ADMP

このキーワードを指定すると,Atom Centered Density Matrix Propagation 分子動力学モデル[188,189,190]を用いて古典トラジェクトリ(軌跡)計算 [177,178,179,180] を行います。この方法は,Born-Oppenheimer 分子動力学(BOMDキーワード参照)とは機能的には同等ですが,計算コストは大幅に減っています[188]。

ADMPは,分子動力学に対する拡張Lagrangianアプローチに属しており,これはガウス型基底関数を用い,密度行列を伝播させるというものです。このタイプで最もよく知られている方法は Car-Parrinello (CP) 分子動力学 [191]です。CP法はKohn-Sham 分子軌道 ψi,を系内の電子の自由度を表す動的な変数として選ぶものです。CP計算は通常は平面波基底で(ガウス基底を補助的に追加すること[394,395,396]もありますが)行われます。平面波CPとは異なり,水素原子に擬ポテンシャルを用いたり,動力学の際に水素の代わりに重水素を用いたりする必要はありません。電子の自由度に対する偽質量(fictitious mass)は自動的に決められ[188],十分にエネルギー保存させるために恒温槽を用意する必要がないほど十分小さくできます。

ADMPはAM1, PM3, HF, 純粋およびハイブリッドDFTモデルで実行できます。また,分子,クラスター,周期系に適用できます。PBC計算は Γ 点のみを用います(つまり,K積分は行いません)。

オプションインプット

ほとんどのジョブには必要ありませんが,ADMP計算にはオプションインプットを指定することができます:

[Initial velocity for atom 1: x y z             初期カーティシャン速度(オプション)  
Initial velocity for atom 2: x y z              (ReadVelocityまたはReadMWVelocityオプション)

 ... 
Initial velocity for atom N: x y z 
...]                                                             セクション全体をNTraj回繰り返す
[Atom1, Atom2, E0, Len, De, Be              各2原子間に対するモースパラメータ(オプション)

...] 空行で入力終わり

ReadVelocity または ReadMWVelocity オプションを指定すると各原子に対する初期速度を読み込みます。各初期速度は,カーティシャン速度(原子単位 (Bohr/sec) ),もしくは質量平均カーティシャン速度(amu1/2*Bohr/sec単位)で指定します。速度のある完全セットは,各指定トラジェクトリ計算のために読み込まれます。

Morseパラメータデータも各2原子間に対して指定できます。Morseパラメータデータは,EBK量子化ルールを用いた2原子フラグメントの振動励起を決めるために用いられます。このデータには,2原子の原子記号,その原子間距離 (Len, オングストローム(Å)単位),その距離のエネルギー(E0 Hartree単位),MorseカーブパラメータDe (Hartree) ,Be-1).があります。

MaxPoints=n
各トラジェクトリで取られる最大ステップ数を指定します(デフォルトは50です)。トラジェクトリジョブを再スタートさせた場合には,最大ステップ数は元の計算でのステップ数になります。

Lowdin
直交化基底にLöwdin基底を用います。直交化基底には他にCholeskiがあります。これはCholesky基底を用いるもので,デフォルトになっています。

NKE=N
初期核運動エネルギーを N microHartreeとします。NuclearKineticEnergyはこのオプションと同義です。

DKE=N
初期密度運動エネルギーを N microHartreeとします。DensityKineticEnergyはこのオプションと同義です。

ElectronMass=N
偽電子質量(fictitious electron mass)を|N/10000| amuとします。デフォルトはN=1000で,これは偽質量を0.1 amuにすることになります。EMassはこのオプションと同義です。この値をN<0にした場合,全基底関数を均一にスケールします。デフォルトでは,価電子関数より重い内殻関数に重みをかけます。

FullSCF
各点で収束させたSCFの結果で動力学を求めます。

ReadVelocity
初期カーティシャン速度を入力ストリームから読み込みます。この速度は分子と同じ対称性配向にしなければならないことに注意してください。このオプションを指定すると,5次非調和性補正を行わなくなります。

