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動径分布関数(RDF)とは?

分子動力学シミュレーションから得られる情報の一つが、動径分布関数(RDF, Radial Distribution Function)です。この値から溶質分子の溶媒効果や錯体金属の配位数など、さまざまな情報を得ることができます。

動径分布関数は、原子(あるいは分子)の分布を示したもので、ある原子に着目してその周囲に位置する原子の分布(存在確率)を距離 r の関数として定義されます。なお、動径分布関数 ρ(r) の単位は、原子数、分子数、密度、無限遠で1になるように規格化、など目的により異なっています。

図1. 動径分布関数。ピーク位置が平均距離、面積が配位数に対応する

動径分布関数を見る方法

実験ではX線散乱や電子散乱などを利用します。ターゲットにX線を入射して得られた回折強度を補正したのちフーリエ変換することで動径分布関数が得られます。近年では高エネルギー領域の微細構造(XAFS,EXAFS)を利用することで電子状態や配位情報などより詳細な分析が可能になり、液体や非晶質固体はもちろん、触媒・光材料・生体物質などさまざまな材料の測定が可能になっています。

しかしながら測定の難しい材料もあり、材料の全体的な描像を得るために、分子動力学シミュレーションから予測された構造モデルを並行して利用しています。

図2. X線散乱装置のイメージ
図3. 回折強度を示した散乱スペクトルから動径分布が得られる

動径分布関数からわかること

①距離や配位数がわかる

動径分布関数のピークの位置は距離を示しています。そして面積から配位数がわかります。原子は熱的にあるいは量子的に揺らいでいることに注意を向けると、その原子の存在確率や寿命などの情報も関連して考察することもできます。動径分布関数は測定したターゲットの全情報を足し合わせた平均的な情報であることにも注意しましょう。

図4. 動径分布がわかると、平均的な溶媒の距離や配位数が見えてくる

②相互作用の強さがわかる

鋭く高いピークは特定の距離に原子が居続けることを意味し、そのことから相互作用の強さが暗にわかります。水素結合など強い相互作用が見られる部分では、電子状態的にも溶媒環境の影響が大きく表れるため、相互作用解析やQM/MM計算など詳細な解析を行うためのヒントを提供してくれます。

③構造がわかる

結晶に対する動径分布関数は鋭いピークが立ち並ぶ形状をしています。一方、液体に対する動径分布関数は2,3のピークのあと緩やかに減衰して一定値となるような形状をしています。非晶質はちょうど結晶と液体の特徴を併せ持った形状の動径分布関数となります。動径分布関数には、ターゲット全体の高次の原子ネットワーク構造を特徴づける情報が折りたたまれているため、物性評価の指針として利用されることもあります。

図5. 結晶状態の動径分布関数のイメージ。液体状態と比較して長距離秩序が見られる

④温度の影響や時間変化の解析もできる

物性が温度に依存して変化する現象も、原子間の詳細な解析が可能な動径分布関数から解析することができます。また、時間分解して解析することも可能なため、化学反応過程の解析などに利用されることもあります。

まとめ

動径分布関数から得られた原子間の位置情報から、物質の特性を原子レベルで解析することができます。動径分布関数は相互作用の強さや高次構造にも関連しており、さまざまな利用の仕方があります。

動径分布関数は1次元の分布であり、物質全体の構造が見えるわけではないため、実際には様々なデータを組み合わせて総合的に解析が行われます。実験データと計算データを突き合わせて原子・分子ネットワーク構造を予測し、その構造モデルを数値解析することによってより詳細に分析をしている例もあります。

図6. Reverse Monte Carlo(RMC) や Reverse Molecular Dynamics(RMD) のフロー

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