、熱流動解析をしなければいけないのではないのかと考えます。熱流動など移動現象の影響がどれぐらいあるのかというのを調べようとしています。

熱流動の計算はこれからやろうとしているということでしょうか?

 現在は実験をメインに行っていますので、今後は熱流動シミュレーションをやらないといけないと思っています。
 今やっている実験は、比較的サイズの大きいものに対してマイクロ波を当てていて、そうすると熱い部分と冷たい部分が出来る可能性があるのですが、加熱された部分は軽くなるので上にあがりますよね?その対流現象の中で反応も同時に起こることになりますが、結果的に何秒間、どのぐらいの出力で当てたらどうなるのかと。そういうことを調べています。
 実験ですと、かき混ぜて何分何秒反応させたら全体の反応率はどうでしたといったような最終的な結果しかわからないのですが、シミュレーションですと反応液中の各地点がどれぐらいの反応率になっているのか、何℃になっているのかまでわかります。今後はそういったこともやっていかないといけないなと思っています。

以前弊社からご購入いただいた計算機を現在もお使いですが、性能はいかがですか?

 はい。10年近く前ですね(笑)。2次元の計算だったらかなり速いですね。できれば次は3次元でやりたいなと思っていますけど、その場合どのぐらい時間がかかるかがまだわからないので、その時には新しいコンピューターが欲しくなるかもしれません。

研究で使われている実験の装置はどのようなものですか?

 簡単にいえば電子レンジです。専門の会社が化学反応の実験用に加工した電子レンジのようなものを装置として使っています。
 もう一つは、導波管型といって、マイクロ波を生成したところからパイプでマイクロ波を導いてきて、反応試料に対して片側だけから当たるようにしたものもあります。

電子レンジの熱はお湯で温めたものより冷めるのが早い気がするのですがいかがでしょうか?

 そうですか。もしそうだとしたら非常に面白いことだと思います。
 電子レンジで料理したものは、普通に料理したものと違うというのは聞いたことがありますね。温度だけでは判断できないものがあるのかもしれません。実際、マイクロ波による化学反応においては、同じ温度なのにお湯で温めた場合と反応速度が違うという報告があります。
 従来、反応速度というのはアレニウスの式というのがあって、温度によって決まると昔から言われているのですが、マイクロ波を使ったらそれに従わなくなってしまうということですから、現在の反応速度理論には何か抜けている部分があるのかしれません。そこは理論をメインにされている方が研究することなのかもしれないですね。

現在の研究をされるきっかけはどういった理由からでしょうか?

 学生時代、(東北大学化学工学専攻)熱流動のシミュレーションをやっていました。教員になってから、雑誌で最近マイクロ波による化学反応が面白いという記事を見まして、マイクロ波は均一加熱が利点と書いてあったのですが、経験上均一ではないこともあり…。
 均一でないものというのは、化学工学の人間にとってはとても興味深いテーマでした。純粋な化学ですと、あれとこれを混ぜて何℃で何秒間反応させれば何々ができるっていう、きれいな教科書的な法則を追求するものですが、実際のプロセスだとそうはいかなくて、必ず温度や濃度の分布もありますし、副生成物も出ますし、そういう経緯を解析したら面白いのではないかと思い、この研究を始めました。

マイクロ波の研究をはじめたのはいつ頃でしたか?

 7~8年ぐらい前でしょうか。それ以前は、主に酸化物単結晶の製造プロセスの研究をしていました。これも熱流動シミュレーションによるプロセスの検討です。

酸化物単結晶というのは日常ではどのようなものに使われているものでしょうか?

