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宇都宮大学
杉山 均

第5回目のお客様インタビューは、宇都宮大学 工学研究科 学際先端システム学専攻教授である、杉山 均先生にお話をお伺いしました。
古典力学の中で残された最後の問題といわれている「乱流」。様々な分野から研究されていますが、乱流を精度よくリアリティがあるもので予測するために計算機を使い、大規模なシミュレーションをされています。

早速ですが、杉山先生の研究内容について教えていただけますか?

 研究内容は「乱流」です。たとえば水道がありますよね?蛇口をわずかに開けると綺麗に水の筋が通ってきれいな流れになり、蛇口を開いていくとそれがどんどん乱れてランダムに動いていきます。そのランダムな動きを予測しています。それが乱流と言われているもので、きれいな流れというのが層流となります。
この乱流というのは、古典力学の中で残された最後の問題と言われています。もちろん機械だけではなくて、化学屋さん、航空屋さん、伝熱屋さんなど色々な分野から研究がなされています。

伝熱突起まわりの乱流熱伝達解析(速度分布とヌセルト数分布)

何か一つの乱流に関してではなく、多岐にわたって研究されているのですね?

 はい。乱流モデルは基本的にひとつなのですが、それに例えば血液が入った場合は、血液は特別な流体なので、非ニュートン流体のモデルを入れ込む、というような形で計算しています。

ご研究を始められたきっかけはどのようなことですか?

 私は大学に来る前はトヨタ自動車にいました。約9年働いて母校の大学に戻ってきたのですが、この研究をはじめたきっかけとしては、とにかく「お金がない」ということもあり、お金がなくてもできる研究というのが、紙と鉛筆とパソコンがあればできる数値計算だったのです。自分でプログラムを書いて、パソコンで動かしてあげればそれなりの結果が出ますからね。

それは何時頃のお話しですか?

 34歳の時に大学に移ってきましたので、26年前になります。
 その頃プログラムを組みだし、それ以来ずっとこの研究をやっています。もちろん、途中に大型予算を獲得してレーザ・ドップラー流速計を購入できることがあったので、実験もやっていましたが、やはりお金がとてもかかるので数値計算を主にやっているのが現状です。

実験は現在もされていますか?

 普段はシミュレーションがメインですが、依頼されれば実験もやります。実験と計算いうことでは、一昨年あるメーカーから依頼されて共同研究を行ったものが、現在製品化されて商業ベースに乗りつつあります。

どのような製品ですか?

 脱気筒と言われているものです。例えば建屋の屋上がコンクリートでできている場合、その屋上は水分を多分に含んでいます。そこで、アイ・レック社がそのコンクリートにある水蒸気を脱気するための装置を製作しました。
屋上の防水層内に小さな空気層を作り、そこに蒸気をためてこの脱気筒から吸引するというものです。その実験依頼を受けたのですが、同時に、効率良く蒸気を吸収する脱気筒の形をシミュレーションで求めることを提案しました。
これは数年前に製品化をし、今それが色々なところで売られています。経産省からの支援も受けており、新聞にも紹介していただきました。大変売行きが良いと聞いています。当所は工場だけの建屋に限定していましたが、現在は一般住居向けのものも開発しています。
300㎡以下の建屋なら1つ、大きな工場ですと何個か必要です。どこに置くかというのもシミュレーションで効率的にわかるので、これも検討中です。こういった共同研究は他にも進めています。

ソーラーパネル付脱気筒外観
脱気筒の計算格子
脱気筒内の流跡線
室内空間での水素濃度の解析結果

共同研究はどのようなものですか?

経産省の資源エネルギー庁がサポートしている、水素安全対策高度化事業というものなのですが、一例としまして震災で福島の原発が水素爆発しましたよね?
 水素を安全に使用するための基盤技術の整備を、日本原子力研究開発機構がメインになって複数のグループで2年前から研究を進めています。定期的な報告会が実施され、全体的には4年計画で動いています。いくつかの研究グループから構成されていますが、水素の拡散に関する研究グループとして参画しています。

 水素だけではなく、原子炉の中には水蒸気があり、温度があり、結露もしますので、そういった現象をすべてコンピュータシミュレーションで再現して爆発に至る水素拡散のシミュレーションを作り上げようではないかということで、現在進行形で動いています。
この計算に今回の計算機を使います。 

計算機はどれぐらいの稼働率ですか?

 ほとんど毎日使っています。今も計算を3本ぐらい動かしています。停電で止まらない限りは24時間フル稼働させています。乱流は特に計算がすごくかかるもので、やはり速くて容量が大きい計算機がいります。

お使いのアプリケーションはどのようなものですか?