ReadMWVelocity
初期質量荷重カーティシャン速度を入力ストリームから読み込みます。この速度は分子と同じ対称性配向にしなければならないことに注意してください。このオプションを指定すると,5次非調和性補正を行わなくなります。

MaxStep=n
動力学でのステップサイズを o n*0.0001 フェムト秒とします。

BandGap
各点でバンドギャップを求めるためにFock行列を対角化します。デフォルトはNoBandGapです。

Restart
ADMP計算をチェックポイントファイルから再スタートします。元のジョブのオプションが引き続き使われます。オプションを修正することはできません。

標準的な方法を用いることにより,ADMPジョブで同位体を指定することも可能です。

全半経験的,SCF,CASSCF,MP2,DFT法

BOMD

以下のサンプル ADMPインプットファイルでは,H2CO がH2 + COに解離するトラジェクトリ計算を,遷移状態から開始します。

# B3LYP/6-31G(d) ADMP Geom=Crowd
     
Dissociation of H2CO --> H2 + CO
     
0 1
C
O 1 r1
H 1 r2 2 a
H 1 r3 3 b 2 180.
     
r1 1.15275608
r2 1.74415774
r3 1.09413376
a 114.81897892
b 49.08562961
     Final blank line

ADMP計算の開始時には,ジョブに用いられるパラメータが出力されます。

 TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ
 -------------------------------------------------------------------
 INPUT DATA FOR L121
 General parameters:
 Maximum Steps                =      50
 Random Number Generator Seed =  398465
 Time Step                    =  0.10000 femptosec
 Ficticious electronic mass   =  0.10000 amu
 MW individual basis funct.   = True
 Initial nuclear kin. energy  =  0.10000 hartree
 Initial electr. kin. energy  =  0.00000 hartree
   Initial electr. KE scheme  =  0
 Multitime step - NDtrC       =       1
 Multitime step - NDtrP       =       1
 No Thermostats chosen to control nuclear temperature

 Integration parameters:

 Follow Rxn Path (DVV)        = False
 Constraint Scheme            =      12
 Projection of angular mom.   = True
 Rotate density with nuclei   = True

分子座標と速度は各トラジェクトリステップの開始時に表示されます(ここでは出力桁数を省略してあります)。

 Cartesian coordinates:
 I= 1 X= -1.1971360D-01 Y= 0.0000000D+00 Z=  -1.0478570D+00
 I= 2 X= -1.1971360D-01 Y= 0.0000000D+00 Z=   1.1305362D+00
 I= 3 X=  2.8718451D+00 Y= 0.0000000D+00 Z=  -2.4313539D+00
 I= 4 X=  4.5350603D-01 Y= 0.0000000D+00 Z=  -3.0344227D+00
 MW Cartesian velocity:
 I= 1 X= -4.0368385D+12 Y=  1.4729976D+13 Z=  1.4109897D+14
 I= 2 X=  4.4547606D+13 Y= -6.3068948D+12 Z= -2.2951936D+14
 I= 3 X= -3.0488505D+13 Y=  6.0922004D+12 Z=  1.8527270D+14
 I= 4 X= -1.3305097D+14 Y= -3.1794401D+13 Z=  2.4220839D+14
 TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ-TRJ

トラジェクトリ計算が完了した後,サマリ情報がトラジェクトリの各タイムステップで出力されます。

 Trajectory summary for trajectory      1
 Energy/gradient evaluations           51
 Hessian evaluations                  51

 Trajectory summary
  Time (fs) Kinetic (au) Potent (au)  Delta E (au)  Delta A (h-bar)
 0.000000   0.1000000   -113.0500312  0.0000000   0.0000000000000000
 0.100000   0.0995307   -113.0495469  0.0000150   0.0000000000000003
 0.200000   0.0983706   -113.0483488  0.0000531   0.0000000000000009
 0.300000   0.0970481   -113.0469941  0.0000852   0.0000000000000021
 …

GaussView 3.0などの可視化ソフトを用いて,トラジェクトリ経路を3次元で表示させることもできます。