 例えば携帯電話やタッチパネル、レーザー発振素子などですね。力を加えると電気が発生する、あるいは光を吸収して電気に変える、逆に電気を光に変えるというような性質を利用しています。
 ルビーやサファイヤは酸化物単結晶のひとつです。世界で最初にレーザー光線を出したのはルビーで、ルビーは人工的に作ることもできるのです。そういったものを人工的に作るための熱流動解析ですね。

 ルビーとかサファイヤといった結晶は1500℃とか2000℃ぐらい熱をかけるとドロドロに溶けます。それらの材料を坩堝の中に詰め込んで熱をかけて溶かし、その溶けた液に種となる結晶を接触させてゆっくり引き上げていくと大きな結晶ができます。ダイヤモンドは加熱すると溶けずに炭になってしまうのでこの方法では作れません。
結晶を製造しているときのプロセスの温度分布によって結晶の形が変わるのですが、これが原子の並び方に影響してきます。
 人間は原子を指でつまんで並べることはできないですよね?人間が制御できるものは加熱するヒーターのパワーや装置の形状、あるいは反応時間などの、いわゆるスケールの大きいものだけなのです。それを原子の並び方と関係付けるのが化学工学の役割です。
 人間が操作できるものとミクロの世界をつなげる、その接点を作り上げましょうというのがこの分野の研究です。

現在小林先生の研究室では、計算をされている学生さんはいらっしゃいますか?

 今年は学生数が少し少なく、大学4年生が4名です。それもあって今年は計算をやっている学生はいませんが、近々マイクロ波加熱による化学反応の熱流動解析をやる予定です。
 現在でも熱流動解析ではないですが、手では計算出来ない方程式をコンピューターで解を見つける、ということはしています。

マイクロ波が他にも応用されている例はございますか?

 まだ工業プロセスとして一般的に確立されるところまではいっていないです。現在、それを目指して色々な企業や大学で研究がされていますが、マイクロ波で従来のものよりコストが安くできるということで実用化されているものはまだ多くないと思います。
 マイクロ波の利用に特化した学会としては日本電磁波エネルギー応用学会というのがあって、化学の研究者はもちろん、電気の研究者も所属しています。私も講演会によく参加しています。

以前は計算シミュレーションもされていたとお伺いしましたが、実験と計算の両方をされていたのでしょうか?

 その時は実験はやっていませんでした。本当は両方やるのが望ましいのですが、実験が難しいから数値計算をやるというような面もありますね。実験では容易にはわからないことを数値計算で検討していました。
 実験は事実ですよね?シミュレーションは嘘の結果が出てくる可能性がいくらでもありますので、実験と突き合わせて本当に妥当なのかを検証する。少なくともこの条件では合っているから、他の条件でも妥当性が担保されるだろうとか、基礎となる土台をどこかで合わせておくことも大切だと思います。 あるいは、実験をやっている他の研究者の情報と合わせてみることも良いと思います。

実験・計算のどちらも経験されているということで、それぞれの利点、面白さなどあれば教えていただけますか?

 私は数値計算の方がどちらかと言えば好きかなというのはありますけど、プログラムを作るのはなかなか大変ですし、完成するまではなにも結果が出ないということがあります。 だからプログラムを作っている間に実験を先行させて、わかることは調べましょうと。その後に計算という形に普通はなるでしょうね。 実験装置は程度にもよりますが、それなりになんとか作り上げてみることができます。そこから出てくる結果は実験事実ですからそれを色々検討することができます。
 シミュレーションは間違った結果が出る可能性もありますから、どこかで妥当性を検証しておかないといけないというのがあります。過去の研究者のベンチマークと合わせて同じ結果が出るかどうかとか最低限の検証はしていかないと全然間違った結果で検討することになりかねないですね。少なくとも、得られた結果を盲目的に信じるのではなく、なぜそうなるのかを科学的な観点から説明できるかどうか、そういう姿勢が大切だと思います。 しかし、実験と比べてプログラムさえできてしまえばインプット一つで結果が出てくるというところは便利ですね。なによりも、実験より詳細な情報が得られますし、実験では実現できない条件を設定して検討することもできます。
 ただ、自然界のあらゆる現象をすべて考慮して計算するというのは今の計算技術でも不可能ですよね。結果に影響のない、無視していいところはどこなのかというのも判断しないといけないところが大変です。いろいろな要因を考慮すればするほど計算は時間がかかって最終的には実行不可能になりますから。
 実験と計算シミュレーションは、好みの問題もありますが、どちらも多くの利点があると思います。

実験はどれぐらいの時間がかかるものですか?