 メインの乱流を計算するソルバーは自分で開発したプログラムを使っています。計算結果を出力するときは可視化をしなければいけないので、AVSやField Viewといった可視化ソフトを使っています。計算格子作成にはGridgenを使用しています。

以前と比べて計算機は速くなったと思いますが、進化は感じられますか?

 はい。大分速くなりましたね。その昔は東大にアクセスして計算していたのですが、それが今では市販のコンピュータでも十分なスピードで解が得られますので、速くなっていると感じますね。 ただ、水素の拡散問題にしても、新たな現象が入ることになるんです。
 例えば先ほど言ったように水蒸気の問題、それから結露の問題も入ってくるとなると、それだけまたパラメーターも増えることになります。ですので、ディメンジョンが沢山とれて、なおかつ速いコンピュータがほしいというのは常にありますね。

魚のまわりの温度解析
魚の推進力解析(渦度分布)

シミュレーションがうまく出来る場合と実際とズレる場合とあると思いますが、その中で難しいモデルケースはありましたか?

 今まさに取り組んでいる水素の拡散問題がそうです。もちろん今までに難しいものもあり、例えば川の流れにしても実験と合わないというケースもありました。はく離乱流というのがありまして、障害物に流れがおかれた際にできる渦がどのくらいの大きさかというのがひとつの評価基準になるのですが、これが現状ではなかなか合わないというので、これも積極的に解析しています。
 三次元的に非定常で渦を巻くので予測するのがとても難しいのです。

  • 栃木県黒川(平成10年8月に氾濫)
  • 黒川氾濫時の自由水面速度解析
  • 最大流速近傍の流れと流跡動画

実験のみをされる方と計算のみをされる方もいらっしゃると思いますが、両方することで信頼性が上がるのは利点と言えますよね?

 そうですね。ですから自分で計算して実験もしたという例もあります。これは少し変わったパイプなのですが、ある企業から、伝熱促進、要するに熱を伝えやすく、なおかつ流れの抵抗が少ない管路の研究を依頼されまして、アイデアとしてこのような管路を提供しました。これを使用してレーザー・ドップラー流速計で計測をしました。それから航空分野では、2000年に私はワシントン大学におりました。Gessner先生という方がホストプロフェッサーだったのですが、その研究室ではジェットエンジンの排気口内の乱流を計測しており、その乱流をシミュレーションしたこともあります。ジェットエンジンの排気口は一般に丸い形をしていのですが、これを途中から長方形にする、という開発をやっていました。
 当時は実用化できないと思っていましたが、Raptorというボーング社とロッキード・マーティン社が開発した戦闘機が採用していました。解析結果もすでに論文として公表してあります。

  • 湾曲楕円断面管路
  • 実験用湾曲楕円断面管路
  • Circular-to-rectangular duct

分野や国境を越えて技術が応用されて行くというのは大変面白いですね。ワシントン大学で刺激を受けたことはありますか?

 これはなんだかわかりますか?フォーミュラカーというんですけど、私がワシントン大学にいた時にあちらの学生がこれを作っていたのです。実際に走るものを作って、なおかつためになるのですね。こういう教育システムは日本にはないので、2001年に帰ってきた時に学生にフォーミュラカーを作らないかということを持ちかけ、3人で立ち上げて2004年にはアメリカ大会に行ってきました。実はこの設計にも計算機を使っています。学生フォーミュラは空力特性や、エンジンに空気を取り込むインテイクと呼ばれる装置内の流動解析もしなければならないので、そこは私のプログラムを使って学生が計算しました。

ワシントン大学ではフォーミュラカーの開発が実際に科目になっているのですか?

 はい。科目になっています。日本でも大学側に単位として認めて欲しいというお願いをしましたが、当時は学生フォーミュラ自体が国内ではほとんど知られていなかったのです。一度は諦めたのですが、その後もこの活動を10数年間続け、平成21年度から当大学のものづくり創成工学センターが中心となり創成プロジェクト実践I、IIという科目で、学生のものづくりを単位として認めてくれるようになりました。この学生にフォーミュラカーを作らせる「Formula-SAE」という実践教育は、日本の自動車技術会が昔から着目しており、私が作ろうということで始めた時、国内で認知度を高め、ノウハウを共有するためにも色々な大学と共同で製作して欲しいとの依頼もあり、慶応大,武蔵工大(現東京都市大学)、明星大と共同で2001年に最初の車両を製作しました。
 そのような状況の中、第一回国内大会が2003年に富士スピードウェイで行われました。翌年の2004年にはアメリカ大会にも参加しました。それ以来国内でも急激に広がって、今では70大学ぐらい。海外からインドや韓国、タイ、中国からの参加もありアジアでのひとつの拠点になっています。

