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Z-マトリックスに関する追加情報

このページでは,分子系の伝統的なZ-matrix記述法に関して概要を述べます。

内部座標の利用

Z-matrixの各行では,分子内のある原子についてその内部座標を定義します。最もよく用いられるZ-matrix形式は次のようなものです:

元素ラベル, 原子1, 結合距離, 原子2, 結合角, 原子3, 2面角 [, フォーマットコード]

この例ではコンマで項目を区切っていますが,任意の有効区切り文字が利用できます。元素ラベルは原子に対する元素記号またはその原子番号を指定した文字列です。元素記号を用いる場合には,その後に別の英数字文字を付けることも可能で,原子を識別するラベルとして用いられます。よく行われるやり方に,元素名の後に例えばC1, C2, …のように識別するための番号を振る方法があります。

原子1, 原子2, 原子3 はそれまでに定義した原子のラベルで,その原子の位置を定義するために用います。またラベルの代わりに,分子指定セクション内での他の原子の行番号を変数値として用いることもできます。この場合,電荷とスピン多重度の指定行を行0とします。

定義しようとする原子の位置は,その原子と原子1との結合長,その原子と原子1の結合および原子1と原子2の結合のなす角,原子1と原子2と原子3が含まれる平面と,その原子と原子1と原子2が含まれる平面が作る2面(ねじれ)角を与えることにより指定されます。結合角は0º < angle < 180ºの範囲に入っていなければなりません。2面角は任意の値を取ることができます。

オプションのフォーマットコードパラメータでは,Z-matrixインプットの形式を指定します。ここで説明する方式では,このコードは常に0となります。このコードは,ONIOM計算のように,通常のZ-matrix指定データに追加パラメータを付け加える場合にのみ必要となります。

最初の例として,過酸化水素を考えます。このZ-matrixは次のようになります:

H
O 1 0.9
O 2 1.4 1 105.0
H 3 0.9 2 105.0 1 120.0

Z-matrixの最初の行では,単に水素を指定しています。次の行では酸素原子を指定し,この酸素原子と先ほどの水素原子との核間距離が0.9Åであるとします。3行目ではもう一つの酸素を指定しており,O-O距離(つまり,原子2,片方の酸素との距離)が1.4Å,O-O-H角(原子2, 1)が105度であるとします。4行目(最後)は唯一3つの内部座標を与える必要がある行です。この行では,もう一つの水素が,2番目の酸素とH-O距離が0.9Åで結合し,H-O-O角は105度,H-O-O-H 2面角が120度であると指定しています。

変数を用いて,Z-marix内の値のうちいくつか,あるいは全てを指定することも可能です。以下に先ほどのZ-matrixの別バージョンを示します:

H
O 1 R1
O 2 R2 1 A
H 3 R1 2 A 1 D
Variables:
R1 0.9
R2 1.4
A 105.0
D 120.0

分子の対称性束縛は内部座標に反映されます。2つのH-O距離は同じ変数で指定されており,H-O-O結合角も2つとも同じ変数で指定されています。このようなZ-matrixを内部座標を用いた構造最適化(Opt=Z-matrix)で用いた場合,変数の値を最適化して最小エネルギー構造を探索することになります。完全最適化(FOpt)では,この変数は必ず線形独立となり,分子内の全自由度が含まれます。部分最適化(FOpt)では,2番目のセクション(よくConstants:とラベルが付けられます)の変数値は固定されたままで,最初のセクションの変数値が最適化されます:

Variables: R1 0.9 R2 1.4 A 105.0 Constants: D 120.0

内部座標での最適化に関する詳細な情報については,Optキーワード内の例を参照してください。

内部およびカーティシャン座標のミックス

カーティシャン座標は,次の例のように,事実上Z-matrixの特別なケースです:

C 0.00 0.00 0.00
C 0.00 0.00 1.52
H 1.02 0.00 -0.39
H -0.51 -0.88 -0.39
H -0.51 0.88 -0.39
H -1.02 0.00 1.92
H 0.51 -0.88 1.92
H 0.51 0.88 1.92

また次の例のように,同一Z-matrix内に内部座標とカーティシャン座標を両方とも用いることも可能です:

O 0 xo 0. zo
C 0 0. yc 0.
C 0 0. -yc 0.
N 0 xn 0. 0.
H 2 r1 3 a1 1 b1
H 2 r2 3 a2 1 b2
H 3 r1 2 a1 1 -b1
H 3 r2 2 a2 1 -b2
H 4 r3 2 a3 3 d3
Variables:
xo -1.
zo 0.
yc 1.
xn 1.
r1 1.08
r2 1.08
r3 1.02
a1 125.
a2 125.
d3 160.
b1 90.
b2 -90.