 私の行っている実験は、1回の試行にはさほど時間はかからないです。数分から30分程度です。その後、試料を分析したりデータを解析するというのはそこまで簡単にはいかないですが。

計算で結果が出るまでの時間と比べるとどうですか?

 マイクロ波を照射して、それを分析して反応率を出すと言ったら1時間ぐらいかかりますが、計算ですと、マイクロ波の計算はまだできていないのでなんとも言えませんが、先ほどお話しした結晶製造の計算であれば一回30分ぐらいです。
 どちらが早いとか、単純に比べられるものではないのですが、御社から9年前に購入した計算機で計算した時には、その当時としては結構大規模な計算だったのですが、計算スピードはとても早いと感じました。

マイクロ波の研究で課題はありますか?

 シミュレーションをやるには必ず物性がわからないといけないのです。密度、熱伝導率、粘度・・・、それらを全てインプットしておかないと嘘の計算になってしまうので物性の把握は重要です。
 その物性がまだわからないというのがあります。特にマイクロ波の吸収ですね。どのぐらい吸収されて熱エネルギーに変わるかという吸収係数がまだわからないのです。私の大学でも調べている先生がいますが、温度によっても変わるようです。
 だからまずはわからないものは適当に入れてみてやってみます。これぐらいの範囲で吸収係数を振ってみたらこれぐらいの結果の違いがある等、そういう検討の仕方になるでしょうね。

他に今後してみたい研究はありますか?

 今はマイクロ波に手を焼いているところなのでそこまで頭が回ってないですね(笑)。 なかなか新しいことを見つけるのは大変ですが、なにか面白い題材があればチャレンジしてみたいと思っています。

今後計算機をお使いになるとしたら、どんなものをお求めになりますか?

 コンパイルや計算実行時にエラーが出る時がありますよね? 原因を探すのに結構時間がかかったりするので、その時にエラーの原因はなにかというのが簡単にわかるインターフェイスがあるといいですね。
 例えばメッシュを増やすとよくエラーが出たりするのですが、どの配列が足りないのかなど、それが他の人が作ったプログラムだったりすると、わからなくて苦労することがあります。あとは大容量、高速といったところでしょうか。

弊社のサポートはご利用されたことはございますか?

 利用したことあります。ワークステーションの電源が入らなくなった時などに利用しました。しばらく動かしていないと電源が入らなくなるという問題もあるようですね。
 機械はあまり長時間動かさないでおくのもいけないですね。サポートの対応も非常によく、大変満足しております。

経験や知識は大切だと思いますが、数値シミュレーションの研究をこれからしようとしている学生さんなどに役立つアドバイスなどございますか?

 「知識より姿勢」が大事だと思います。プログラムを見るのではなく読む…というように、逐一確認していくような細かい確認が大切だと思います。
 不等号の向きが一つ逆になっていたりするだけで全く違う結果が出てしまいます。正確な結果を出すために繊細に確認していく姿勢を怠らない…、そのような「姿勢」がこの分野においてはとても重要だと考えます。

実験室にて、化学反応の実験用に加工した電子レンジのような器具や、その他の器具を拝見させて頂きました。

本日は一つ一つ丁寧にご説明下さり、ありがとうございました。

小林 正樹 先生のプロフィール

  • 小林研究室HP:八戸工業大学 工学部 バイオ環境工学科
  • 研究内容:
    マイクロ波照射化学反応の化学工学的検討
    ・マイクロ波照射化学反応系内の熱流動シミュレーション
    ・アルコールとカルボン酸のエステル化の反応速度定数の測定
    ・アルコールとカルボン酸の混合溶液の粘度・熱膨張率・表面張力測定
    ・CZ酸化物単結晶育成プロセスに及ぼす輻射伝熱の影響
  • 作品・製品・著書:
    Global analysis of heat transfer in CZ crystal growth of oxide taking into account three-dimensional unsteady melt convection: Investigation of the coupling method between 2D and 3D models(Journal of Crystal Growth, 312 (2010)997-1004) Effect of microwave intensity on conversion of liquid-phase esterification(International Workshop on Process Intensification 2010, 74-75)
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