 これは自動車産業が成熟しているからだと思います。一見すると学生がフォーミュラカーを作るというのはすごい感じがしますが、実はとても素晴らしいバックアップがあり、一般企業がサポートしてくれているのです。初めは溶接機もない、定盤もない、設計もなかったために、(学校から30分ぐらいの場所にある)ホンダさんに説明して協力を仰いだところ、快諾いただき、エンジンを3台、溶接機も定盤も全て頂いたことで立ち上げることができました。ですから学生がメインで作ってはいますけど、その裏に成熟された自動車産業があるのでこのような大会が開けるのだと思います。アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストラリア、日本などという限られた所で国際大会が毎年開かれています。その時に空力特性,構成部品内の熱流体解析をしなければいけないので、計算機を使っています。徐々に大学の中でも認知度が高まりました。

車が好きな学生さんにとっては単位も取れ、やりがいのある科目になりますね。

 はい。そうだと思います。Formula-SAEをやっている学生の多くは自動車会社に就職するのですが、そうでないにしても就職がとにかく早いです。すぐに就職が決まっています。
大学というところは、学生にやりがいや夢などを与えなければいけない場だと考えます。それを感じたのはワシントン大学で、カリキュラムがすごく上手に出来ています。フォーミュラカーだけではなく、ヒューマンパワードサブマリンといって潜水艦を作らせたり、ロボットを作らせたり、バギーカーを作らせたり、それらが単位として全て認められるのです。
 なおかつ、卒業論文やマスター論文は必修ではないのです。では何に力を置くかというと、インターンシップに力を置くのです。学生が企業に行き、資格を取ってくることや、学生の自主性を重んじているところがあり、学生の中には海外に行くこともあります。こういうところで日本の教育システムとアメリカは全然違うと感じました。アメリカは学生にウェイトを置いていますが、日本はどちらかというと先生の研究にウェイトを置いていると感じます。やはり大学は学生の隠れた才能を引き出すような、そういうシステムを導入していかなければいけないと感じますね。ですからこうした実践教育というのは、学生さんたちの隠れた才能を引き出すには一番良いのではないかと思います。自分が車が好きだったということもありますが、学生のものづくりのために研究室を開放して計算機も使わせています。

  • 空力特性解析
  • 形状変更による空力特性解析
  • 煙による実車まわりの流れの可視化

先生と学生の距離が近くて良いですね。

 確かに学生とのコンタクトは密ですね。Formula-SAEの学生はそれこそ擬似社会体験をしているようなものなので、つねに報連相をしていかないといい車は作れないです。学生も企業のスポンサーからお金や部品をいただくために電話の受け答え、手紙の書き方、メールの出し方というのも教育しなければいけない。それには学生に私が手本を示さなければいけないので、時間もすごくかかります。こういうものづくりは、ロボットコンテストや鳥人間コンテストなどもあるのですが、Formula-SAEのひとつの特長は、コストも審査基準に入ることです。
 コストレポートを書かなければいけないのです。コストというのは部品でいくらかかったか、自分が人件費として旋盤で何時間かけたかというのも全部事細かく記録しておくのです。それを大会前に提出し、自動車メーカーのプロがそれを見て点数をつけるのです。

弊社を含め、計算機のベンダーに期待することはございますか?また、弊社のサポートはいかがでしょうか?

 計算機は毎年のように速くなってきているので助かっていますが、同時に現象的に難しいことがどんどん入ってくるので、総体的に計算が遅くなるというのがあります。10年前の計算を今の計算機でしたら無茶苦茶速いのですが、今の研究課題はいろんな現象がさらに入ってくるので、当然ながらコンピュータの能力もさらに上がっていってほしいというのがあります。あとは、アフターケアですね。計算機が急に止まった時に相談のってくれるとありがたいです。
 サポートに関しては、HDDの故障対応をお願いしました。対応が早くて大変満足しています。

本日は興味深いお話、誠にありがとうございました!

杉山 均先生のプロフィール

  • 研究室HP:宇都宮大学 杉山研究室
  • 研究内容:
    ・非等方性乱流モデルに関する研究
    ・非等方性乱流熱流束モデルに関する研究
    ・複雑乱流構造の熱流動数値解析
    ・自由水面を有する開水路流れの乱流構造解析
    ・複断面開水路,蛇行開水路内の乱流構造解析
    ・非ニュ-トン流体流れにおける乱流構造解析
    ・レ-ザ流速計による複雑乱流構造の計測
    ・運動量・熱・物質の同時移動現象の乱流解析
    ・Formula-SAE活動による”ものづくり”と”ひとづくり”
  • Formula-SAE活動報告:Formula-SAEプロジェクト活動報告(PDF/2.0MB)
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