このZ-matrixでは,注目すべき特徴が数点あります:

  • カーティシャン座標の変数名として,内部座標変数でのやり方と同様に記号で与えています
  • 元素記号の後の整数 0で記号によるカーティシャン座標であることを示します。
  • カーティシャン座標は,2面角で行っているような符号変更ができます。

他のZ-matrixフォーマット

別のZ-matrixフォーマットとして核位置の指定で,結合角と2面角ではなく,結合角を2つ用いることもできます。これを指定するためには2番目の角度の後の追加フィールドを1とします(このフィールドのデフォルトは0であり,これは3番目の項目として2面角を用いていることを示します):

C4 O1 0.9 C2 120.3 O2 180.0 0
C5 O1 1.0 C2 110.4 C4 105.4 1
C6 O1 R C2 A1 C3 A2 1

最初の行では2面角を,後の2行では2つの結合角で指定しています。

ダミー原子の利用

このセクションでは,Z-matirx中でのダミー原子の使い方について説明します。ダミー原子は,Z-matrixでは偽元素記号X として表されます。以下の例はC3v アンモニアの3回軸をを固定するためにダミー原子を用いたものです:

N
X 1 1.
H 1 nh 2 hnx
H 1 nh 2 hnx 3 120.0
H 1 nh 2 hnx 3 -120.0
nh 1.0
hnx 70.0

軸上でのダミー原子の位置には意味はなく,用いる距離(1.0)は任意の正の数とすることができます。hnxはNH結合と3回軸間の角度です。

次にオキシランのZ-matrixを示します:

X
C1 X halfcc
O X ox C1 90.
C2 X halfcc O 90. C1 180.0
H1 C1 ch X hcc O hcco
H2 C1 ch X hcc O -hcco
H3 C2 ch X hcc O hcco
H4 C2 ch X hcc O -hcco
halfcc 0.75
ox 1.0
ch 1.08
hcc 130.0
hcco 130.0

この例では,ポイントが2点存在します。第一に,ダミー原子はC-C結合の中央に配置し,ccoが二等辺三角形になるようにしています。oxはOからC-C結合に対する垂直方向の距離となり,角oxcは90度となります。第二に,Z-matrixの中で,負の2面角変数hccoとして指定しているものがある点です。

以下の例では,直線的な結合を指定するためにダミー原子を用いています。内部座標での構造最適化では,例えばアセチレンやブタトリエンの C4 鎖のような直線分子フラグメントでみられる,180度の結合角を取り扱うことはできません。また非対称的分子のエチニル基のようなほぼ直線といった状況では最適化が困難になるかもしれません。このような場合には,結合角を2等分するようダミー原子を入れ,その半分にした角を変数もしくは定数とすることで,この問題を避けることができます。

N
C 1 cn
X 2 1. 1 90.
H 2 ch 3 90. 1 180.
cn 1.20
ch 1.06

同様に, この構造最適化用のZ-matrixでは,halfは直線に近くなると思われるNCO角の半分を表します。halfの値を90度以下にすると,cis配置に対応することになります。

N
C 1 cn
X 2 1. 1 half
O 2 co 3 half 1 180.0
H 4 oh 2 coh 3 0.0
cn 1.20
co 1.3
oh 1.0
half 80.0
coh 105.

モデルビルダによる構造指定

モデルビルダは,Gaussianの機能の一つで,いくつかの種類の分子系を簡単に指定できます。これを用いるためには,GeomキーワードのオプションにModelAまたはModelBを指定し,さらにジョブファイル内の別セクションにインプットを用意します。

モデルビルダの基本インプットはshort formula matrix (短化学式行列)と呼ばれるもので,一連の行からなり,各行では原子(元素記号で)とその結合性を最大6エントリーまでで定義します。このエントリーは,整数(その原子が結合している(定義済み)原子の行番号),元素記号(例:H, F; その原子が末端結合でつながっている原子),末端官能基シンボル(その原子が結合している官能基)のいずれかになります。現在利用可能な官能基は, OH, NH2, Me, Et, NPr, IPr, NBu, IBu, TBu. です。

また,short formula matrixでは,各結合について循環構造(rotational geometry)を次のような方法で定義します。原子XとYが指定されたと仮定します。すると,Xは行Yに現れ,Yは行Xに現れます。I を行YにあるXの右にある原子とし,J を行XにあるYの右にある原子とします。すると,原子 I と J はX-Y結合についてトランス配向に置かれます。short formula matrixではオプションの行により,生成した構造を修正することができます。以下のような行が複数ある場合には,ここで与えられた順でまとめて指定しなければなりません:

AtomGeom,I,Geom
通常,原子に関する局所構造は原子の番号と結合のタイプで決まります(例えば,メタン中の炭素は4面体型に,エチレン中のは三角状に・・・等)。ある中心の結合角は全て必ず等しくなります。AtomGeom行では,中心I.上の結合の値を変えます。Geomには角度を浮動小数点数,あるいは文字列Tetr, Pyra, Trig, Bent, Lineのうちいずれかで指定します。

BondRot,I,J,K,L,Geom
J-K 結合に関するI-JとK-L結合の配向を変えます。Geomは2面角か,または文字列Cis (≥0), Trans (≥180), Gaup (≥+60), Gaum (≥-60)のいずれかで指定します。

BondLen,I,J,NewLen
I-J結合の長さをNewLen (浮動小数点数)にします。

モデルビルダでは通常の原子価を持った原子による構造しか構築できません。ラジカルにしたい場合には,追加原子価をダミー原子を用いて「縛り付けるく(tied down)」ことで可能となります。このダミー原子は元素記号の前にマイナス符号をつけて指定します(例えば,-H)。末端元素のみがダミー原子になれます。

利用可能な2種のモデルでは,model Aは結合のタイプ(1重,2重,3重等)で結合長がアサインされますが,一方model Bは結合長は原子の種類にのみ依存する点が異なります。model BはHからClまでの全原子(HeとNeを除く)で利用可能です。model Aが指定された際に,model Aでの結合長がない原子が用いられた場合には,適切なmodel Bの結合長が代わりに用いられます。

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